二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: −あまつき−*あの日の初恋* ( No.3 )
日時: 2010/08/15 15:28
名前: 涙水 (ID: yxu7BdpM)

 【第三話】いつもの風景


仁王立ちした少女に、鴇時は笑いかけて名前を呼んだ。

朽葉くちは!」

鴇時が名を呼んだ少女は、瑠璃同様にこの寺で生活をしている。
詳しい事は知らないが、なんでも彼女はその身の内に犬神という妖怪の類を飼っている憑き物筋の一族なのだそうだ。

「ごめんね、朽葉ちゃん。
 遅くなっちゃって」

瑠璃が朽葉に謝ると、居間の奥から声がした。

「悪いのは鴇だろ。
 大方瑠璃が起こしても起きなかった、ってところか」

言い終わるころ朽葉の背後から現れたのは黒い髪を頭の上で結い、着物を着崩すした青年。
彼の名前は篠ノ女紺しののめこん
暮らしているのはこの寺ではなく下町の長屋で、作ればタダ飯食えるから、との理由でしょっちゅうここに食事を作りにくる。
そして、鴇時と同じ夜行と鵺に襲われこの世界に来てしまった人間で、ついでに言うと同じ高校の同級生だった。
紺がこの世界に来たのは二年程前で、つい先日こっちへ来た鴇時とは大きな差がある。
しかし向こうの世界で夜行と鵺に襲われたのはほぼ同時刻。
どうもこちらとあちらでは時間差が激しいらしい。

「ほう、つまり非があるのは鴇だけということか」

紺の言葉に納得した朽葉が頷いた。
それに鴇時が非難の声を上げる。

「ちょっと朽葉、納得しないで!
 ……間違ってはいないけど」

「まあまあ、お前達。
 そんなところで突っ立っていないで、とりあえず朝飯を食べなさい」

居間から新しい男の声がした。
苦笑混じりのその声は、この寺の主であり坊主の沙門しゃもんだ。
面倒見の良さそうな顔をしたその男は、朝っぱらから酒で顔を赤らめている。
坊主のくせに酒を飲む沙門は、顔だけでなく実際面倒見が良い。
何たって、どこぞの馬の骨ともしれない鴇時を快く寺に置いてくれているのだから。
沙門の言葉で、4人は食事を取る体勢にはいった。
ようやく席に着いた鴇時が、自分の朝食を見渡す。

「今朝は山菜の炊き込みと赤味噌の味噌汁。
 ついでに漬物と梅干しだ。残さず食ってくれよ」

料理ののった盆の前にあぐらをかいた紺が言い、全員が箸を手にとった。