二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【3Z】死に損なった少女。 ( No.38 )
日時: 2010/07/27 11:57
名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: KUO6N0SI)

▼die.09 ─────────────


痛い。視線が痛すぎる。
さながら物珍しさに注目される転校生のようなものだろう。
顔に穴が開いてしまうのでは無いかと思う程、沢山の人に凝視されている。
居た堪れない気分になりながらも、取り敢えず席につく為其の視線から逃れるように小走りで歩く。
元々人数が少ないZ組には空いている席が幾つかある為、急いで其処に腰を下ろした。
窓際の4番目と言う、一応最後尾だ。

「オイ、トシ。此の可愛らしいお嬢さんは如何したんだ??」
「あー……まァ訳ありでな。今日1日だけ此処にいるんだ」
「ロリコンかィ?? ついに幼女に手ェ出しやがったか、死ねよ土方」
「ロリコンじゃねーし。ついにって何だよ、誰にも手ェ出した覚えはねェよ、お前が死ね総悟」

席に着くや否や、早速興味を持った総悟や近藤が土方に説明を求めていた。
流石に日向だとは言えない為言葉を濁していたが、直ぐに何時もの取っ組み合いに成り代わっていた。
銀八も其れに呆れため息をついている。
しかし注意せず連絡事項を説明しているのが実に彼らしい。
何時も通りの、平和な光景だ。
まるで、自分がいてもいなくとも変わらないかのように。

────こんな事考えるのは、不謹慎だけどさ。

何時もと変わらぬ光景に安心すると共に、悲しくなってしまう。
本当に、何も変わらないのだ。
何時ものように妙が近藤を殴り、土方と総悟が口喧嘩をし、さっちゃんが先生に訳の解らぬ事を言う。
何時もの、何時も通りの日常。

此処まで何時も通り過ぎると、逆に切なくなってしまう。つい此の間まで、自分も此の中にいた。
妙を静め、土方と総悟に割って入る。其れが自分の役目だったのに、そんなものは今微塵も感じさせていない。
自分と言う存在が無かったかのように、日常を過ごしている。
手を伸ばせば届くのに、伸ばせない。届かない。そんな感じだ。

別に、皆にずっと落ち込んでいて欲しい訳では無い。
只、頭の片隅に、自分の存在がいないように見えるのだ。正直、切ない。

────……あ。

此処にいても無意味と言うか、逆に虚しくなる。
帰ってしまおうかと思いぐるりと教室を見渡した時に、一つの変化に気がついた。
割と近い、斜め前に座るオレンジの髪の、女の子の変化に。


────……神楽。


心臓が嫌に高鳴った。まるで誰かに掴まれたような感覚に陥る。
神楽が、痩せこけているのだ、以前よりも。以前から痩せていたが、もっと酷い。更に目の下には隈が出来ていて、顔色も悪い。
何時もなら此の時間、早弁をしている筈なのに早弁をせず、大人しく座っている。
其の後ろ姿が、妙に寂しかった。

「……先生ェー」
「んー?? 何だ神楽」
「ちょっと保健室行って来るアル」
「おー。一時間だけだぞ」

物悲しい後ろ姿を見つめていた時、神楽はガタリと椅子を引き立ち上がった。
そして保健室に行くと一言銀八に伝え、教室を出る為歩き出す。
其の効果音はとぼとぼと言う音がピッタリだと思える程元気が無い。
総悟が「何でィチャイナ、サボリかィ??」と茶化しても無視だ。
かくいう総悟も、茶化しながらも瞳の色は戸惑っている。
皆、神楽の元気の無さに戸惑っているのだ。心配の色が宿っている。
パタンと、教室の扉が閉じられた。

────……もう、無理!!

神楽の足音が遠ざかり始めた時、また椅子を引く音が響いた。今度は勢い良く。
自分が、勢い良く立ち上がった為だ。
其の音に皆が驚いたらしく、先程まで神楽に集中していた視線は一転し、自分へと注がれる。
そんな視線をものともせず、威勢よく走り扉に手をかける。
銀八が「オ、オイどーした??」と言っているが、勿論返事などする暇も無かった。

扉を開け再度走り出す。バタバタと足音をたてているため授業妨害しているかもしれないが、どうでも良い。
沢山の教室を横切り、階段を下りる。
其の階段の角を曲がると、漸くオレンジ頭の女の子が見えた。

「神楽!!」

叫ぶように彼女の名を呼ぶ。彼女は力無くゆっくりとこちらを振り向いた。
直後、自分は勢い良く飛び込むように抱きついた。
流石に其れは予想外だったらしくよろめいた彼女だったが、何とか持ち直した。
抱きついてみて確信する。やはり彼女が痩せてしまった事を。
以前よりも肉の柔らかさが無い、皆無だ。体全体が骨、と言えよう。
彼女は誰よりも、自分の葬儀で泣き叫んでいた。誰よりも自分を求めてくれていた。
自分が死んで、ずっと悲しみに打ちひしがれていたのだろう。

「な……何ヨお前?? 何で私の名前知ってるネ??」
「ごめん……」
「え??」
「ごめん、神楽……!!」

そっと、彼女の顔を包み込むように手をそえ、こつんと額を合わせる。
きっと自分の今の顔は、酷いものだろう。
泣くのを堪えきれず、顔を歪ませ涙を流しているのだから。

「……明日も酢昆布食べようって、言ってたのに、ね」
「……此の癖、其れに其の言葉……日向、日向アルか!?」

こくりと、静かに頷く。
すると彼女は、自分同様顔を酷く歪ませ涙を溢し始めた。大粒の涙を。
気付いてくれた。自分が何かして謝罪をする時、何時も顔に手をそえ額を合わせごめんと謝っていた。
其の癖で神楽は見抜いてくれたらしい。
幼い頃母親がそうやって謝っていた為、其れが癖になってしまったのだ。
癖とは自然に出てしまう、其のおかげで神楽は此の幼女が日向だと解ったらしい。

「何で……何で死んだアルか!?」
「……ごめんね」
「酢昆布欲しく無い、アル、か!?」
「……欲しい、よ」
「テスト嫌だって言い合って、サドとの喧嘩、止めて。弁当一緒に食べて……明日も、一緒が良いアル!!」
「う、ん」
「……私、日向が、いな、いと、駄目、アルゥゥ……!!」
「……ごめんね、ごめん、神楽ァ!!」

ギュッと、神楽が自分を抱きしめる力を強くし、うわああんと泣き叫び始めた。
ポンポンと頭を撫でてやるが逆効果だ。

ごめんと謝っても謝りきれない。神楽の言う通り、ずっと一緒にいたかった。
巣昆布を食べて笑いあい、総悟との喧嘩を止め、銀八と新八と4人でくだらない話をしていたかった。
明日も明後日も一緒、大人になってお互いが結婚しても仲良くしようね、なんて誓いあった仲だ。

そう、普通の生活を待ちわびていた。明日は来るものだと、思っていた。
しかし、今はそんなささやか願いも、叶いそうに無い。
只ひたすら、泣き叫ぶ小さな女の子を、抱き締め続けるしか無かった。
コノ子ヲ守ッテ下サイト、神様ニ願ッタ。

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