二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【3Z】死に損なった少女。 ( No.54 )
日時: 2010/07/27 15:52
名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: KUO6N0SI)

▼die.16 ─────────────


薄暗い道を、只一人で歩いていた。
こんな真夜中に、小さい女の子が歩くのは危険だ、と頭の中で警報は鳴っていた。
しかし、其れを無視してある場所へと赴く。
親友の神楽と共に寝ていたが、黙って外に出てきてしまった。
多少の罪悪感はあったが、其れより何より、確かめたい事があった。

真夜中の道は、とても寒かった。
星がちかちかと光っているものの、夜の闇が深いのは本当なんだな、とふと思った。
川沿いの道、クサムラ、ひっそりとしていて誰も通らない道路。
従来の自分の歩幅よりも小さな歩幅で、ある場所へと歩いた。
幸い、誰も通らない為に不審者も誰もいなかった。
もう直ぐ午前3時になるから、当然と言えば当然かもしれない。

細い道を差し掛かってから、漸く目的の場所に向かう階段を見つけた。
草の生えた坂道の真ん中に、石の階段がある。ゴツゴツと固く白い階段をゆっくりと上る。
意外と長い階段を上りきってみると、綺麗な墓石がずらりと並んでいた。
普通なら夜の墓場なんて気味が悪いだけなのに、今回は何故か綺麗だと感じた。
月明かりに照らされた墓石は、キラリと光っている。

墓石を見渡してから、其の間にある石畳の道をまたゆっくりと歩いた。
此の姿が小さいからか、もしくは靴擦れをしているのか。足がじんじんと痛みを訴えていた。
歩き慣れていないのだろうと思った。
歩く度に、色の濃さや形の違う墓が視界に映る。
墓に書かれている名前はありふれたものから一風変わったもの、様々だった。
読めない名字も多々発見された。

歩く度に、石畳の上を歩く良い音がする。
映画で良く大音量で聞く人の足音と同じだった。コツンコツンコツン。軽快な音だ。
其の中に一つ、自分の名字の墓を見つけてピタリと歩みを止めた。
「廉條家」と書かれている其れは、お盆の季節に墓参りに来る時の墓石で間違い無かった。
毎年此の場所に来ているが、こんな真夜中に来た事は勿論初めてだ。
お爺ちゃんかお婆ちゃんがいるかな、とキョロキョロと首を動かし探したが、当たり前に誰もいなかった。

自分は其の場にしゃがみ込み、目を瞑り手を合わせた。
其れから隣にある石碑に視線を移す。
祖母や祖父の名が彫られている横に、つい最近彫られた自分の名がある。
まだ彫られたばかりなので、祖母達の字よりも綺麗にくっきりと彫られていた。
まるで其れを主張し、過去を消すかのように。
ゆっくりと、字と言う字をなぞるように石碑に指を滑らせた。冷たい石を、触れ続ける。
横へ横へとずらす。其の時に、指先に違和感を感じてピタリと動きを止めた。


「……あった」


普通に見たら分からない。
普通の何もかかれていない石の色と同化しているが、触った感触が此処だけ違う。
石碑に近づき、まじまじと其の場所を見てみる。
石碑との距離は5センチ程度だろうか、其の時にうっすらと、見えたのだ。


「廉條日向 享年七歳」の文字が。


        ————+—+—+——──


土方の言葉に、シンっと辺りが静まった。
神楽は困惑顔で、しかし絶句している。
自分を探している時に泣いていたのだろう、青い瞳が赤くなっている。
今だってもう泣き出してしまいそうだった。
正反対なのは土方だ。何時もと何ら変わらない、涼しい、無表情だ。
きっと全てを理解したのだろうと思う。自分がこんな姿で留まる理由も、昔の自分を助け出したのも全て。

暫くは誰も言葉を発しなかった。
段々と夜が明けていっていて、暗かった空が赤黒く染まっている。
絵の具で作られたグラデーションみたいに見えた。

「……変だと思ったんだ、正直。良く考えれば、ところどころ記憶が曖昧だったの。
何だか噛み合わない記憶があって、でも其れが怖かった。だから、知らない振りしてたんだけど」
「思い出した訳だな、全部」
「まあね」
「日向、マヨラー。……どういう事アルか??」
「そうだね。神楽はまだ分からないよね」

んんっと背伸びをして、ポンポンと小さな手を神楽の頭に乗せる。
くにゃりと、神楽は表情を歪めた。泣きそうになって堪えている。

「あたしはね、10年前に川で溺れて死んでるの。
其れをね、未来の——──今の土方君がタイムトリップして助けた。
だから未来は変わって、あたしは10年間生きる事が出来た」


アノ夢ハ、夢デハ無クテ、本物ダッタノダ。


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