二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】壊すなら、跡形もなく。 ( No.99 )
- 日時: 2010/08/03 11:22
- 名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: 5oH7j2fh)
生きたい人も死にたい人も、そっとしといて欲しい筈。
生きたい人は生きたいし。
死にたい人は死にたいし。
批評できる程、小さな事じゃない。
批評して良い事じゃない筈。
何の権利もない。
只、悔いのないように。
見守っていたい
そう、思うんだ。
▼mad07、灰色のジレンマ
「よーく、思い出してはみたんですけど、やっぱり僕、貴方の事知りません」
突き立てられた刀は納めてくれたものの、相変わらず彼は僕を見下ろした侭、目を反らす事もしない。
其れこそ、そんなに見たら穴が開くと思う位に。
こっちから視線を外すのは何だか悔しいから僕もジーッと見てやる。
よく見れば眼差しは鋭いが綺麗な顔立ち────。
変に色香があると言うのか、惹きこまれる何かを感じさせる人だ。
其れ故に此の横暴とも言える行為が、まかり通るとでも思っているのだろうか。
見つめあった状態の侭、言葉も交わさずに流れる静かな時間。
すると急に彼は、にやり、と口端を歪ませクックッとした笑いを溢した。
「────やっぱり面白れェ女だ。憶えてなくとも、真選組にいるのに俺を知らないとはなァ」
「真選組にいるからって、逢った事も無い貴方の事なんて知りませんよ。僕、貴方に興味無いですし」
如何、如何、此れじゃまるで喧嘩腰では無いかと思いはしたが。
相変わらず握られた侭の腕を其の侭にされている事も嫌で、ついそんな態度をとってしまう。
頬から流れる血をゴシゴシと拭き取り、そして、左足で素早く彼の顔に向かって回し蹴りをいれた。
「…………ッ!?」
間一髪に直撃を避けた晋助だったが、僕の足先が僅かに掠って僕と同じ様に頬からつぅっと血を流す。
僕は満面の笑みを浮かべて、彼を睨みつけながら低い低い声色で囁いた。
「先程は御丁寧にどうも。此れはほんの御返しです」
「随分と酔狂な事してくれるじゃねぇか。雅焔。俺は、おめェを気に入ったぜ。晋助、そう呼べ」
再びクックッとした笑いを喉で転がして──────。
彼の指が僕の頬を滑ると顎を持ち上げられた。
あくまでも命令口調で……よくもまぁ、いけしゃあしゃあとそんな事が言えるものだ。
「雅焔、俺と来い」
「……は??」
こんなに第一印象が最悪なのに、来いだなんて行く訳が無いだろう。
僕は首を横に振り、彼の瞳を見詰てこう言った。
「遠慮しておきます。僕は晋助の事、気に入りませんから」
驚いた、と言うような顔を覗かせ今度は盛大に笑い出す彼がよく判らない。
初対面なのだから、判らないのも当然ではあるが。
強気な言葉と端整な顔立ち、鋭い眼差し。
荒々しい獣を感じさせるくせに、其処に儚さを持つような──────。
「チッ。相変わらず不粋な野郎共だ。……今度逢った時はおめェを俺のモンにしてやる」
捨て台詞のように言葉を吐き、彼は目の前から消えた。
彼の姿が視界から消え思わず力が抜けた身体は、膝の震えを感じたと共にトスンと路地に落ちた。腰が抜けたのだ。
────怖かった。
精一杯の虚勢を張ってはいたが。こんな感情になるのは久し振りだ。
周りに気をやれば路地の周辺が騒がしい。
バタバタと人々が走っている足音とパトカーのサイレン。
────何、だったろう。
ぼんやりと力の入らない身体で転がっている檸檬を見ていると聞き慣れた声がした。
「雅焔さんっ!!」
「雅焔!!」
あ、退さんとアリスだ、と。
ゆっくりと声がした方を見れば酷く焦った様子で彼が駆けて来る。
「雅焔!! 大丈夫!?」
「大丈夫です。ちょっと吃驚する事があって腰が抜けて。もう少ししたら立てますから」
「鬼兵隊を追ってたんだけど、雅焔さんが座り込んでる姿が見えて。焦っちゃったよ」
「御免なさい。ところで鬼兵隊って何なんですか??」
檸檬を拾ってくれている退さんとアリスに気付かれぬよう、僕はそっと彼が着けた頬の傷痕を手で隠した。
余計な心配はかけたくなかったからだ。
そう言えば、羅奈さんから聞かされた其の名のものが何かを土方さんに尋ねようと思っていたのだが。
結局彼と顔を合わさぬ侭だったのだ。
「あぁ、雅焔さんには詳しい事話していなかったよね」
鬼兵隊────。
其れは過激派の集団。所謂、テロリストという感じだろうか。
其の上今日は、彼等が江戸に訪れているらしい。
「雅焔、立てる??」
「うん。もう大丈夫かと」
2人と話して幾分か安心した事もあり、支えてもらいながらだが立ち上がる事が出来た。
そして彼等に導かれる侭、僕等はパトカーへと向かう。
「屯所まで送るね。今、此処等辺を一人で歩かせるわけにはいかないから」
「退さん。其れにアリスも。仕事中なのに御免なさい」
「雅焔の安全を守るのも大事な仕事だから。気にしない気にしない」
「有難う御座います」
「……ところで、雅焔さん。頬、誰にヤられたの??」
「────え?」
気付かれていないと思っていたのに────。
いきなり退さんに真剣な眼差しで問われると、ドキリと心臓が跳ねた。
「初めて会った人に、です」
「どんな奴だった??」
「僕の事は知っているみたいだったんですが。派手な着物で包帯巻いていて隻眼の────」
「「────高杉晋助」」
「はい……って、やっぱり真選組に関係のある人なんですか」
「……鬼兵隊の頭だよ」
鬼兵隊、テロリスト。
高杉晋助────。
退さんが手渡してくれていたスーパーの袋が再び僕の手からするりと落ち────。
衝撃で潰れた檸檬からほんのりと柑橘臭が漂った。
───────────(高杉side)
そして、其の日の深夜。
世界が眠りにつき、空は真っ暗な暗闇だった。
────……まるで俺みてぇだな。
そう思うと可笑しくて一人で小さく笑った。
何も考えず暗い暗闇の中船に戻る。
すると船に入った途端────。
「晋助、随分遅い帰還でござったな」
「珍しいな、こんな時間に帰ってくるなんて」
万斉と、黒髪でチビの雨欟初恋が出迎えてくれた。
「……万斉と初恋か。まぁな、犬どもが五月蝿くてよ」
「へぇ。其の犬にやられたってわけか」
「あァ?? フンッ────、此れか」
初恋が指指すのは、俺の頬。
つまり、先程あいつに付けられた傷痕だ。
「何にせよ、そんな傷をつけさせるとは晋助らしくないな」
「────こいつは……雅焔は特別なんだよ」
俺がそう言うと、多少2人は驚いた表情を見せた。
そして、万斉はフッと笑いながら。
「ふむ。晋助がそんな風に言う、女子。拙者も逢ってみたくなったでござる」
「近いうちに“俺の女”として紹介してやらァ」
其れまで、雅焔────。
楽しみに待ってろ。
クックッとした笑みは、其の足音と共に闇に紛れた。
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