二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 木と蝶と小夜曲*REBORN/第14話更新 ( No.63 )
- 日時: 2011/01/12 22:20
- 名前: 涙水 (ID: GTsKO5qg)
【第15話*創造される想像】
ガッ。
無機物が擦れる鈍い音がした。
それはクロームが振り下ろした槍を、相手が何かで受け止めた音だった。
「………絵筆?」
相手の手にあるものを見つめてクロームが呟く。
それは普通のよりも幾分長く、ひとまわり太い絵筆だった。
どうやらその絵筆で、相手は自分の槍を受け止めたらしい。
「どけ! ブス女っ!」
犬が叫んだ。
慌ててクロームが跳び退くと、彼が体勢を整えて再び相手を攻撃する。
差し歯を入れ替えることで野生の動物と同じ能力を使える犬が、野生のチーターとほぼ同じ速さで突き出した腕は、容易に相手を吹き飛ばした。
建物内の隅に吹き飛んでいった相手の姿は、反動で舞い上がった砂埃に隠されて見えなくなる。
念のためと、とどめにクロームが放った幻術の火柱で、相手が吹き飛んだ隅を包み込んだ。
幻覚で出来た(実際に存在しない)火柱でも、攻撃を受ける相手が本物だと認識してしまえば、痛みも傷も本物に相当するダメージになる。
つまり相手が幻覚だと見破らなければ、致命傷も同然だ。
物陰から、針を仕込んだヨーヨー——ヘッジホッグで攻撃していた千種が、敵を倒したのかを確認するためにクロームと犬の元にやってきた。
「倒した?」
千種の問いに応えたのはクローム。
「……分からない。
手応えはあったと思うけど……」
三叉の槍を握り締めて呟いた直後、
「!」
建物の隅から砂埃を巻き込んで、大量の水が吹き出した。
クロームの幻術(火柱)も消え、3人も水に押し流されて壁に背中を打った。
「なっ、何が起こったびょんっ?」
ぐっしょり濡れて、髪から水を滴らせた犬が飛び起きて言う。
「……幻覚?」
「幻覚なんかじゃないわ」
千種の呟きに答えたのは、敵の方だった。
砂埃が流されて、姿を現したのは自分達と同年代の少女。
長い紺碧の髪を後頭部で結い上げて、漆黒の瞳が輝いている。
「本物の水よ」
少女は水に濡れた地面を、手にしていた絵筆で指して言った。
「私は想像力で物質を創造できるの」
「はぁ? 意味わかんねーびょん。
————どっちにしろ、倒せばいいってことだびょんっ!」
犬が飛び出した。
つかみ掛かろうとするのを、少女は軽やかに避ける。
「姿が見えているなら、避けるのなんて訳無いわ!」
そう言いながら、隙を見て攻撃を仕掛けようとしていた千種に微笑みかけた。
ばれていることに舌打ちをしつつ、千種は庇うようにクロームの前に出る。
「行くよ」
そう呟くように言うと、千種は少女に向かって駆け出した。
勢いを付けたままヘッジホッグを放ち、相手に針を浴びせる。
犬の攻撃にも同時に反応していたため、数本の針が相手をかすめた。
「飛び道具はちょっと厄介ね。
仕方ないわね……——私、野郎(男)相手には手加減しない性だから、気をつけてね」
そう言うと少女は服のポケットから透明なインクを取り出す。
そして、
「白(Bianco)!」
その蓋を開けながら彼女が叫ぶと、透明なインクが白に変わる。
「色が……!」
驚いたクロームが呟き、犬と千種は警戒して攻撃体勢をとる。
少女が持っていた絵筆をインクの中に突っ込み、筆先に色をつけた。
二人が共に少女に向かって攻撃を開始するのと同時に、少女は白いインクがついた絵筆で空中に真一文字を描いた。
犬の爪と千種の針が少女を傷つけようとした刹那、
「吹き飛ばす、風っ!」
叫んだ少女の声と重なるように、空中に散ったインクの粒から風が巻き起こった。
犬と千種は風をまともに受けて、建物の奥の方まで飛ばされる。
「犬! 千種!」
クロームが悲鳴を上げると、
「大丈夫よ。
随分と丈夫な身体みたいだったもの。
これっぽっちの風じゃあ、彼らは死なないわ」
少女が風で乱れた髪を整えながら言う。
「それじゃあ私は行くわ。
私が探しているものはここにはないみたいだもの。
後、二人に謝っておいてくれるとありがたいわ。
別に傷つけたかった訳じゃないから」
踵を返して建物を出て行こうとする少女に、クロームが叫んだ。
「待って!」
少女が立ち止まる。
「まだ……私を倒してないっ」
言い放つのと同時にクロームは、三叉の槍で地面を突いた。
幻覚の火柱が地面から吹き出し少女を包み込もうとする。
「青(Blu)」
焦った様子もなく静かに少女が呟くと、インクの色が白色から青色に変わる。
「洗い流す、水!」
先程と同じようにインクをつけた絵筆を空中に滑らすと、インクの飛沫から水が湧き出す。
言うまでもなく火柱は水に飲み込まれ消された。
先刻に火柱が消された時もこうだったのか、なんて思っているうちに少女が自分の懐に飛び込んできた。
「ちょっと痛いかもしれないけど……」
そう呟いたのが聞こえた直後、少女が自分の腹部を蹴り飛ばした。
ずざざざっと音を立てて地面を滑り、身じろぎしなくなったクロームを見て、
「……ごめんなさいね」
申し訳なさそうに言うと、その場から少女は立ち去ろうとする。
「ちょっと時間がかかり過ぎたわ。
急いでるっていうのに……っ」
そんな独り言を呟いた時、
『……クフフ……ではかかり過ぎたついでにもう少しだけ、時間を頂けませんかね?』
誰かが少女の言葉に返事を返した。
今まで無かった異様な気を感じ、少女は身を固くする。
それは辺りに霧がかかり始めたからだけではないようだ。
「Buon giorno.(こんにちは)
少しの間、お手合わせ願えますか?」
少女が振り返った先にいたのは、にこやかに微笑んでいる少年だった。