二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: [銀魂] 刀を持った桃太郎⇒16up [リンク受付中!!] ( No.73 )
- 日時: 2010/08/25 01:29
- 名前: 偉薔薇 ◆aWifV7VEAQ (ID: Dz78gNY2)
__第17話__
「え? ……旅行?」
「えぇ、そうですよ」
剣術の修行も勉学も終わり、夜になった。
松陽が未だ帰って来ていない為、皆で夕飯の支度をする事になった。
何時もの口喧嘩をし切磋琢磨(ちょっと違う気がするが)しながら、漸く完成した。
とは言ってもそんなに大層なものではなく、ご飯と味噌汁に、簡単なおかずのみなのだが。
それでも剣術後故に空腹だった為、自分としてはとても美味しい食事なのだ。
意地汚い食べ方になりながら桂・高杉・初恋・アリスと共に食していた時、我らが師である松陽が部屋に入って来た。
おかえりと言う言葉をかけ、にこりと微笑み自分の隣に腰かける。
そして松陽が「そうそう、」と思い出したように述べた第一声が、冒頭のものである。
「……何で突然旅行に行く事になったんですか?」
「君達に、見聞を広めて欲しくてね」
「見聞、ですか?」
「えぇ」
松陽の言葉に自分同様疑問を感じた高杉が、首を傾げ訊ねれば、そのような返事が返って来た。
高杉に敬語は何処か似合わないな、など思いながら自分も松陽の言葉を聞く。
「君達は、此処から出た事が無いでしょう」
「……えぇ、まあ」
「今、こんな時代です。子供も剣を持ち、戦に参加するような醜い時代。
しかし、それを全てと思ってはいけない。思ってほしくない」
松陽は神妙な面持ちで、言葉を繋げる。
「ですから、行くのです。遠いところへ。綺麗な場所もあるのだと言う事を、見に行くのです」
「綺麗なところ?」
「そうです。この地だけが全てじゃない、素敵なところもあるのだと。それを見に行きましょう」
松陽はそう言いニコリと微笑み、「私も食事を頂きましょう」と、自分達が作った粗末な料理を口にし始めた。
(綺麗な、ところ……)
進んでは止まらなかった箸の動きが、止まる。
確かに、松陽の言う通りだ。自分はこの世界が汚いと思っていた。
山賊やら何やら、天人すらいる世界。気づけば自分達もまるで強制の如く検を握っている。
松陽の教え故に別にそれ自体は苦では無いが、状況に嫌気がさしている。
貧困、戦争、偉い者達の身勝手さ。
何時からこの世界はこのように腐ってしまったのだろうかと、そう思う事は多々あったからだ。
しかし、松陽はそれを綺麗に否定した。
綺麗に、と言っても腐っている事を完全否定した訳では無い。
確かに汚い部分もあるが、それが全てでは無いと言う。
必ず、綺麗なものもあるのだと。汚い世界が全てでは無い、どんなに小さくても綺麗なものだってあると。
「知ってるよねェ、私達は」
「……? アリス?」
「何でも無いですよ、先生」
アリスの呟いた言葉に疑問を思ったらしい、松陽は不思議そうに自分を見つめていた。
しかし、彼女の呟きが聞こえ、きっと同じ考えなのだろう、真意を知る皆も微笑を浮かべている。
(純粋無垢で綺麗な奴……知ってらァ)
まだまだ幼い、だからこそ汚れを知らない。
この世界の何色にも染められていない、真っ白な存在。
だからこそ、守りたいとも思う。
白は、何色にも染まりやすいのだから。
自分達と共にいて、自分達の色に染まってしまう不安もあるのだが。自分は、一体何色なんだろうか。
「で、その旅行なんだけど、その小さな少女も連れて来たらどうだろう?」
「……は? 先生?」
ポンと自分の頭に手を置いたかと思えば、松陽が唐突にそう言うものだから、驚いてしまった。
思わず松陽の顔を凝視してしまった。
それは他の皆も同じで、口をポカンと開け松陽に視線を集中させている。
当の本人は、ただ穏やかに笑んでいるのだが。
「おや? 不満ですか?」
「いや、吃驚して……何で連れて行くんですか?」
「何、その子には日頃お世話になってるからね」
感謝の意も込めて、松陽はそう言う。
高杉はその答えに納得がいかなかったらしく、“世話してんのはこっちだ”と眉をしかめて言った。
松陽はそれを聞き小さく笑う。
「それでも私は、その少女に感謝してるんですよ。
少女と出会ってから、君達の笑顔が良く見られるようになりましたからね」
“知ってましたか?”と言う松陽の問いに、五人は黙り込んだ。
(……笑顔が増えた?)
本当にそうだろうかと、俯きながら考える。
彼女のは、やる事なすこと破天荒ではちゃめちゃで、正直気苦労が絶えない。
彼女が去った後にぐったりとしてしまう事もある。
しかし、それ以上に感謝している面は確かにあって。
側にいてほしい時にひょっこりと現れる。そして6歳だと言うのに、優しく諭してくれる。
自分の考えや醜さに嫌気がする時、綺麗な涙を流し求めてくれる。
辿々しいから放っておけなくて、しかし反面しっかりしていると言う矛盾。
そういう子なのだ、彼女は。
そんな子に振り回されれば、表情豊かになるのも無理は無いだろう。