二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂]僕の世界が壊れた。 ( No.219 )
日時: 2010/08/18 23:14
名前: 瓦龍、 ◆vBOFA0jTOg (ID: .mgbKoI3)

人の哀しみは解らない。
人の苦しみは解らない。

共感なんてしてない。
只の同情。

僕と君の感性は似ているだけ。
けして同じものではない。
貴方に僕の気持ちが解るのですか?

解るなら、此の身を切るような。
苦しみを、哀しみを、共に背負う覚悟がおありですか?

無いのでしょう。
同情ならいりませんよ。



▼mad15、同情なんていらない



「雅焔、ごっさ良い子アル!!」

バクバクと運ばれた料理を口にしながら興奮気味に神楽ちゃんは言う。
お昼過ぎでお腹いっぱいではないかと心配したが、彼女の食べ方を見れば大丈夫そうだ。

「——──けど、ホントに依頼料が此れで良いんですか?」
「いーんだって! 寧ろこっちの方が嬉しいからさ」
「そーアル! 此の茶づけはかなりいけるネ」
「僕達は食べたい物を食べてるんですから」

今僕達がいるのはファミレス。
依頼料は、何かご飯を奢ってくれれば其れで良いと言われたのでそうしてるが。
本当に此れで良いのだろうか。神楽ちゃんとかも、もっと高いの頼んでも良いのに、と思う。
坂田さんが頼んだのはチョコパフェ、神楽ちゃんは鮭茶漬け、新八君はラーメンを頼んでいた。

「まあ喜んでくれてるなら、其れで良いですけど」

そう言って、僕も頼んだチョコパフェを口に運ぶ。
嗚呼、斜め後ろからの視線が痛い。
坂田さんも特区に気付いている様子だが、彼は然程気にする様子はなく、目の前のパフェに釘付けだった。

「あー……、トイレ行ってきてますね」
「早く帰ってくるアルよ」
「はい」

僕は笑顔で答え、其の侭化粧室に向かった。
別に逃げたわけじゃない。あの場所には居たくなくて席を外しただけ……。いや、其れを逃げたというのか。


  ◆
 

懐かしい過去を思い出した。
家族が僕の誕生日を祝ってくれた日の過去だ。
母さんが何時もより少し豪華なご飯を作ってくれて、父さんが何時もより優しい笑顔を向けてくれて。
久し振りに家族と過ごす時間が凄く楽しくて笑っていると、いきなり視界が暗転。
見ると僕は真っ暗な処に一人ぼっちで立っていた。向こうに何か見える。
近付いてみると母さんの葬式の時の光景だった。
其の中で僕は一人だけ泣かずに無表情でいた。其の瞳には何も映しておらず、只虚ろな目をしている。

『“   ”ちゃんも可哀想に。まだ8歳でしょ?』
『元気出すんだよ、“   ”ちゃん』
『引き取ってあげたいけど、うちは余裕無いのよ』
『うちも厳しいねぇ……』

上辺だけの慰めの言葉なんていらない、僕は一人でも大丈夫、そんな言葉ばかりが頭に浮かんだ。

『“   ”ちゃんは強い子ね、泣かずにしっかりしてるもの』
『そうだね、“   ”は立派な子だよ』

泣かないんじゃない。
泣けないんだよ。
悲し過ぎて悲し過ぎて、泣きたいのに、何故か涙は零れない。
泣いて泣いて、全てを吐き出せたら、どんなに楽だろう。
でも僕には其れが出来なかった。何故かは、解らない。
僕はこんなにも薄情な人間だったのか、なんて冷静に考えていた。


  ◆


「……はぁっ……!!」

今のは夢だったのか、と目を開けて少し安堵する。
どうやら僕は洗面所の前で魘されていたらしい、全身汗だくで呼吸が乱れていた。
夢で見た映像が頭から離れない。
悲しさと苦しさと、あの時涙も流せない自分への嫌悪感とで苛々する。
頭をがしがしと掻きむしり、髪を千切れる位に握りしめ、奥歯をぎりぎりと食いしばった。

「こーら、髪痛んじゃうよ?」
「……っ?!」

不意に緊張感のない声が聞こえた。
其れと同時に髪を掴んでいた手を優しく握られ、驚いて振り向くと坂田さんが立っていた。
其の後ろには御腹いっぱいと言いたげに腹を擦る神楽ちゃんと、此処が女子便所だからか慌てている新八君。
こんな自分の様子を悟られたくなくて、無理やり笑顔を作って話しかける。
しかし、自分でも引き攣ってるのは判った。

「あ……、すいません。待たせてました?」
「いや、さっき食い終わった」
「じゃあ、もう出ましょうか。僕、お金払ってきます」

はは、と乾いた笑いを溢すと、坂田さんは表情を険しくした。其れに思わずどきりとする。
何か気を悪くしてしまうような事を言ってしまっただろうか。
そう不安に思っていた僕の顔を覗き込むように神楽ちゃんは少し屈んだ。

「……無兎、お前如何したアルカ? 汗も凄い掻いてるし、何かあったアルカ?」
「……、いえ、何もありませんよ」

全てを彼等に話してしまいたい気持ちもあるが、迷惑はかけられない。
只でさえ色々お世話になったのだから。何より薄情な自分を知られるのが嫌だった。
こうして僕達は、重い空気の侭店を出た。


    ───────────


今日は本当に楽しかった、と。
彼等に伝え僕は帰ろうとしたのだが。

「雅焔、帰るアルカ? 私まだ雅焔と遊びたいネ」
「神楽ちゃん、御免ね。あまり遅くなるといけないから」
「神楽ちゃんは定春に飯やらなくちゃ駄目だよ」
「忘れていたアル……。雅焔、絶対また遊ぼうネ!!」
「うん。約束ね」

新八行くヨ! と言うと後ろ手を振りながら神楽ちゃんと新八君は万事屋へ向かった。
そして、残されたのは僕と坂田さんだけ。

「雅焔ちゃん、ちょっと話しねぇ?」
「はい? 良いです……けど」
「そりゃ良かった。処で……」

不意に屈んだ坂田さんは僕の耳元で囁いた。
────『走れるか?』
彼の表情から事情を察した僕は小さく頷けば力強く握られた腕。
突然走り出した坂田さんに引っ張られるようにして進む道。
気付けば僕の息は上がり、其処は道行く人もない路地裏だった。

「さて、お邪魔虫は撒いたしじっくり、お話しようねぇ〜」
「でも逃げちゃったから土方さんと総悟に余計心配させちゃう事になりますよ」
「雅焔ちゃんはあいつ等の事、大事に思ってんだな」
「……はい」
「ちょっと銀さん妬けちゃうんですけどォ! じゃあさ多串君と総一郎君も安心な店で話すかァ。
 あんま気は乗らねェけどゴリラもいるだろーしよ。其処なら良いだろ?」
「ありがとう、銀」

僕は思わず、そう口にしていた。
すると、坂田さんは急に顔色を変える。
そう、其れはまるで死人を見るような目で、僕を凝視するのだ。

「今、“銀”って言った?」
「え、僕そう言ってました? おかしいな……」

ズイッ、と。
不意に近付いた銀色の髪。
何時の間に? と思えるような素早さで腰に回された坂田さんの腕。


「────雅焔」


囁かれた声は今まで聞いた事の無い位低く儚く。
思考回路などと言うものを遮るには十分過ぎるもので。
ドキンッと胸が高鳴ってしまった時だ。
胸の高鳴りと同時に脳裏に過ぎる、綺麗な女の笑顔だった。

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