二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【3Z】死に損なった少女。 ( No.8 )
日時: 2010/07/25 19:11
名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: .pwG6i3H)

▼die.03 ─────────────


中は、広い広い部屋。
かなりの数の椅子があり、祭壇には沢山の花。
其処に大きい自分の写真があり、まるで有名人の葬儀——──な訳も無く。
実際は其処其処の部屋で其処其処の人数、花も其れなりの数で、普通の大きさの額縁に自分の願が写されてる。

────何か、あたし、自分じゃないみたい。

そんな疑問が浮かぶが、実際は今自分は自分で無い。姿は幼女なのだから。
しかし幼女に宿る魂は紛れもなく「廉條日向」だ。
其の自分が今、自分の葬儀に参列しようとしているのだから、可笑しな話だ。


「親はいるか??」
「……あ、えっ……と」
「見つからねェなら、葬儀中は側にいるか?? やってる内に見つかるだろ」
「……うん」

土方に親の所在を聞かれドキリとしてしまうが、自分の挙動不審な動きを見て見つからないと思ったらしい。
彼は一緒にいてくれると言ってくれた。やはり彼は優しい人柄だ。

土方は「じゃあ座るぞ」と言い、自分についてくるよう促す。
其れに素直に従い土方の後ろを歩く。
幼児と青年の歩幅は違うと言うのに追い付けるのは、土方が歩調を緩めているのだろう。

────……あ。
視界に入った人物に、歩いていた足がピタリと止まってしまった。
土方との距離があいてしまう、追い掛けなくてはいけないと言うのに、全く動く気にならなかった。

「……お父さん、お母さん』

目頭が熱くなり、ぼやけていく視界にはっきり映った、父と母の姿。
母は跪き、泣き崩れている。父も涙を流しながら、母を支えている。
自分と結構な距離があると言うのに、母の狂気に似た鳴き声が聞こえて来る。


「うアァァァァァァァァ!!」
「!?」

突如聞こえて来た叫び声、母に似たものがあったが、母より甲高い声が聞こえて来た。
しかし、耳に馴染んだしっくりと来た声は、自分のよく知った人物。

「嘘ヨォォォォ!! 日向が死んだなんて嘘アルゥゥゥ!!」
「……神楽ちゃん」
「なァ、目ェ開けろヨ!! 何白い顔して寝てんだヨォォ!!」

自分の棺を掴み泣き叫ぶのは、自分の大親友—──—神楽。
人一倍力の強い彼女は、今にも棺を壊してしまいそうな程棺を揺らしている。
神楽の周りには、神楽に声をかけられず——──そして悲哀に満ちた表情を浮かべ只眺めている。
妙に新八、山崎に近藤に総悟、そして銀八。

「明日も酢昆布、食べよーって……言ったアル。なのに……っ……目ェ覚ますアル!!」
「神楽ちゃん、落ち着いて!!」
「煩いアルぱっつァん!!」

新八が静止の声をかけるも、神楽は振り切る。
彼女の青い瞳は珍しく真っ赤だ。

「何で落ち着いていられるアルか!? ……っ、見るネ、日向。
何時もは平凡な顔なのに、今は白くて、綺麗アル……う、嬉しく無いヨっ。
平凡なっ、日向が良いネっ……生きててくれれば!!」

徐々に嗚咽が混じったかと思えば、再び大粒の涙が彼女の瞳から溢れだす。
神楽の言葉を聞き、全員が俯いてしまった。


────神楽ァ!!


泣いている、唯一無二の親友である、神楽が。
親友を泣かせるなんて、自分は何て最低なんだろうか。

フラフラと、自分の棺に近寄る。其れにより一層皆の顔が良く見えた。
神楽は、棺に顔を突っ伏し泣いている。妙もぐすぐすと鼻を鳴らし、男メンバーも心なしか唇を震わせている。

────……っ、本当だ。あたし、顔白い。

酷く滑稽だと思った。
神楽の言う通り、綺麗な顔をして眠っている。
棺にいる自分に言ってやりたかった。

“何綺麗な顔して寝てんだ、お前の目の前で大切な親友が泣いてるぞ”と。
“親友の涙も拭えないで、親友を抱きしめもしないで、何寝ているんだ”と。

────……っ、言えないよ…!!

神様は、果たしているのだろうか。もし、いたとしたら悪趣味すぎる。
何故、こんな幼い少女の姿を貸してくれたのだろう。自分に未練があったとしても、何故、こんな姿にしたと言うのか。
万が一此の姿で「自分は廉條日向です」と名乗り出た処で、死体が目の前の状況で、誰が信じるだろう。
言える訳も、無い。

────なら、幽霊で良かった。

其れならばいっその事、透き通った幽霊の姿で、両親や神楽、皆に——──ありがとうと言いたかった。
こんな中途半端な姿では、何も出来ない。

本当は、両親に駆け寄り今すぐ支えてあげたい。
本当は、今すぐ神楽の元へ行き、小さな体を抱きしめ涙を拭ってあげたい。
未練なら今、山のようにあると言うのに、何故全て許してくれないのだろうか。
目の前に大切な人がいると言うのに、何も出来ない。
罪悪感、屈辱、悔しさが入り交じる。

そして溢れて止まらぬ涙で視界がぼやけ、土方が何時のまにか隣に立っている事にすら気づかなかった。
アタシハ何故此処ニイルノダロウ。

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