二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 戦国BASARA弐【月夜の歌姫〜罪無き花〜】 ( No.12 )
日時: 2010/07/23 17:39
名前: ターフ ◆lrnC2c/ESk (ID: 8keOW9sU)
参照: http://yaplog.jp/000331/

第1話 〜川中島 PART5〜
慶次は川中島を後にし、加賀へと帰る。
加賀には前田利家とまつと言う、いわゆる叔父叔母が治めている。
慶次はその叔父叔母の家の者であるが、いつもフラフラといなくなる。
その姿からなのか、いつからか「前田の風来坊」と言われた。
丁度、帰ってきた時にはまつが夕餉を作った後だったので利家がいる部屋の畳に座った。
御膳に並ぶのは、自分の好きな夕餉。
まつはきちんと順番に置いていった。
利家はその夕餉に目を輝かす。
その利家に、慶次は口を開いた。

「どうして豊臣なんかに付いたんだ、利」

慶次の言葉に利家は反応して、真面目な顔へ変わる。
慶次は利家の顔を真剣に真正面で見た。

「今日で噂を聞きつけて、てっきり川中島にいるのだと大慌てで駆けつけたんだ。もし、あの亡骸の中に二人がいたら、俺は…」

グッと正座に手をやった右手を軽く握る。
夢吉は慶次に向けて不安そうな顔をした。
慶次は少し悔やんでいる顔をする。
まつは御膳に全て乗せた後、二人が見えるように正座をし直した。
利家は少し黙っていたが、口を開いて話す。

「…秀吉殿に共感したのだ」
「——…!」

慶次は少し驚いた。
利家は何も表情を変えずに続けて言う。

「日の本は、弱き国となってしまった。…天下不風を掲げた織田信長様によって」

利家は前に仕官していた第六天魔王——織田信長の姿を思い返していた。
織田信長は凄まじい力の持ち主で歯向かう者は誰としても逃さず排除する。
その織田信長に利家は幼き頃から仕官をしていた。
最初はなんとも思わなかったが、今となっては利家は自分を悔やんでいた。

「…そこには、我々もいた。豊臣は日の本を強く豊かにしようとしている。国同士が争いあうのではなく、皆が一つとなって頑張ろうと言うのだ」

話を聞いていた慶次は、切なく悲しい顔をする。
彼は、本当は秀吉がそう思っているのではないと知っている。
本当は…——南蛮みたいな外国とこの日の本の兵比べだ。
兵比べと言っても、ただ兵を比べるのではなく——自分の国として他の国へ戦を仕掛けようとしているのだ。
慶次の表情を見た利家は、少しため息を付きそうな声で言う。

「お前の帰りを待っていた」
「——えっ…?」

慶次は一瞬聞き間違いだと思っていた。
だが、利家の表情を見て聞き間違いではないらしい。
利家は繋ぐように言う。

「力を貸してくれ、慶次。お前は秀吉殿との旧知の仲、親友であろう」
「…昔の事だよ」

慶次は御膳のふちに指でスッと拭く。

「…いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていた。…けど、利がそんな事言うなんて思わなかったよ」

慶次はそう言った後、近くにいるまつに聞く。

「まつ姉ちゃんは…それでいいのかい?日の本を強くするだって、今秀吉がやっている事は…」
「中立を貫く道もあったでしょう」

まつは鍋の蓋を取り、閉める。

「けれど、犬千代様は潔しとしなかったのです」
「利が決めた事には従うって事かい…?」

慶次はまつにそう問いた。
まつは慶次を見るように少し移動する。
移動を終えた後、強く慶次に言った。

「それが…——武門の妻のあるべき姿」

その姿を慶次は黙って見た。
利家はその慶次を見た後話した。

「秀吉殿は、愛する人を失っても悲しみに挫ける事無く一途な志を胸に…。某とて、もしもまつを…」

利家はそう言った後、少し悲しい顔をする。
言葉を続けようとし、少し大きな声で続ける。

「秀吉殿はまつを失くした某だ!」

グッと慶次は拳を作った。
慶次の様子や利家の様子を見たまつは少し心配をする。

「…犬千代様」
「慶次、分ってくれ!——あっ…」

慶次は利家の言葉を聞いて理解し、その場に立つ。
まつは慶次が何処かに行くのだと察した。

「あ、どこに行くのです慶次。せめて夕餉を食べて行きなさい。貴方の好きな物ばかり作ったのですよ」

慶次は一瞬目を瞑った後、少しだけ笑った。
肩に乗った夢吉の首を撫でる。

「食いたかったけど、また今度にするよ」

また笑うが、それはまつにも利家にも分る苦みがある笑顔。

「…慶次」

慶次は部屋から出ようとしたが、襖の前で止まる。

「…利、豊臣は次に何処を攻めるんだ?」

利家は、少し面目なさそうに返した。

「それは…——言えん」
「…フッ、そりゃそうだ」

慶次はそう言葉を残した後、加賀から出て行った。