二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂] 刀を持った桃太郎⇒03up ( No.16 )
- 日時: 2010/08/23 10:07
- 名前: 偉薔薇 ◆aWifV7VEAQ (ID: PAeJS2fQ)
__第04話__
「桃太郎、ハイ! ご飯!!」
「あぁ……ありがとな。其れから俺ァ銀──」
「なぁに? 桃太郎さん」
「……いや、何でもねェよ」
(駄目だ、まるで無意味だなこりゃ)
白くほかほかに炊き上がったご飯を、自分に差し出す少女、初愛。
初愛は満面の笑みを浮かべ、自分を「桃太郎」と呼びながらご飯を渡して来た。
あれから自分の名は“坂田銀時”だと何度も復唱させたり名乗ったりしたが、其れは無駄な努力で終わった。
いくら名前を教えても「桃太郎」と言って聞く耳を持たないのだ。
「美味しい?」
「あぁ、美味いよ」
「良かったぁ」
(どうやら“桃太郎”である俺を酷く気に入っちまったらしいなァ)
桃太郎と自分を呼ぶ初愛は、自分を相当気に入ったのか、ここ数日の間自分の側を離れないのだ。
片時も離れないと言って良いだろう。離れるとすれば、トイレとお風呂ぐらいだ。
寝る時も、気づけば自分の布団に入り込んですやすやと眠っているのだから。
「熱の方は、下がったかい?」
「あ、はい。お陰様でよくなりました。明日には、帰ろうかと思います」
「そうかそうか、元気になって何よりじゃ」
此の家の主兼初愛の育ての親であろう迅楓が自分の容態について聞いて来たので、大丈夫だと答える。
すると迅楓は柔らかな笑みを浮かべた。
「桃太郎、帰っちゃうのー?」
「ん? あァ、あんま長居すんのも悪いからな」
「嫌だー、もっといてよぉ」
「悪い悪い、ちゃんと遊びに来るからよ」
熱も下がったのだから、明日にでも皆が待つ家に帰る旨を伝えれば、初愛は頬を膨らまし駄々をこねる。
また遊びに来ると良い頭をポンポンと撫でるが、初愛はまだむくれていた。
「すまんのぅ、此の子は寂しがりやだからのぅ。初愛、あんま桃太郎さんを困らせちゃいかんぞ?」
「あ、いえ……ってか、桃太郎じゃないんですが」
むくれている初愛を注意するも、初愛は聞く耳を持たない。
いかにも困惑していると言ったような表情を迅楓が浮かべれば、初愛は何を思ったのか。
まだ食べきっていない白いご飯を床に置き勢い良く立ち上がった。
「桃太郎、散歩しよ!!」
「は? 散歩?」
「散歩散歩散歩〜!」
「分かった分かった、わったから!」
突如元気よく散歩に行きたいと言い出した初愛。
此の態度は行かなきゃ気がすまない態度だと悟った銀時は、初愛の提案に賛同する。
初愛は至極嬉しそうに目を細め眩しい笑みを浮かべれば、ピョンピョンと其の場を飛び回った。
◆・◆・◆・◆
立て付けの悪い扉をがらりと開け、外に出る初愛と銀時。
夏と言う事もあり、外は夏の暑さが辺りをを支配していた。蝉の鳴き声が、暑さに拍車をかける。
(暑ィな)
手を目の上にかざし、目を細める銀時。太陽が燦々と降り注いでいて、眩しい。
「桃太郎ー、川に行こう! 川、涼しいよ!」
「ハイハイ」
暑さにバテかけてきている自分とは対照的に、初愛は未だ涼しい顔をしてパタパタと走っている。
自分はまだ15と言う比較的若い部類の人間なのだが、此の暑さには普段満ち足りた体力すら消耗してしまう。
6歳である初愛は、まだまだ底知れぬパワーがあるのだろうかと思ってしまう。
「桃太郎ー、早く早くー!」
「分かったから、ちょっと待て。早ェよ初愛」
初愛に呼ばれ、重い足を動かす。少しゆっくりと歩いただけで、初愛と大幅に距離が出来てしまう。
やはり若い者には敵わないな、など考え汗をかきながらまた地を蹴る。
「桃太郎、此処だよ!」
「あぁ、川だな」
「此処に倒れてたんだよ」
歩いて少したったあたりで、川岸に辿り着いた。
初愛は川の端を指差しながら、自分が倒れていたと言う旨を伝えて来た。
初愛が指を指した方向には、所々大きな石が飛び出ていた。
尖った石が幾つもあったと言うのに無傷だった自分は、相当運が良かったのかもしれない。
此の石に当たっていたら、大怪我を負っただろう。
「ねー、桃太郎」
「ん?」
「初愛を連れてってよ」
「……は?」
太陽が反射しキラキラと輝く川は、汚染されておらず綺麗だと言う証拠だ。
其処に足をつけ、涼んでいた時に初愛が予想外の言葉を溢して来た。
いつもの明るい笑顔は何処へやら、俯き少々諦めにも似た弱々しい笑顔を浮かべていた。
「……お爺ちゃん、苦しいの。初愛がいるから。お金の事で、いつも淋雅おじちゃんと言い争ってるの』
「…………」
「其れは初愛がいるからだって、淋雅おじちゃんが言ってた。
お爺ちゃんが大好きなら、いなくなった方が良いって」
川の側にある小石を掴み、ポイと投げる初愛。投げた小石は、一度跳ね上がり呆気なく沈んでしまった。
振り上げた腕をゆっくりと下ろす初愛。
6歳の幼い少女だと言うのに、今の表情は6歳の女の子ならば持ち合わせていない、悲しい表情だった。