二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂] 刀を持った桃太郎⇒02up ( No.14 )
日時: 2010/08/23 10:07
名前: 偉薔薇 ◆aWifV7VEAQ (ID: PAeJS2fQ)

 __第03話__


「糞餓鬼が! 大人に勝てると思ってんのか!?」
「アンタ、子供にムキになるなんて餓鬼だねェ。俺ァ一応剣術を習ってる。剣も無しにどうするって言うんだ?」
「グッ……!!」

怒鳴り散らす淋牙に、挑発するように銀時が反論をする。
すると淋牙は悔しそうな表情を浮かべながら黙り込む。
銀時が言うように、淋牙の腰元には剣の姿は無い。彼は、単なる一般人のようだ。
其れに対し銀時は、子供でありながら剣術を習っている。
子供と言えど、剣を使えるか使えないかでは、明らかに銀時の方が有利なのだ。

暫く黙り込んでいた淋牙だったが、分が悪いと察したのか、踵を返し玄関へと歩いて行く。
扉をガラリと乱暴に開け、足を踏み出そうとした時。
顔だけをこちらに向けて口を開いた。


「……俺ァ、財産をソイツにやるなんざ、認めねーからな」
「…………」


迅楓の返事を待つ事もなく、淋牙はバンッと大きな音を出し扉を閉め、家から去って行った。
淋牙がいなくなった事により、静寂が此の部屋を包み込んだ。
どれほど淋牙が騒がしかったのか、改めて実感してしまう。

(……訳有りみてェだな)
口を固く閉ざし浮かばない表情をする迅楓を一瞥し、銀時はふと考える。
実の弟だと名乗った、淋牙。
淋牙の兄である、迅楓。
娘の宝だと言われた、初愛。
そして、財産の話。

(ややこしいみてェだな。金関係でごちゃごちゃしてるみてェだ)
財産の事を、淋牙が感情を露にしながら話をしていたのだ。
財産譲渡に対して、何らかのいざこざがある事くらい手に取るようにわかってしまう。


“俺ァ、財産をソイツにやるなんざ、認めねーからな”


(あの目、ヤバかったな……)
淋牙の台詞が蘇ると同時に、淋牙の目付きを思い出し体が震える。
あの時の淋牙の目を、自分は痛くわかっているからだ。
あの、獲物を狩ろうとするような、鋭い目付きは——。


「んぬぅ……」
「……お??」

と、シンと静まりかえっていた此の部屋に、小さい声が響いた。
声の方向に視線を移せば、先程まで眠っていた初愛が、眠そうにしながらむくりと起き上がっていた。

「おぉ、初愛。おはよう」
「お爺ちゃん、桃太郎は……?」
「其処におるよ」

酷く眠そうにしながら桃太郎の所在を聞く初愛。

(桃太郎?)
桃太郎とは一体誰の事だろうと、ぼんやり考えていれば、迅楓が指を指す。
其の指先の方向の先は——紛れもなく、自分だったのだ。

「……は? 俺?」
「桃太郎!!」

まさか自分では無いだろうと、少々動揺しながら迅楓に聞き直す。
しかし、其の幼い少女——初愛は、眠そうな目を一転させる。
そして屈託の無い無邪気な笑顔を浮かべながら、自分を桃太郎と呼んだ。

「……え? いや、違うからね? 銀さんは桃から生まれて無いからね?」
「桃太郎!!」
「うおっ!!」

自分は桃太郎では無いと否定していたが、初愛は聞く耳も持たない。
とてとてと転びそうな歩みをしながら、自分に飛び付いて来た。
銀時は驚きながらも初愛を抱き抱える。

「初愛、今日は其の少年のお陰でなァ、淋牙は帰ったよ」
「本当!?」

迅楓が淋牙の事を初愛に告げれば、初愛はパッと目を輝かせながらまた自分を見つめて来た。
コロコロ表情を変えて、せわしい子だなと思っていれば、また可愛らしい笑顔を見せる。

「やっぱり、桃太郎だ!」
「いや、だから違うって。俺ァ銀時——」
「鬼さん退治、してくれてありがとう!」

ニコリと笑顔を浮かべながら自分に伝えて来た其の言葉に、先程の光景がフラッシュバックする。

(……確かに、あれは此の子にとっちゃ、鬼でしかねェな)
15の自分すら身震いするほど恐ろしい勘太の目付き。
此の幼い少女にとって、淋牙は鬼其のものだ。

兄である迅楓。
迅楓を兄と呼び、財産を狙う淋牙。
迅楓の娘が残したと言う、初愛。

拗れたような繋がりを持つ此の三人に、何故此のような亀裂が起きてしまったのか。
初愛に、果たしてどんな悲しい過去があると言うのか。
銀時には、まだ知るはずもなく。

此れが、銀時と初愛の出会い。

「桃太郎!」
「いや、だから俺ァ銀時だ。坂田銀時、わかったか?」
「桃太郎!!」
「……駄目だこりゃ」