二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂] 刀を持った桃太郎⇒08up ( No.24 )
日時: 2010/08/23 14:43
名前: 偉薔薇 ◆aWifV7VEAQ (ID: PAeJS2fQ)

 __第09話__


「なんだ銀時、お前も読みたいのか? ならば後で貸してやるから今はおとなしく寝てなさい」
「違ェーよ、読みたくねーよ。っつーか何つー本読んでんだよ、何だよ“人妻の人生七転び八起き”って。
 明らかにやらしい本じゃねェか!」
「やらしいくなんか無いぞ! 此の結末はな、妻の寂しさを隣のお兄さんが体で癒してくれてだな……」
「「十分やらしいわァァァ!!」」

桂の言い分にはほとほと呆れてしまう。
最早其れが本気かそうでないのかもわからない辺りが厄介だ。
初愛はまだ6歳だと言うのに、此のような本を平気で読ませようとするのだから。
あのまま初恋が止めなければ、ずっと朗読を続けたのだろうか。

「ったく、もう良いから寝ろよヅラ……」
「ヅラじゃない桂だ!」
「あーそうだな鬘みてーな髪してんもんな、女みてーにサラサラだしよ」
「なんだと! 貴様などいやらしい天然パーマでは無いか!」
「どの辺がいやらしいんですか」

少しも初愛の事を考えてやらない桂に苛々する。
つい憎まれ口を叩けば、毎度お馴染みの口喧嘩が始まってしまった。
此のような喧嘩は本当にしょっちゅうだ。
お互いがお互い髪の毛に関しては何かと煩く、サラサラの桂の髪を女みたいだと言う銀時。
対して銀時の天然パーマは汚ならしくてならないと言う桂。
此の髪の毛談義が始まると、軽く数時間は経ってしまう。
高杉や初恋に煩いと怒鳴られるのも時間の問題だろう。

「俺のパーマはなァ、綿菓子のようにっ……てあだだだ!」
「取れる! いてて、初愛殿髪が抜ける……!」

談義が白熱してきたところで、突如初愛が二人の髪の毛を引っ張り出した。
痛みに顔を歪め涙目になる二人の髪を引っ張るのを止めれば、ニコリと。
だけど睡魔が襲って来たからか、うつらうつらになりながらも笑顔を向ける。

「猿さんの髪はサラサラ……桃太郎の髪はフワフワ。浦島太郎の髪はキラキラ……どれも、好きだよ」

そう言葉にして、ポスッと柔らかな音をたて、くぅくぅと眠りについた初愛。
突然の事で暫く呆然としていた三人だった。
しかし彼女が眠りにつき数秒し、お互いが顔を見合わせ目をぱちくりさせた後、喉をクックッとならし笑い始めた。

「フフッ、銀時、小太郎」
「ククッ……何だ? 初恋」
「此のような汚れを知らない純粋無垢な子がいるのは、良い事ですね」
「……そうだな、もっと早くに出会ってたら良かったな」

お互いに穏やかな笑みを浮かべ、すやすやと安らかに眠る初愛の寝顔を見つめる。
其れは其れは、愛おしそうに。

(……依存しちまいそーだな、俺もヅラも初恋も)
眠る初愛の髪の毛を掻き揚げながら、率直にそう思う銀時。
戦場に出るために日夜刀を持ち、手にたこを作りながら生きている。
今はまだ戦場に出た時は無いが、いずれ自分は此の手で人を殺す時がやって来る。
何時か必ず、此の手を赤く染め上げる時が、やって来る。

だから、だからこそ。

此の純粋な少女と共にいれば、自分も汚れないような気がする。
其れとは逆に、純粋な少女を汚さぬよう離れなければならない気もする。
いずれどちらかの選択肢を選ばなければならなくなる。だとしても。

(……今は、良いよな)
自分と桂と初恋の醜い言い争いすらも包み込んだ少女。
お互いのコンプレックスである髪を、好きと言ってくれた。
其れは長い間待ちわびた言葉で、同情だ慰めだと言う事を知らない幼い彼女の、素直な気持ち。

こんなに心が穏やかになるのは、何時ぶりだろうか。
(本当、凄ェよ、初愛は)
幸せそうに眠る初愛の姿を眺めていれば、先程覚めきってしまった睡魔が再び自分を襲う。
今度は其の睡魔に従い、銀時は意識を手放し深い眠りについたのだった。

  ◆・◆・◆・◆

「銀ちゃーん!!」
「……んぉ?」

沈めていた意識を、自分を呼ぶ声が耳に入り、ゆっくりと浮上させる。
横には初愛が眠っていたが、同じように自分を呼ぶ声に気付き、重い瞼をゴシゴシと擦っていた。
桂と初恋は何時の間にか自室に戻っていたらしく、違う部屋から慌ただしい声を聞きつけこちらにやって来た。

「大変だよ銀ちゃん!」
「……あぁ、耶麻じゃねーか、どーした?」

息を切らし自分の名を叫びやって来たのは、師範である松陽の教えを共に受けている門下生の罪木耶麻だった。
耶麻は身寄りがあったので、松陽の家では無く別の少し離れた家で暮らしているのだ。
耶麻は乱れた息を整え汗をかきながら、瞳に不安の色を映し捲し立てるように話出す。

「高杉が、山賊に襲われたらしいの! 探してるけど、何処にもいない!」
「な、んだって……!?」

耶麻の言葉に、自分も桂も初恋も驚愕の表情を浮かべた。
話によれば、高杉は早朝に目を覚まし朝の鍛錬の為少し離れたところに赴いた。
其処で山賊に出くわし、怪我を負った。そして其の侭行方不明となったらしい。

「わかった、高杉を探しに行って来る!」
「初愛も行く!」
「初愛はあぶねェから耶麻と一緒に待ってろ。行くぞヅラ、初恋」
「ヅラじゃない桂だ!」
「言われなくても解ってます!!」

耳にたこが出来る程の同じ言葉を吐き出した桂だが、素早く走り出した。
余裕そうに見えるが、やはり高杉がいなくなった事が心配らしい、何時もより動揺しているように見える。
初恋も何時もの穏やかな表情とは一変して、険しい表情をしている。

(クソッ……! 単独行動して襲われてんじゃねェよ)
高杉への文句を考えながらも、焦燥感と不安は拭えない。
高杉の剣術は其処其処に良い腕を持っている。しかし、まだ実戦に移った事は無い。
だからかはわからないが、山賊にやられ行方不明と聞いてしまっては、落ち着かないのも無理は無い。

(会ったら絶対文句言ってブン殴ってやる!)
手に拳を作り、殴る想像をする。
仲間は足手まといだと何時も軽口を叩くから、そうなるのだと一喝してやりたい。
だから、死ぬな。
だから、まだ其の手を血で染めるな。

「っ……! 高杉ィィ!!」

高杉の名を呼ぶ。辺りに自分の声が木霊した。
銀時と桂、初恋は無我夢中で、悪友でもあり大事な友達の姿を探していた。

其の時、幼い少女——初愛も、高杉を探す為耶麻を振り切り動き出したとも、知らぬまま。