二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】僕の世界は壊れた。 ( No.98 )
- 日時: 2010/08/03 11:15
- 名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: 5oH7j2fh)
生きたくても、生きられない人がいて。
生きたくなくても、生きなきゃいけない人がいて。
でも結局。
生きたい気持ちも、死にたい気持ちも、本人にしか判らない。
生きたい気持ちは共感し易いかもしれないけど。
其の半分は多分同情。
死にたい気持ちは多分共感する人、しない人がいるだろうけど。
共感する人は似た境遇にあって、しない人は凄く幸せだ。
やっぱり生まれた時から、環境は平等じゃないから。
人に他人を批評する権利は、ないんだ。
▼mad06、闇の中、只嘲え。
「お早う御座います」
朝食をとる為、食堂へ行けば食事をしている隊士の姿は疎らで────。
食堂へ来るのが特に遅くなった訳でも無いのに、如何したのだろうと首を傾げた。
僕が此処に来てもう2週間ばかり経つが、此処まで静かな食堂は始めてだ。
「雅焔、お早う」
「お早う御座いやす」
「あ。羅奈さん、総悟。お早う御座います。今日は隊士の方が少ないですね」
食べ終え食器を下げる際、顔を合わせた羅奈さんと総悟に疑問に思っていた事を問いてみた。
すると彼女は曇った顔をチラリと覗かせる。
「何でも鬼兵隊の目撃情報が入ってな。隊士の皆は朝早くから駆り出されている」
「俺達も今から土方さん達の処に行くところだったんでさァ」
────鬼兵隊??
聞き慣れない言葉だったが其れに対し彼等に更に問うのは止めた。
此れから大事な仕事に行く彼等を足止めしては悪いだろうと思い、僕は口を閉ざした。
後で、ゆっくり土方さん達に教えて貰おう。
そんな事を思う僕の姿を見る総悟は言葉を無くしている。
「着付けの仕方、おかしい??」
「上手く着れてまさァ。其れ此の前買ってきたやつですかィ??」
「うん。退さんに選んで頂いた物だけど」
上手く着れていると言われつい声が明るくなった僕と対照的に、総悟は不機嫌な顔になってしまった。
今僕が着ている着物は、此の前退さんと一緒に買出しに出掛けた時に彼に選んだ貰った着物だ。
濃い青に寒色系のグラデーションで蝶が描かれている一着と蘇芳色に裾に小花が散らして描かれている一着。
僕的に結構気に入っている着物で、人前で袖を通すのは始めてだが、僕には似合ってなかったのだろうか。
「へぇ、山崎がねィ。どーりで地味な着物だと思いやした」
「……地味、ですか??」
「雅焔には地味過ぎまさァ。今度俺が雅焔に似合う着物を選んでやりやす」
地味だろうか。
まぁ確かに派手では無いが普段から派手な服を好まない為、僕は素敵だと思ったんだけど。
そんな疑問を抱いた目を羅奈さんへ向けると、「小生は似合っていると思うが」という様な目で僕を見た。
「……でも此の着物の色、素敵だなって思っただよ。ほら、総悟の瞳の色と同じで綺麗だなって」
バッ、と。其れこそ目を見開くと言う表現がぴったりくる位、瞳を大きくして僕を見る、総悟。
変な事言っちゃった??
──——……“不意討ちでさァ”
顔を背け少し頬を染めた総悟が、ぽつりと言った言葉は僕の耳には届かなかった。
そして、其の侭総悟は羅奈さんに引き摺られつつ、土方さん達の処へと向かっていった。
2人が出て行って、余計静かを増したように思える食堂を見渡して、僕は小さく息を吐いた。
「嵐の前の静けさにならなければ良いけど」
僕は純粋に隊士の皆の身を案じた。
真選組に身を寄せている僕が言うのは可笑しい事かもしれないが、毎日顔を合わせていれば情だって湧く。
其の情と言うのは同情や友情では無い。
烏滸がましいと思われるだろうが、家族に対するような────そんな愛情。
そうだ、と閃くように脳裏に過った事を実行する為、財布を手に取ると屯所をあとにした。
朝早くから仕事をしているならきっと疲れて帰って来る事だろう。
少々ベタだとは思ったが、檸檬の蜂蜜漬けでも作って摘まんで貰おうと思い買い物へ出たのだ。
隊士の姿が少なく静かさが漂っていた屯所内とは違って街は何時もの喧騒に溢れている。
スーパーで檸檬と蜂蜜を購入すると帰路を急いだ。
今夜、もしくは明日の朝に食べて貰うにしろ、早くスライスした檸檬を蜂蜜に漬けた方が良い。
────よし、近道しよう。
其の選択が此れからの引き金だったんだと今更ながら思う。
───────────
確か此の路地裏を抜ければ近道となる筈、と。
酷く曖昧な地図を頭の中で描きながら、人通りが無く何処か薄暗さを感じさせる路地裏を進む。
路地裏を通るのは“あの日”以来だろうか。
其の時、前方に笠を被った人の姿が目に入った。
あまり人の気配を感じさせない此の路地に人影が見えた事で少しほっとする。
其れは薄暗さと街の喧騒から離れた此の道が出す、不気味にも思える雰囲気から救われた思いがしたからだ。
僕が歩みを進めて行けば、其の姿は近くなる。
距離が一定に保たれないと言う事は前方にいる方は足を止めているのだろうか。
ゆぅら、ゆらと細い煙の筋が見えて────。
あぁ、一服中なのかと、気にもせず其の人物の先にある路地裏の出口を目指した。
紫の着物には黄色の蝶が描かれている。細い帯が見えるから男性なのだろう。
何の考えも無しにふとすれ違った瞬間、彼の声が耳に入った。
────雅焔。
足を止め振り返れば名前を呼んだのは其の人のようだ。他に人影など無かったから。
僕が知る人物かと一瞬思いはしたが声に覚えは無い。
でも、名を呼ばれたのだから僕を知っている事には間違いは無いだろう。
「……あの??」
今だ笠の所為で顔を見る事が叶わない相手に伺うような声を出す。
すると、しゅるり、と顎の辺りで結ばれていた紐が解かれ、漸くゆっくりと笠が下ろされた。
左目を怪我しているようで包帯で隠すようにしている────隻眼の人。
口元には妖しげな笑みを湛えている彼だが、やはり僕の知る人物では無い。
こんなに印象が強い人なら逢った事があれば忘れないだろうから────。
「すみません、どちら様ですか」
「────おめェ、銀時の男になったのか??」
あれ、無視ですか。
と思わず突っ込んでしまいそうになる位僕の問いかけには答えず検討違いの事を聞いてきたのだが。
初対面の人に失礼だが、いきなりそんな事を聞いてこられるなんて良い気持ちはしない。
其の上、「銀時」とは誰の事だろう。
「其れとも、幕府の犬の女か────」
「何方かと間違えているんじゃないんですか。僕は誰の女でもありません」
幕府の犬とは真選組の事を指しているのだろう。
真選組の事をそんなふうに言われて、ついイライラッとした感情を隠さずに答えていた。
大体、此方は誰かと伺っている事にも答えずに矢継ぎ早にズカズカと誰の女だ?? 其れは失礼にも程がある。
しかも、置いて貰っている真選組の事を犬だなんて────。
此れで怒るな、機嫌を悪くするなと言う方が僕には無理である。
「其れじゃ、僕は急いでるんで」
此れ以上此の人と話しても得るもの等無さそうなので早々と退散する事にした。
────あ。でも何で僕の事、知っているんだろう。
不意に湧き出た疑問。
聞いてみるべきかと一瞬悩んだが、名前すら名乗ろうとしない人だ。
どうせ聞いたところで答えてはくれないだろう。
彼に背を向け歩き出そうとした時、身体が後ろへ引っ張られ、其の時一瞬見えた一筋の光。
突然の事に多少驚いたが、僕は間一髪で其れを避けた。其の為、手からスーパーの袋が落ちた。
「────っ!! ちょっ」
「晋助────。高杉晋助だ」
視界の片隅にコロコロと転がっていく檸檬が見える。
気付けば目の前には隻眼の人、背中には壁の冷たく固い感触と鋭く冷たい刀の先────。
避けたつもりだったが、刀の先が僕の頬をかすったらしい、頬からつぅっと血が流れ落ちた。
「えっと、高杉さんでしたっけ?? 危ないじゃないですか。檸檬、落としちゃったし」
「今の攻撃を避けれる女は、奴しかいねェ」
「だから、奴って誰ですか」
「────おめェ、俺を覚えてないのか??」
「は?? 知るわけないでしょう。初対面の筈です」
ジッーと見下ろされる視線が痛い。
「知ってるか」じゃなくて「覚えてるか」なんだ。
なんだかもっと意味が判らなくなってきた。
痛い視線を浴びながら記憶の中に彼の姿を探すが見当たらない。
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