二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- 命闘 ( No.637 )
- 日時: 2010/12/20 18:26
- 名前: 氷橙風 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)
ぐー、……ぐー、……
呑気という表現がぴったり似合うその寝息は、とても幸せそうなものだった。実際、寝息を出している娘の顔は安らかで心地良さそうで、おまけによだれ付きだ。
赤い長髪で中華服を着た娘——美鈴は、何度「無能な門番」と主人に罵られても勤務中の居眠りをやめることはなかった。それは日頃のストレスを解消する数少ない方法であり、また単に彼女が昼寝好きだからである。
「いもーとさまぁ……髪、ちぎれちゃいますってぇ……」
そこはかとなく危険な言葉が混じっているような寝言をむにゃむにゃと声に出し、
瞬間。
バシュッ——。
やけにシリアスな音をたて、美鈴の顔ギリギリの壁に深々と突き刺さった一本のナイフ。ちなみに壁は館の洋風な雰囲気に合った煉瓦造りである。
途端美鈴もさっきまでのおとぼけ顔とは一変、シリアスな顔になり、気配を探るようにして目つきを鋭くする。
傍から見れば何やってんだという感じだが、本人にとっては文字通り生死を決める大切なことなのだ。とはいえ、その生死を決める瞬間が訪れてしまったのは美鈴に原因があるのだが。
「くっ……今度こそ負けるわけにはいかない!」
「残念だけれど、貴女が私に勝つなんて有り得ないことなのよ」
「そんなことはない! 勝利を願う気持ちさえあれば、なんとかなる!」
「うるさいわね。今日こそ絶望の淵に叩き落としてあげるわ」
そんな王道バトル漫画のような会話を繰り広げながら、美鈴はさらに本気モードになった。まるで美鈴が主人公の勇者のようだが、実際は彼女——メイド長咲夜の方が、迷惑を受けている。かもしれない。
**
「さぁ、給料はいくら落とされたい? もう無給でいっちゃおうかしら? 貴女もボランティア精神が鍛えられるわ、よかったわね」
「よよよっよよくないです。そそそその、反省はしておりますのでどうか見逃してくださいいいい!」
さっきとは打って変わって、半泣きの子供状態な美鈴。彼女の周りには、約1cmだけの間をもって、何本ものナイフが突き刺さっている。また、髪に直接刺さっているものもあり、それは美鈴に逃走の選択を許さないという咲夜の意思の表れだ。
給料をこれ以上落とされたら本気で食っていけない美鈴は必死に懇願するが、咲夜はにこやかに(黒い)笑みを浮かべ、先程の宣言通り彼女を絶望の淵に叩き落とすような言葉ばかり言い続ける。
「貴女が自分の仕事をやってくれないと私がレミリア様に怒られるのよ? 私はこんなにも責任を持って仕事を果たしているっていうのにね? パチュリー様も言っていたわ。門番があの魔法使いを通してしまうから本が盗まれていくんだと。貴女には門番の資格なんてないのよ」
若干こめかみが震えている咲夜が持つ銀色のナイフは、これでもかというほどに美鈴に恐怖と威圧感を与えている。
「貴女が選べる選択肢は二つ。ボランティア精神を鍛え続けるか、ここで私に殺されるかよ」
「そ、そんな! そんなのどっちも無理ですよ! もう二度としませんから許してくださいよ!」
美鈴が動かせる範囲で顔を必死に横に振ると、咲夜は少し考えてみたようだった。まったく笑っていない目で美鈴を見下ろしながら、にこやかにゆっくりと言葉を述べる。
「そうねー……じゃあわかったわ。今すぐ白王楼にいくか、三途の川を渡らせてもらうかよ」
「それどっちも同じ意味合いじゃないですか! そんなに私に死んでほしいんですか!」
「失礼ね、私はそんな酷い性格じゃないわ。ただ邪魔な奴が視界から消えてくれればと純粋に願っているだけよ」
「どこが純粋なんですかそれ! 信じませんからねその邪魔な奴が私だなんて信じませんからね絶対!」
もはや仕事の不手際などなしに、ただ美鈴をいじめたいだけではないかと思わず疑ってしまうような咲夜の台詞。それに美鈴は猛然と突っ込みを入れながら、なんとか逃げだそうと僅かに身をよじらせた。
だが。
「あら、注意はちゃんと聞かないとダメでしょう?」
再び、ナイフが飛んだ。
( 真剣か、冗談か? )
+
完璧なる悪ふざけです。本当に申し訳御座いませんでした。
ただ美鈴で遊びたかった……!咲夜さんが鬼畜だったら面白そうだなと思っただけで……!
読みは「めいとう」。相変わらず造語フィーバー。