二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 木と蝶と小夜曲*REBORN/第11話更新 ( No.52 )
- 日時: 2010/12/14 23:01
- 名前: 涙水 (ID: Ag1rlUDl)
【第12話*手を尽くすのは】
朝練がある生徒ですらまだ登校していない、早朝の静かな並盛中学校。
——ただひとつ、応接室を除いて。
「おおーっ。
この紅茶すっごくおいしいですねー、雲雀さん」
「……」
「どこのメーカーのなんですかー?」
「…………」
「んー?
なんでさっきから黙ったまま?
ねー、雲雀さーん、さーん、さーん。
あ、今のはこだまですよぅ!」
「……君、何してるの?」
「何って、紅茶飲んでますー。
あと、ソファーの破れたところの直しもしてまーす」
ようやく口を開いた雲雀の問いに答えた日向は、応接室の備品であるティーカップを片手に持ち、もう片方の手には手芸用の糸が通してある針をつまむようにして持っていた。
ちなみに彼女が修復しているソファーの破れは、昨日の雲雀との戦闘でできたものだ。
「……そうじゃなくて、」
「なんでそんなに不機嫌なんですかー?
お腹すいたとか、お腹すいたとかですかー?」
「……そこの棚に茶請けの菓子があるよ」
「そんなぁ、おかまいなくー。
わたしは別にほしいなんて思ってないですからね?
でも折角なので頂きまーす。ありがとうございまーす」
棚から出した菓子を日向はもしゃもしゃと食べる。
「ひはひはんは、はへなひんへふは?(雲雀さんは、食べないんですか?)
ほいひーへふよー?(おいしーですよー?)
ほなはふいへなひんへふ?(お腹すいてないんです?)」
「……何言ってるか分からないよ」
「ほへひまはふひへんはひ、ひはひはん。(それにまだ不機嫌だし、雲雀さん。)
は、ほひはひへほのほひははがひははんへふか!(あ、もしかしてこの呼び方が嫌なんですか!)」
「……だから何言ってるか分からな、」
「恭弥!
〝雲雀さん〟っていう呼び方が嫌なら〝恭弥〟でいいでしょう?」
口の中の菓子を飲み込んだ日向が満足そうに笑って言った。
「…はあ……?」
あまりに嬉しそうに笑うので、雲雀は咎める気を削がれる。
「よく分からないけど……勝手にして。
それよりなんで君がここにいるの?」
溜め息混じりに雲雀が問うと、
「ん。実はね、わたしある子を探してるんだけど」
日向は菓子に伸ばしていた手を止めて、雲雀の方を向く。
「……へぇ」
(何故か)呼び捨てになったとたん、敬語もなくなっていることに雲雀は気付いたが、もう何も気にしないことにする。
というか、もうどうでもいいと半ば投げやりになっている。
「その子がどうやらこの町に来てるらしいんだよね。
事情で身を隠してるはずだから、もしかしたらどこかの学校とかに紛れ込んでるのかなーって」
「ふーん、それで?」
「で、捜索中にたまたまこの学校を見つけて、たまたまこの部屋(の窓)が開いていたから、昨日(無断)侵入して、その延長(?)でわたしはここにいるのでーす。
はいっ、説明しゅーりょー!」
ぽんっ、と日向が両手を叩いた。
「事情は分かったけど、それで君は僕に何をしてほしいわけ?
それだけの理由があって校内に入り込んだのに、行動を起こさずまだこの部屋(応接室)にいるのは……、————僕がこの学校の生徒の情報を管理してること、知っているからなんだろう?」
雲雀がうっすらと笑みを浮かべる。
すると日向も怪しげに笑って言った。
「なんのことかなー?
……って、恭弥相手にしらをきるのは難しそうだから正直に言うよ。
個人情報を探すために職員室に忍び込んだんだけど、それらしきものが全然なくてねー。
で、ちょっと荒っぽいことしてみたら恭弥が管理してるってことが分かったの」
荒っぽいこと、の内容を言わなかったからにはそうとうなことをしでかしたのだろうか。
「君って案外侮れないよね。
笑ってなんでも隠すから、本心が分かりづらい」
目を細めて雲雀が言うと、
「ふふふっ、褒め言葉として受けとっておく。
でもまあ……ここまでしてるのは、今回がちょっと特別だからかなぁ」
日向はふと、真剣な目をした。
「?」
雲雀が訝しい気に見るが、それに気付かず続ける。
「時間もあんまりないし、大切な子だから。
————失うわけにはいかない、わたし達の最初で最後の希望」
赤の双眸を閉じて呟く。
まるで何かを懐かしむように、穏やかに呟いた。
「…って、まあこんな感じ!
変なこと言い出してごめんねーっ。
今の、気にしなくていいからっ」
我に返った日向は、目を開いて口早に言った。
「……」
そんな彼女の目先で、雲雀は手元の鉛筆を机に置くと、椅子から立ち上がった。
「恭弥?」
首を傾げた日向の横を素通りして、入口のドアまで向かう。
そうしてやっと立ち止まると、振り返った。
「ついておいで。
在校生の情報、ほしいんでしょ?」
そう一言告げると、ドアを開けて部屋を出ていく。
その後を嬉しそうな声をした日向が追っていったのは言うまでもない。
肌寒い早朝の風が無人の応接室に吹き込んだ。