二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [銀魂] 刀を持った桃太郎⇒12up ( No.40 )
日時: 2010/08/23 23:19
名前: 偉薔薇 ◆aWifV7VEAQ (ID: Tdpl2T10)

 __第13話__


「そいじゃ、ありがとうございました。えっと……犬さんじゃったかい?」
「其の餓鬼の言う事鵜呑みにするんじゃね……しないで下さい。俺ァ高杉って言います」
「あァ、そりゃァ失礼しました。ありがとうございました高杉さん」
「バイバイ、犬さん」
「……高杉だっつーの」

自分達の住む場所を偉く気に入り、其処に入り浸る幼い少女——初愛。
此の少女を家まで高杉が送る事が、多々あるようになって来ていた。

一応迅楓は年上なので、慣れない敬語(丁寧語)を使い話をするが、正気かとぼけているのか。
未だ高杉ではなく此の少女の影響で犬と呼ぶのだから、苦笑してしまう。
そして初愛も一時期は“高杉”と呼んでいたと言うのに、今では見事元通り犬と呼ぶようになってしまった。
最早怒る気力も失せていた。其れに、此のような幼い少女に怒るのも大人気ないだろう。

迅楓に失礼しますと一言呟き、初愛の頭をポンと一撫でる。
すると二人は同じように穏やかな笑みを浮かべてお辞儀をした。其れを一瞥し、高杉は去って行く。

(……絵に書いたような、幸せな家族じゃァねーか)
歩く度、サクサクと草の擦れる音が鳴る。あのように幸せそうに微笑むのだ、正に幸せな家庭そのものだろう。
自分には家族(血縁者)が全ていない。だからこそ、幸せそうに見える。

——ゾクリ。

ふと、肩に重いものがのし掛かった。背筋を何かが這いずり回るように、悪寒がする。
バッと振り向けば、木の影に男がいた。ギラギラと瞳を尖らせ、一直線に睨んでいる。
あの目は、穏やかなものでは無い。憎しみが集まった、人殺しの目。
其の先に映るのは、あの幸せそうな二人——迅楓と初愛で。
高杉の中に久しぶりに、恐怖心を覚えた瞬間だった。

  ◆・◆・◆・◆

「……夏祭りィ?」
「そう、今度此の街でやるらしいみたいです」

ブンッブンッと、風を切る音が辺りに響いている。
銀時と桂と初恋は今日も剣術の鍛錬を怠る事なく修行に励んでいた。
修行は自分達の日課なのだ。春夏秋冬、寒さや暑さなど問わず続けている。
勉学が苦手な自分に誇れる唯一のものだ。

一時間くらい素振りをして、そろそろ休もうかと考えていた時。
そういえばと思い出したように初恋が話題を出して来た。

「夏祭りかァ。綿菓子は良いが人混みがなァ……おいヅラ、お前綿菓子買って来いよ」
「何を言っておる銀時。貴様は今年必ず行かねばなるまいだろう」

夏祭り。神社の一角を使い屋台などが数多く開かれている。
神社の階段の下では、自分にはよくわからぬが踊りを踊っている。そんな行事が毎年行われているのだ。
確かに自分は綿菓子が大好きだから夏祭りには参加していたが、歳も歳だ。
15にもなって、しかも男だけで行くのは何処か思いとどまってしまう。
しかし初恋は、今年は必ず行かねばと言うのだ。

「何でだよ初恋? 何でそんな今年は強制ーみたいに言うんだ?」
「愚問ですね。今年は初愛がいるではありませんか」

初恋の口から出てきた言葉に、成る程と納得した。

(……初愛、連れて行くか)
よくよく考えれば、初愛はこのような行事を好きそうに見える。
迅楓は足腰が弱い故に、此のような行事には参加しないだろう。
故に自分が連れて行けば、初愛はまたあの屈託の無い可愛らしい笑顔を浮かべるに違いない。

「夏祭りに連れて行けば、初愛も喜ぶだろーなァ」
「きっと、淡いピンクで花柄の浴衣などが良く似合うであろうな。
 其れを着て『パパー、似合う似合う?』なんてくるくる回って言われたらもう可愛すぎて……ブハァァ!」
「汚ッ!! 何妄想して鼻血出してんですか!! っつーか桂はお父さんじゃねーだろォオ!!」

初愛の浴衣姿を想像して鼻血を出す桂にドン引きしてしまう初恋。
想像力豊かなのも時には困り者だと、鼻血を出して倒れている桂を見て思った。

(まァ確かに、初愛にはピンクの浴衣が似合うかもな)
桂では無いが、淡いピンクの浴衣を着てピョンピョンと跳び跳ねる姿を容易に想像出来る。
其れを見て微笑ましく——愛しく思ってしまうのだから、自分は末期なのかもしれない。

「……何やってんだ、テメェ等。っつーかヅラ」
「あー、ヅラは気にすんな。只の馬鹿だから」
「馬鹿じゃない桂だ!」

ジャリジャリと、砂を蹴る音が近づいて来たかと思えば、其れは友である高杉だった。
高杉も自分達同様——いや、其れ以上に鍛錬に励んでいたのだろう。
前髪や顔の側面から、汗が滴っている。
高杉は桂を軽蔑でもするかの目付きで何事かと聞いて来た。

「いや、今度此の街で夏祭りあるだろ? 其れに初愛も連れて行くっつー話をしてたんだよ」
「……あの餓鬼か、テメェ等も落ちたもんだな」

高杉に大体のあらましを話す。因みにと言わんばかりに桂が鼻血を垂れ流した理由を伝えれば、いかにも愚かだと言う軽蔑と呆れの色を宿した瞳で桂を一瞥していた。

「ま、俺ァあんな人がいるところなんざ御免だな。テメェ等だけで行け」
「ふん、初愛殿のフリフリ浴衣姿を見ぬとは愚かな奴だ」

いかにも馬鹿らしいと言った態度で、高杉は夏祭りに自分達と共に行かないらしい。
桂は高杉を引き留めるつもりは毛頭無いらしい。

(高杉も来たら面白ェだろーなァ……)
勿論、友達故に、一緒に行けば楽しいだろうと言う想いもある。
しかし、其れ以上に初愛と高杉が共にいれば面白いと言う想いもある。
必要以上に人に干渉しない、人間関係が面倒で人と距離を置く高杉。
しかし、そんな高杉を番狂わせさせてしまうのが、初愛なのだ。高杉が戸惑うあの姿は、とても面白い。

「初愛、可愛いからなァ。怪しい奴に連れて行かれないか心配なんだよなァ」
「…………」

高杉も共に行かせたい。其の為に口にした言葉は、高杉を大きく揺すぶった。