二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 【銀魂】僕は狂ってない。 ( No.21 )
日時: 2010/07/29 14:32
名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: vAHEHJN2)

────大丈夫。

何がどう大丈夫なのか。
そもそも僕に向けた言葉なのか、
其れとも他の誰かに向けた言葉なのか。
そんな事さえも判らないのに、其れでも。

────大丈夫、大丈夫だから。

其れが正気を保つ唯一の手段であるかのように。
繰り返し繰り返し。
僕は祈るように唱え続けた。



▼mad01、消し跡だらけ



身体が重い────怠い。
今、何時だろうか。
もう少し寝ていたい気もしたが瞼を開けた。
目に写るのは今まで見た事のない見知らぬ場所の天井────。
徐々にクリアになっていく視界に路上とはかけ離れたもので、僕はむくっと体を起こす。

「……起きたか」

スーッと頭上の襖が開く音と共にかけられた低い声に振り向く。
其処には黒い上下の服に身を包んだ男の人が煙草をくわえながら此方を見ていた。
────此の服、真選組だ。
酷く鋭い視線に捕まり身動きする事も言葉を発する事も出来ずにいた。

「……話せるか??」
「あ、はい」

低く響く声で問いかけられ呪縛が解けたように慌てて言葉を返すと、そうかと一言残し其の男性は又部屋を出て行く。すると直ぐ様聞こえてくる複数の足音。
再び開けられた襖から先程の男性の他にもう二人の男性が部屋に入ってきた。
皆同じ黒い服に身を包んでいる。
どかりと三者三様に腰をおろすと集まる視線。

「気がついたらしいが大丈夫かい??」

大柄でいかにも精悍な感じのするゴリ……男性から声をかけられる。
別に怪我をした覚え等なかった為、僕は只頷くだけだった。

「何か色々ご迷惑をお掛けしたようで。すみません」
「ハハ、気にしなくても良いさ。其れより君に聞きたい事があるんだが……良いかい??」
「どうぞ」
「如何して君はあんな所で血塗れになって倒れていたのかな??」
「……あんな所??」
「屯所の前にでさァ」

大柄の男性の横に座っていた栗色の髪の男性に言われ思考を巡らす。
────あれ、僕如何したんだっけ。
確か路地裏で買主を待ってて、ウザかったから皆殺して。路地裏を抜けて其の侭歩いてて──。
でも、其れを全て話しても良いのだろうか。
人を殺したとなれば、子供の僕でも容赦なく逮捕でもなんでもするだろう。
其れは面倒だ。

「覚えてません。何も」
「覚えてない?? 記憶喪失ってやつか」
「はい。すみません」

僕がそう言うと、彼等は納得してくれたようで。

「記憶が戻るまで此所にいれば良いさ」

と、ふわりと頭を撫でられた。暖かくて大きな手で。
昔優しかった頃の父の其れを思わせるような温もり涙が滲む。
何時の間にか、ぽた、ぽた、ぽたり、と。手の甲へ涙が落ちた。
こんな優しい人に嘘を吐いてしまったんだと、今頃罪悪感が生まれた。

「うおっ!? お嬢さん?? 何処か痛むのかい?? ちょ……ちょっと、トシ!! 医者、医者呼んでェ!!」
「大丈夫です。安心してしまって。僕は嘉神雅焔と申します。あの、お名前伺っても宜しいですか」
「あぁ、すまんすまん。自己紹介がまだだったな。俺は真選組局長、近藤勲だ」
「……副長の土方十四郎だ」
「俺は、天使でさァ」

ちょっと、総悟何言っちゃってんのォォ??と、近藤さんが叫んでいたが……。
意識が闇に沈む前に見たのは彼だったのだと。
そして今さらながら自分が口にした言葉を恥ずかしく思い、顔が熱くなってしまう。
栗色の髪の彼は────。

「一番隊隊長の沖田総悟でさァ」

とニヤリとしながら自己紹介してくれた。
局長の近藤さん、副長の土方さん、そして一番隊隊長の沖田さん。
心の中で何度も繰り返し繰り返し呟いて、頭の中に彼等の名前を刻み込む。
────よし、覚えた。

「……僕に何か、何かお手伝い出来る事はありませんか」

戻れるまで置いてもらえる事にはなったが何もせずにいるのも気が引ける。
気にしなくても良いと近藤さんは言ってくれたがそうもいかない。
一応家事は得意だし、此処の隊士の怪我の治療が出来る位の知識もある方だ。

「家事は出来るんですかィ??」
「大抵の事なら人並みには」
「だったら女中の手伝いって事でどうですかィ??」
「はい」
「よし、話は決まった!! 松平のとっつぁんには俺から話を通しておく。此れから宜しくな、雅焔ちゃん」
「此方こそ、お世話になります」

ニッコリと笑う近藤さんに何故だか穏やかな気持ちになる。
不思議な人だ。彼の笑顔を見ると、さっきまであれ程不安だった気持ちが薄らいでいく。
自分が倒れたのが真選組の前で良かった、と今更ながら思うのであった。

「今日1日休んでから隊士達には紹介と手伝いをお願いするとして。
其れまではゆっくり過ごしていてくれて良いからね」
「はい、有難う御座います」

そう言い残すと近藤さんは席を立った。
其れに続いて土方さんも部屋を出ていき────。

「また顔見に来まさァ。寝てなせェ」

最後に沖田さんが襖を閉めて出ていった。
残された部屋にまた静寂が訪れる。
はぁ、と溜め息を吐けば直に静寂さに飲まれ、黒いマントの下にある自分の腕に目を落とした。
僕の両腕にあるびっしりと自らが巻いた包帯の下には、一生かけても取れない深い深い傷がある。
父さんに虐待されて出来た傷と、闘って出来た傷の二つが。

────包帯、弛んでる。

続いて足首の方を見るが此方も固定をする巻き方では無くなってる。
きっとさっき動いた衝撃で弛んだのだろう。
ペリッ、と巻き止めされているテープを外すと固定するように巻き直した。
しっかりと固定したので、此れなら歩いても痛まないだろう。
ゆらゆらと、又視界がぼやけ出したのは先程と同じく涙が溢れて来たからで。
泣いたってどうにもならないって事わかっているのに。
思いとは裏腹に頬を伝い出した暖かな液体は拭っても間に合わなくて数滴布団へと吸い込まれた。

/next