二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂]僕の世界が壊れた。 ( No.192 )
日時: 2010/08/16 12:17
名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: GrJKliyZ)

          ◆伝えたい事


其の日。山崎はある組織への潜入捜査をしていた為、帰りが次の朝になってしまった。
疲労困憊の状態でふらふらと真選組の屯所に向かっていると、屯所の前に人が立っているのに気付いた。
こんな朝早くに誰だろうかと首を傾げて歩いていくと、山崎の足はピタリと止まってしまった。

其の人物は只頑なに門を、否門の向こう側を見据えていた。
さわりと風が吹き、二人の間を木の葉が舞った。
彼はゆるりと此方に顔を向けてふっと微笑った。

「久し振りだな、山崎君」

眼鏡の向こうにある若草色の瞳も、少し上からものを言うような態度も、声の調子だって、あの人だった。
そんな馬鹿な……っと思いながら其の人物の名を零した。


「伊東、さん……?」


其処に居たのは紛れもない伊東鴨太郎、其の人だった。
しかし彼はあの動乱の戦いで副長である土方と殺り合い、死んだ筈。
自分は其の場に居なかったが、真逆生きていたのか?
だが多くの隊士達が見守る中、彼は最期の時を迎えたと聞いたのだが。
頭を悩ませ始めた山崎に伊東は表情を崩す事なく淡々と喋り出した。

「山崎君。僕は正真正銘、伊東鴨太郎だ。言って置くが僕は既に死んでいる」

「今回は神が特別に僕等に時間を与えてくれた為に此処に存在している」

一気に言われた話に山崎は混乱し出した。
其の様子に伊東は苦笑した。
無理も無い。
僕だって同じ立場なら混乱していただろう。
死人が蘇るだなんて、非現実的な事を、と。
だが現実にこうして僕は此の場に存在しているからして信じるべき現実となっている。
信じられないと言われようが信じるほか無いのだ。

「えと、伊東さん?」

思考の渦に呑み込まれていた伊東は山崎の呼び掛けでハッと顔を上げた。
何だい? と聞けば山崎は真剣に僕の手を取って口を開いた。

「……信じられない事ですけど、俺、信じます。伊東さんが嘘を言ってるようにも見えませんし」

何か、伝えたい事があって来てくれたんでしょう? と言われ、伊東は目を閉じ頷いた。
────そうだ、僕は彼等に伝えたい事があるんだ。
だから神に頼んだのだ。
時間を下さい、と。
此の与えられた時間に彼等に言うのだ。

山崎は伊東の手を一度離すと屯所の門を少しだけ開き、再び伊東の手を取って中に入った。

「きっと皆吃驚しますね!」

ふふっと笑った山崎に伊東も其の場面を想像し、ふっと口元を緩めた。


(伝えたい事)
あの時はありがとうと、もう一度言わせてくれ。