二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【3Z】死に損なった少女。 ( No.13 )
日時: 2010/07/25 20:29
名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: .pwG6i3H)

▼die.05 ─────────────


自分が難なく戻れる場所は、其処しか無い。
我が家は、今は我が家と呼べない。

言われてみれば葬儀にかまけていて忘れていたが、自分は病院にいる時に着る服を着ているのだ。
此の格好を見れば、誰だって病人にしか見えないだろう。
其の上、居るべき場所は病院だと自分に命じられたようなものだ。

────うん。戻ろう。

日向はゆっくりと、元来た場所を戻る事を決意し歩き始めた。
再度葬儀所を一瞥してから、直ぐ様視線を前に戻し足を運ぶ。
其れ以降は、振り返る事は無かった。

大江戸病院へはほぼ一直線に進めば良い為、迷う事は無い。大通りに出れば、直ぐ大きな建物が目に入る。
其れを目指し真っ直ぐ、ひたすら真っ直ぐ歩けば15分くらいで着く。

────病院行って、如何しようかな。

誰とも喋らず歩いていれば、悶々と様々な考えが浮かんでしまう。
此れから病院に戻ったとして、一体どうしようと言うのだろう。
そもそも、此の幼女の身体は何の病気だったのだろう。
打撲などの傷の痕が全く見られないのだから、恐らく外傷では無く何か病にかかっていたのだろうと推測する。
しかし此れと言って自分に不具合が生じない為、何の病気か全く解らない。
軽い病気なら良いが、仮に此の身体も恐ろしい病にかかっているのなら—───此の身体もじわりじわりと蝕まれ、いずれは亡くなるのだろう。


────嫌だ!!


拒む自分が酷く情けなかった。
既に死んでいる身だと言うのに、また近づく「 死 」に対し脅えている。
お門違いも良い処だろう。
其れでも病院にいると言う事は、少なからず何か病気を持っている可能性がある。

そう考えると、病院まで向かっていた足がピタリと歩みを止めてしまった。ほぼ無意識だ。
病院に行くと言う事は、此れ即ち病気を確かめに行くと言う事だ。

────でも、だとしたら。あたし、病院に行ってる場合じゃない。

死は怖い。
だが、だから其の侭病院に戻りベットで生活した侭で良いのだろうか。怖いと言えど、一度は死んだ身。
其れでもこうして何の因果か生かされているのなら、自分が一番後悔の無い道を進むべきでは無いのだろうか。


「オーイ、チビ。何突っ立ってンだよ??」

考え込んでいたからか、後ろに人が近づいて来た事に気づかなかった。
本日何度目かの聞きなれた声。
振り返れば立っていたのは、案の定土方だった。

「あ……土方、君」
「帰ったんじゃねーのか??
っつかお前、ずっと思ってたけど病院に入院してるみてーな格好じゃねーか。入院してたのか??」

土方が自分の背丈に合わせるようにしゃがみ込み、優しく声をかけた。

────身長、凄く違うや。

相手がしゃがみ込む程違う、身長。
つい此の間までは、自分が見上げ、土方が見下ろすだけの身長差だったのに。
今は、こんなにも違ってしまっている。

「……からない、の……」
「ん??」
「自分のっ……居場所も、生きてる理由も、解らないの……!! あたし、帰る場所、無いッ。
病院になんて、帰りたく無い、しっ、あたしの、いる場所じゃ、無いの……」

ポロポロ、小石のように小さな雫が、嗚咽と共に溢れ出した。
土方に優しくされた安堵したからか、自分の今後に絶望したからか。涙が溢れては止まらなくなってしまった。
土方は突如泣き出した自分に少し驚きながらも、ポンポンと自分を宥めるように頭を撫でて来た。
涙を止める術だったのだろうが、今の自分に優しくされても、逆に涙を流す事になってしまっていた。

「ひ、じかた……君……」
「ん??」

土方が少々驚いているように見えるのは、自分が土方の名を何故知っているのか解らないからだろう。
其れを説明する事も無く、土方に再度嗚咽混じりで問いかけた。

「土方君は────」
「……ん??」
「あたしが、廉條日向だって、言ったら……信じて、くれる??」

土方の瞳孔の開かれた目が、更に開かれたのが解った。
もう、限界だった。
死んでしまった筈なのに一人ぼっちで、幼い女の子になって生きている。
何故か解らない、此れからどうすれば良いかも解らない。
頼りたかった、すがりたかった。
心の拠り所が欲しくて、土方に手を伸ばしてしまった。

土方は、其の手を掴んでくれるだろうか。
君ハ、信ジテクレルダロウカ。

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