二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【3Z】死に損なった少女。 ( No.46 )
日時: 2010/07/26 15:24
名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: vWQ1Y4kw)

▼die.13 ─────────────(土方side)


「は??」

暫くの間、彼の言葉により理解に苦しむ事となった。

────廉條日向が死んで、10年経つ。
何を言っているんだろうか。
彼女はつい最近まで生きていたと言うのに。
10年経つと言う事は、彼女は歳が一桁の時に死んだと言う事になってしまう。
けれど、其れは断じてあり得ないだろう。
何故なら、彼女はつい最近まで生きていたからだ。
会話を多くした訳でも、沢山関わりがあった訳では無いが、同じ3Zの仲間であった為多少の関わりはある。
其れに、つい先日の事故は自分の記憶に新しい。
あれだけ全員が悲しみ、彼女の友人——──神楽が、泣き叫んでいた様子を、忘れた訳では無いだろう。

其れなのに、目の前の飄々とした彼は、彼女は10年前に死んだと言うのだ。
幾ら夢の中だと言っても、此れはどういう事だろうか。
彼女がずっと前に死んだと、自分の頭の中ではそう言う設定にでもなっているのだろうか。
そうなら自分は最悪であり悪趣味だ。

「……何言ってんだ総悟、アイツが死んだのは最近だろ」
「土方さんこそ何言ってんでィ、最近じゃなくてずっと小さい頃に亡くなってまさァ。
そう、あの川に流されて、溺れちまったんでィ。溺死でさァ」

そう言いくいと、彼は親指で横の川を指差した。
促される侭川を見てみると、不思議な光景が広がっていた。
先程まで晴天の元(白黒ではあるが)でキラキラと輝き、穏やかに流れている川の姿は何処にも無かった。
土砂降りの雨により水位の上がった、土で汚れた川になっている。
更には雨により、川の流れも尋常では無いくらい早くなっている。
一瞬にしてこう変わってしまう辺りは、やはり夢らしい。
其の証拠に、隣にいた筈の総悟は忽然と姿を消していた。

ザアザアと言う雨音に、響くような増水された川の流水音。
其の川を見つめていれば、妙なものが視界に入った。

────増水された川に流される、一人の幼女。


「……くそっ!!」

つい一言呟いてしまった。
増水された川の勢いは凄まじく、威勢が良い。
こんな川に飲まれたらきっと、命に関わると言うのに、今まさに其の川に飲まれている幼女がいるのだ。
助けられるか、また自分も助かるか定かで無い。
其れでも、自分の正義感にかられ、無意識に足は動き出していた。
地を蹴り足場の悪い土の上を走る。きっと此の川の状態で川の中に入っても逆効果、本末転倒だ。
川に流される彼女は、ずっと苦しそうにしている。
泳げない為か、口をパクパクと開き、手を上げている。
助けなければと言う衝動と焦燥感に駆られる。
息が上がる程に全力疾走をする。汗も流れ始めていた。
川の流れが速すぎる為、彼女に中々追いつかない。
其れでも只我武者羅に走る。

漸く彼女の横に並んだ事を確認出来た。
瞬時に、川に片手を伸ばし、片手を地面につける。
運良く狙い通り、片手で彼女の手を掴み、片手で自分の動きを止める事が出来た。

「うああっ!!」と声を上げ、彼女の手を引っ張れば、案外軽く彼女を川から引き上げる事が出来た。
引っ張った勢いのまま、自分の腕の中にその幼女を抱きしめる形で救出。
川の水で彼女はびしょ濡れだ。
しかし、息はある。助ける事が出来たのだ。

────良かった。そう安堵し大きく息をついた。
流石に此の川の勢いが半端では無かった為、最初こそ助けられるか不安であった。
しかし其れをみすみす見過ごすなど、自分の性格上出来なかった。
自分は一人の命を、夢の中とは言え救う事が出来た。
否、夢の中だから出来たのかもしれない。

さてそろそろ動かねばと考えていた時、彼女の体がピクリと動いた。
どうやら意識を取り戻したらしい。
とは言え、こんなにびしょ濡れでしかも川に流されていたのだから、衰弱しているに違い無い。
急いで病院へ連れて行こうと立ち上がった。
瞬間に、くいと服を引っ張られた。

「どうかしたか??」

そう聞く前に、彼女との視線が絡み、動けなくなってしまった。
そして彼女は無表情のまま呟いたのだ。


「死んだ筈なのに」


        —————————──


「……っ!!」

ガバッと、布団の摩れる音を出しながら起き上がった。
息が、激しく乱れ汗がびっしょりだ。
上がった侭の息で回りを見渡せば、今度こそ夢では無く現実の自室。
家具やら何やらは夢の中と同じ配置ではあるが、視界は色鮮やかな色が染まり、白黒の世界では無かった。

────……いや、夢、じゃねェ。

恐ろしい夢だった。否、夢では無いのかもしれない。
しかし此れで全て、全ての謎が解けた。
全て、分かった。あの夢は夢であり、現実だと言う事。

彼女が震えながらに言った通り、彼女はもう直ぐあの幼女に身体を返しこの世から去る事になると言う事。
そして。

「総悟の言う通り、だ……」

ゾクリと体が震えた。こんな気持ちは初めてだ。
真実を知って、恐怖を感じたのは。
しかし全て、理解しなければならない事だったに違い無い。


廉條日向は、10年前に一度、死んでいるのだ。

狂ワセタノハ、俺ダ。

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