二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂] 刀を持った桃太郎 ( No.38 )
- 日時: 2010/08/23 22:49
- 名前: 偉薔薇 ◆aWifV7VEAQ (ID: Tdpl2T10)
__第12話__
「へっ、餓鬼が生意気な……!」
「やっちまうか」
自分の拒否を示す言葉に怒りを覚えたらしい山賊は、素早く剣を抜いた。同じように自分も鞘から剣を抜く。
(状況的には不利だな……!)
構えながら山賊を見渡す。先程は5人いたが今は3人しかいない。此れだけは少しの救いとなった。
しかし、自分は肩と足を負傷している。実際は歩くのもままならない。
怪我をしていなければ確実に勝算はあるのだが、ハンデが大きい。
加えて初愛がいるのだから、人質にとられたりなどしたら確実に終わりだ。
「テメェは隠れてろ、命令だ」
「でも……」
「早く行け!!」
渋る初愛に痺れをきらした高杉は、ドシっと初愛の背中を押す。
其れを合図にしたかのように、山賊達が向かって来た。
「避けてばかりだな!」
「さっきの勢いはどうしたァ!?」
「っるせェ、よっ!!」
一人の攻撃を剣で受け止め、もう一人の攻撃を鞘で止め、残りは体を動かして避ける。
捻った足に痛みが走るが、我慢するしか無い。気を散らせてしまえば、命は無いのだ。
3人相手ともなれば動いて避けるしか無い。攻撃をする暇も与えない相手に苛立ちを覚えてしまう。
「っつ!!」
「貰ったァ!!」
ズキンと、今までの比では無い程の痛みが自身の足に走った。
刀を防ぐので精一杯だった時に、足を思いきり蹴られてしまった。
痛みに顔を歪め動きを無意識に止める、其れを見計らい男は自分に刀を振り下ろして来た。
「っ、高杉ィィ!!」
振り下ろされる刀がスローモーションのように見える。
同時に聞こえた、自分の名を呼ぶ少女の声。
“高杉って名前呼ぶ人、いっぱいいる。桃太郎も猿さんもみーんな”
(満更でもねェ、かもな)
自分の名前を呼ぶ声、其れは確かに自分を求められている言葉だ。
自分が煩わしいと思っていただけで、何時だって確かに自分を求められる瞬間はあった。
初愛の言葉がとても深いものだと痛感した。
まだ6歳の少女なのに、こんなにも名前の深さを知っているのか。
最後の最後に、仲間がいたのだと認識するのは、遅すぎるかもしれない。
「よォ、こんな所でくたばるタマかてめェは」
「……な!?」
「何だテメェ等は!?」
キィンと、甲高い音に閉じかけた瞼を開ける。
其処には、何時の間にか人が立っていた。まるで自分の前に立ちはだかるように——守るように。
山賊が振り下ろしていた刀を、まだ成人に満たない二人が刀で止めている。
其の逞しい後ろ姿は、見飽きた人物。
「銀時に初恋、ヅラじゃねーか」
「ヅラじゃない桂だ。お前がいなくなったと聞いたら、初愛の為に買った小説も読み聞かせられぬのでな」
「ありゃヅラの私物じゃねーか」
坂田銀時に、桂小太郎に、雨欟初恋。
自分の名を呼んでくれる、仲間だ。
「も、桃太郎ー……!!」
「おー、初愛は危ねェからまだ下がってな」
銀時の登場に安心したのだろう、初愛は涙目でよろよろと頼りない足取りでこちらに近づいて来た。
銀時は安心させるように微笑み、近づかぬよう促す。
「何、初愛涙目じゃねーか。何泣かせてんだよ高杉ィ」
「俺じゃねーよ」
「じゃあ、」
お互いを見合わせて、ニヤリと笑う。
何時も犬猿の仲で対称的な自分達が、息ピッタリになる瞬間だった。
次の瞬間には背中を合わせ、地を蹴りだした。山賊3人の背中に、皆既に刀を構えていた。
「「鬼だな」」
打ち合わせも何も無しに同じ言葉を吐き出し、何処か可笑しくなりながらも、素早く刀を振り下ろした。
初愛を泣かせたのは桃太郎でも猿でも、犬でも無い。
山賊——鬼なのだ。
◆・◆・◆・◆
「桃太郎〜!」
「おー、初愛、よしよし。でもよォ、大人しく待ってろっつったろォ? 駄目じゃねーか」
山賊達を見事倒した銀時に、初愛は笑顔で近寄りギュッと服の袖をつかむ。
其の横にはのびて倒れている山賊達。峰打ちなので恐らく死んではいないはずだ。
「きっと初愛は本を待ちきれなかったのだ。今日は人妻の空と言う本を……」
「よし、高杉も初愛も無事だったんですし。帰りましょうか」
「無視するなァァァァ!!!」
桂は懲りず自分の趣味である怪しい本を読ませようとする。
しかし初恋は彼を見事に無視し、初愛の手を取り彼女を送る為歩き出す。
まだ6歳の純粋な少女を、桂色に汚すのは断固拒否したい。
と、突如初愛の手が初恋から解けた。
其れは初愛が自らの意思でほどいたのでは無く、無理矢理にはがされたように、不自然に解けた。
首を傾げた初恋は初愛に視線を移せば、其の隣には仏頂面をした高杉。
其の高杉が、前日まで嫌っていた少女の手を、しっかりと掴んでいるでは無いか。
「……え? え? 何!?」
「俺が送って行く」
予想していなかった行動と言葉に、口をあんぐりと開けてしまう。開いた口が塞がらない。
女子供は大の付く程嫌いな高杉が、自ら初愛を送ると言うのだ。
もしかしたら山賊に斬られて頭が可笑しくなったのだろうか。
「ちょ、お前何? 可笑しくなったのか?」
「テメェ程じゃねーよ」
「其れは頭か? 髪型かコノヤロー」
「銀時」
「あ?」
何だよ。
そう言うつもりだったが、其の言葉は繋がらなかった。
其れよりも先に、少々照れたような高杉の表情と、言葉が出てきたからだ。
「……サンキュー」
「は……?」
益々塞がらなくなった口。其れに気づく事なく、高杉は初愛を連れて行ってしまった。
(……銀時、か。久々に呼ばれたな)
そう言えば、高杉は足を捻っていたのに、もう歩いて大丈夫なのだろうか。
其れよりも、初愛の家の場所はわかるのだろうか。
漸く正常に働き始めた頭からふつふつと疑問がわくが、今更すぎる疑問は至極どうでもよいものだった。
其れよりも何よりも、高杉が自分の名を呼び、尚且つ礼の言葉が出てくるとは。高杉は人と関わるのを嫌う。
故に薄い壁のようなものを感じていたが、今は其れが取り払われたようだ。
心強い、仲間。
心変わりをしたきっかけは、あの幼い少女なのだろうか。
其の疑問が解決したのは、小さくなって行く高杉と初愛を見つめていた時。
乱雑ながらも初愛の頭を撫でたのを目の当たりにした為だった。
「高杉、頭を強打したのではないか? 雨降るかもしれん、俺等も帰るとしよう」
「桂、今地味に雰囲気打ち壊しましたよ」