二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 【銀魂】僕の世界が壊れた。 ( No.111 )
- 日時: 2010/08/08 22:49
- 名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: wV8NmXkW)
音のない音が駆け巡る。
右も左も判らない。
まっさらな世界に一つの奇跡が落ちたとしたら幸か不幸か。
走った先に何が待ってると言うのだろうか。
何の意味があって走ったの??
先に闇があるなら断ち切るの??
受け止める強さが僕にあるなら、僕も構わず駆けただろう。
世界を覆う薄い雲さえも僕から光を奪う。
叶う事のない運命だと言うのか。
▼mad10、白紙の心に、
僕は色んな人に嘘を吐いていた、と其の事実を今頃知った。
真選組に自分の事を知られたくなくて“覚えださせない”と嘘を吐いた。
けれど、僕は其の前から嘘を吐いてた。
──────名前、である。
今まで僕は当たり前の様に“嘉神 雅焔”と名乗ってきたが、其の名前は僕の真名ではない。
“嘉神 雅焔”は僕の大切な人が消える直前僕に譲ってくれた名前であって、本当の名前は別にあるのだ。
そう、僕の本当の名前は─────……
「大丈夫か??」
男性の言葉に我に返り、慌てて小さく遠慮がちに頷く僕。
今、僕等がいるのは「万事屋銀ちゃん」という先程の男性が経営してるらしい店。
其の店のソファーに座っていた僕の前に、湯気が出ている熱々のお茶が置かれた。
ずっと俯いた侭だった僕は頭を上げる。
「お茶が入りました。どうぞ」
「飲むアル。身体温まるヨ」
「……あ、有難う御座います」
そう優しく言い微笑みかける眼鏡の男の子とチャイナ服の女の子は、志村新八、神楽と其々名乗った。
僕は小さく彼等に御礼をして其のお茶を一口啜る。
其の時、銀髪の男性が口を開いた。
「俺は坂田銀時。此の万事屋の経営者だ。何か困った事でもあんだろ?? 俺で良かったら相談乗るよ」
坂田銀時と名乗った彼は僕の頭をポンポンと優しく叩いた。まるで落ち着かせるように。
途端、手に持っているお茶にポタリと雫が垂れる。
そして自分が泣いているという事に始めて気づいた。
「ぎぎぎ銀ちゃん!? 何したアルカ!!」
「俺が知るか!!」
涙は止まらず机を湿らしていく。
目の前にティッシュが出され数枚取り、顔を拭く。
一通り落ち着いた僕は、3人に向き直った。
「さっき言いましたよね。相談に乗るって。早速ですが、僕の話を訊いて頂けますか」
───────────
「二番隊と三番隊は二手に別れて裏を固めろ。一番隊は俺と共に正面から行く」
賑やかな大通りとは違い、波の音だけが辺りを包む。
漸く港へと辿り着いた真選組は、土方の指示で其々の位置へと急ぐ。
ひっそりと息を潜めるように、そして慌ただしくも慎重に。
事の成り行きは、数時間前に遡る────。
◆
『……麻薬密輸と攘夷浪士との繋がりがある等の疑いが掛けられていた、呉服屋の主人・相模 湯太郎。
漸く彼のの尻尾を掴みました』
其れは、つい昨晩の事である。
真選組隊士等は土方から至急会議室へ集まるよう下された。
丁度、雅焔が寝静まった時の事だ。
『其れで??』
『……黒です』
催促をするように言った土方の問に山崎がそう言った瞬間、隊士達がざわつき始めた。
そんな中、土方と近藤はニヤッと口の端を緩める。
『近藤さん』
『ああ、漸く尻尾を出したか』
『其れで山崎、何時だ?』
『明日の夜です』
『場所は?』
『かぶき町の港前の第4倉庫です』
『なら、丁度いい。てめぇら、明日に備えてさっさと支度しろ』
山崎と短いやり取りを終えると、土方は落ち着いた声でざわついていた隊士達に言った。
其の指示に、隊士達はズラズラと会議室を出て行く。
『……トシ、雅焔ちゃんは如何する??』
『未だ鬼兵隊が江戸を離れた情報も入っちゃいねェ。屯所に留守番させておいても危ないだけですぜ』
『だからと言って此の任務に連れて行くのは危険だ』
近藤と沖田の言葉に、苦虫を噛み潰したような表情をする土方。
鬼兵隊が江戸から離れていない以上、雅焔を独りにさせるのはあまりにも危険だ。
もし、出掛けた彼等の隙を見て屯所を襲われたりしたら流石の真選組も対処できない。
況してや此の任務に同行させて怪我でもされたら滅相も無い。
『いや、大丈夫だ。俺に任せとけ』
◆
────そして、今に至るのである。
「トシ、倉庫の中の様子はどうだ??」
「今、山崎に行かせてる」
「相手はあの"相模"だ。油断はできねェ」
指示が終わり、懐から煙草を取りだし一息つく土方。
呉服屋の主人・相模湯太郎は、表向きは人の良い呉服屋の主人として、沢山の人に尊敬されている。
しかし、裏では攘夷浪士達のパトロンとなり、麻薬の運搬や人殺し等汚い仕事をさせている。
だが、其の人柄を買われ幕府でも一目置かれているので、役人はむやみやたらと手出しできないのだ。
いや、幕府の幹部とも繋がりがあるという噂もある為、調べる事すら困難だった。
「まっ、漸く尻尾を掴んだんだ」
“逃がしゃしねーよ”と、倉庫を見上げながら薄笑いを浮かべる土方。
其の時、羅奈とアリスが眉間に皺を寄せながら土方に歩み寄った。
「土方、雅焔は大丈夫だよね??」
「ああ。今頃万事屋の処にいるだろうよ」
「うむ、万事屋の処なら安全だろう。でも良く雅焔を万事屋に出逢わすよう仕向けたな。流石だ副長」
「いや、しかしだな……「副長ォオ!!」
土方の言葉は、倉庫の中の様子を調べて戻ってきた山崎によって遮られる。
「どーだった?」
「中は暗くてよく見えませんでしたが、確かに人の気配と声は聞えました。間違いなく相模湯太郎の声です」
山崎の報告に“そーかィ”と返事をした土方は、待機していた一番隊達を集めた。
全員が集まったと同時に土方が口を開いた。
「後五分で突入する。攘夷浪士共は斬ってもいいが相模だけは殺すな。生け捕りにしろ。重要な証拠だからな。
あと中が暗ェらしい。十分に注意しろ」
「マジですかィ土方さん。俺ァ何分目が悪い方なんで、間違って土方さんを斬っちまうかもしれやせんぜィ」
「そん時ゃあテメーより先に俺がテメーを斬ってやらァ」
そんなやり取りをしながら、倉庫の扉へと向かった。
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