二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 木と蝶と小夜曲*REBORN/第10話更新 ( No.49 )
日時: 2010/12/05 00:47
名前: 涙水 (ID: BUG11FhX)

 【第11話*黄昏れの闘い】


「ずいぶんと悪趣味な武器だね」

片手でのこぎりを振り回す少女を見て雲雀が言った。

「まーね、よく言われるよー。
 わたし、こう見えても彫刻家なんですよー。
 だから普段から慣れてる彫刻刀とかのこぎりで戦うんですう」

チェーンソーとかよりはマシじゃないかなぁ?、なんて少女は物騒なことを笑顔で応える。
そして、

「とりあえず急いでいるので……、先手ひっしょーう!」

指の間で挟むようにして持っていた彫刻刀を放った。
数本の彫刻刀が雲雀に向かってくる。

キィィインッ。

「甘いね」

金属同士のぶつかる音と同時に雲雀が言った。
ぶつかり合ったのは少女ののこぎりと雲雀のトンファー。
彼女が雲雀の脳天目掛けて振りかざしたのこぎりは、見事に彼に受け止められていた。

「先の攻撃(彫刻刀)を囮にして注意を逸らし、その隙に本命の攻撃をしようとしたんだろうけど……」

トンファーを振って、のこぎりを弾き返す。

「ばればれだよ」

床に突き刺さった彫刻刀を足でつついて雲雀が笑った。
対する少女は眉間にしわを寄せ唸る。

「うーむ、どうやら小細工が通じない相手のようですねー。それじゃあ……」

手にしていた残りの彫刻刀を懐にしまい、のこぎりを両手で握り直す。
すうっ、と一回深呼吸をして、

「正々堂々いくことにしまーす!」

思い切り踏み込んで、のこぎりを振り下ろした。

雲雀はそれをひらりとかわす。
そして片足を軸にして身を回転させると、そのままトンファーをも回して少女を攻撃する。

少女がのこぎりの刃で、頬に当たるぎりぎりの位置でそれを受け止めた。
しかし、擦った彼女の茶色い髪が数本落ちる。
力では勝てないと悟った彼女は蹴りを繰り出すと、雲雀が避けた隙を見計らいのこぎりの刃を離し間合いをとる。

「なかなかやるね」

雲雀が言うと、

「そっちこそっ!」

笑って応えながら少女が飛び上がる。
重力を加えて再び雲雀にのこぎりを振り下ろした。

しかしのこぎりが切り込んだのは、避けた雲雀の後ろにあった机。
さらに、のこぎりの刃は机に食い込んで外れない。

「しまった!」

少女が叫ぶ。

「僕の勝ちだ」

そう言いながら繰り出された雲雀の攻撃をかわすため、少女はのこぎりの柄から手を離し後ろに飛び退く。

が、ソファーに片足を引っ掛けてバランスを崩し背中から倒れ込んだ。

「ひゃわっ」

短い悲鳴を上げた次の瞬間、雲雀のトンファーが顔の真横でソファーに沈んだ。
深々とトンファーが刺さったソファーの穴から中のわたが飛び出している。

「ひょー」

それを横目で見て呟き、視線を正面に戻すと、目の前には雲雀の顔があった。
ソファーに仰向けに倒れ込んだ少女に覆いかぶさるような状態で、雲雀は少女の顔をじとっと睨む。

「降参、降参、こうさーん!」

少女が両手を上げるようにして叫ぶと、雲雀は更に眉間のしわを濃くした。

「君……わざと倒れたね?」

雲雀が低い声で言う。
一瞬きょとんとした目をした少女は、いたずらがばれた子供のように舌を出して笑った。
何故だと雲雀が問うと、

「あのまま戦い続けても、わたしの負けは分かっていたからねー。
 それなら事故(ソファーで足をひっかけた)のせいで負けた、っていう方がまだいいじゃないですかー。
 完敗っていうのは気分が悪いでしょう?」

けらけらと少女が笑う。
それを見て苛立ちが削がれた雲雀は、これ以上問い詰めるのを諦めた。

「もういいよ」

溜め息混じりに言いながら、身体を起こしてソファーからトンファーを引き抜く。

「今回は見逃してあげる。
 さっさと校内から出ていって」

くるりと少女に背を向けて言う。
そして、机に刺さったままだったのこぎりを乱暴に抜いて、少女の方へ放る。

「……おっとと。ありがとーっ」

のこぎりを受け取りながら礼を言うと、雲雀は部屋を出ようとしていた。

「僕は校内の戸締まりしてくるから、それまでには帰ってよ」

そう言って立ち去ろうとすると、顔すれすれのところに彫刻刀が飛んできた。

「待って。
 わたしの名前は槇日向まきひなた
 あなたは?」

「……雲雀恭弥」

じゃあね、と呟くような声で言うと雲雀は部屋からでていった。

戦闘の跡を残した部屋に、日向だけが取り残された。
開け放たれたままだった窓から見える空は、もう薄暗くなっていた。