二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂] 刀を持った桃太郎⇒07up ( No.23 )
- 日時: 2010/08/23 13:30
- 名前: 偉薔薇 ◆aWifV7VEAQ (ID: PAeJS2fQ)
__第08話__
「テメェみてーな小娘がいて良い場所じゃねェんだよ、早く家帰って母親んところにでも行きやがれ」
「あ、オイ高杉——!!」
しまった、と銀時は思った。初愛の両親が既に死んだと、二人は知らないのだ。
高杉に勿論悪気は無かったのだ。
捻くれた性格と言えど親が死んでいると知っているのであれば、このような事は口にしない。
初愛を一瞥すれば、高杉に幾ら鋭い視線を送られても、殺気を出されてもニコリと笑っていた。
其れなのに、たった今発言した高杉の言葉に表情は沈んでいて。
(やっぱ悲しいよな……)
迅楓と言うお祖父さんはいるものの、やはり両親がいない事実は、初愛の瞳を暗くさせた。
流石の高杉も其の複雑な事情を想像ではあるが察したらしい。
眉間に皺を寄せチッと舌打ちをして頭を無造作に掻く。
「……あ゛ー、クソッ。勝手にしやがれ!俺ァ面倒なんざ見ねェからな」
「……え?」
「良いのか、高杉?」
「だから好きにしろっつってんだろ、俺ァ知らねェよ」
断固拒否していた高杉だが、流石に初愛の一転した暗い雰囲気を察してか否か。
此処に泊めると言う事を許可したのだ。
不機嫌そうに家に向かう高杉に、初愛はぱあっと表情を明るくさせれば、トテトテと近づき高杉の足を掴む。
「高杉ィー、ありがとう!」
「テメッ、くっつくな! 年下の癖に呼び捨てか! オイテメェ等、コイツなんとかしろ!」
「中々良いコンビじゃない? ねぇ銀?」
「……そうだなァ」
(全く、不思議なやつだよ、初愛は)
満面の笑みで高杉の足腰にくっつく初愛。
引き剥がそうとする高杉の頬は、照れているのだろう、赤く染まっている。
本当に不思議な子だと、其の光景を見て思う。
思えば自分達の住む此の壊れかけた家で生活して来て、高杉が余裕の無い表情をした時があっただろうか。
高杉だけでは無い、自分も彼女に振り回されっぱなしだ。
桃太郎と呼んで聞かない彼女に、幾度と無く振り回された。
しかし、振り回されても、不思議とそれが嫌と感じなかった。
其れはきっと、高杉も同じで。
照れながら引き剥がそうとするも、眉間に皺を寄せたり、先程のような殺気を全く感じない。
(……本当に、不思議な子だな)
◆・◆・◆・◆
其の後、結局夜も遅いので初愛をこの家に泊める事となった。
此の家は師範である松陽先生の家なのだが、今は出張で留守にしている。
他にも身寄りの無い門下生が此の家に住んでいた。
しかし自分達より幾分幼いため、松陽先生が出張先に連れて行ったのだ。
故に今此処にいるのは、自分と桂と高杉とアリスと初恋と——初愛と。
六人で質素な食事を囲み談笑しながら箸を進める。
「へぇー、此の子が銀時が拉致ってきた初愛ちゃんですね?」
「違ぇよ。拉致ってねぇよ。勝手に付いて来ただけだ」
「怖かったですよねぇ、あの腐れ天パ。でももう大丈夫ですよ。僕が付いてますから」
「オイ無視ですか、ねぇ無視ですかァ!?」
気付いたら、紳士的な喋り方の雨欟初恋が初愛の隣に腰を下ろして笑っていた。
此処に居る連中は油断も隙もねぇと、銀時は呆れてしまう。
「僕は雨欟初r────」
「浦島太郎だ!!」
「は?」
案の定、初恋は自分の自己紹介をさせて貰えず、初愛の言葉によって遮られる。
どの辺から思いついたのか解らないが、初恋は浦島太郎から“浦島太郎”と名付けられたいた。
名付けられた本人は頭に「?マーク」を浮かべて、暫く考えていたが、ふと何か思いついたように手を叩く。
「ああ、あだ名って事ですね」
「浦島太郎。其れなあに?」
「え? あ、此れですか? 此れはお餅ですよ。初愛ちゃんも御一つ食べますか?」
「食べるー!」
初恋に貰った御餅を頬張る初愛の笑顔は眩しく、可愛らしかった。
談笑と言えど、高杉は始終顔をしかめたままだったし、全く喋らず無言を貫き通していたのだが。
やはり、小さな子供を高杉は好かないらしい。
「どれ、初愛。そろそろ寝る時間だぜ」
「桃太郎と寝る!」
「おぅ、俺ァ明日早ェからな。さっさと寝るぞ」
部屋に布団を敷いてやれば、我先にと言わんばかりに初愛はスルリと銀時の布団に入って来た。
普通なら、幾ら6歳の子供と言えど一緒に寝る事に少し抵抗を示しただろう。
しかしながら生憎迅楓の家にいた時、常に自分の布団で共に寝ていたから、慣れてしまった。
慣れとは恐ろしいものだ。
「あれ、もう寝るんですか」
「よしよし初愛、俺が眠れるように本を読んでやろう」
「わーい! 猿さん、早く早く!!」
「猿じゃない桂だ! では早速……」
自分も布団に入り眠りにつこうとした時、自分の部屋の襖が開く。
ズカズカと無遠慮に入って来た人物は、桂と初恋。
何かと初愛の世話をする辺りをみれば、桂は相当初愛を気に入っているらしい。
仲良き事は美しきかな、と心の中で唱え今日のハードな遊びの疲れに欠伸をしていた時、桂の朗読が始まる。
「……昔昔、一人の妻と一人の旦那が住んでいました」
「うんうん!」
「しかし、二人の仲は冷めきっていたのだ。朝はおはようも何も言わず、寝る時もお休みとは言わない。
帰りが遅いなんてしょっちゅう。そんな生活に嫌気がさして来た時、隣のお兄さんが突然妻に……」
「ちょっと待てやァァァァァ!!!」
話を中断させるように初恋が叫び声を上げ、桂が読んでいた本を取り上げる。
其の本のタイトルは、“人妻の人生七転び八起き”と書かれていて。
(どう見てもヅラの趣味の怪しい本じゃねーかァア!!)
てっきり日本昔話などの幼く純粋な本を読ませると思っていただけに、驚きを隠せない。
初恋も此の部屋にいて良かったと、安堵する。初愛も危ない道へ足を踏み入れてしまったかもしれない。
此の時だけ、初恋に感謝した銀時だった。
銀時は桂に対する当て付けの為の溜め息を、盛大に吐いた。