二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 木と蝶と小夜曲*REBORN/第15話更新 ( No.67 )
日時: 2011/01/16 16:12
名前: 涙水 (ID: U/J2Wlb6)

 【第16話*廃墟の闘い】


「君の名前は?」

「私は柳澤汐璃。あなたは?
 というかどこから湧いて出たの?」

少年の問いかけに、汐璃は不躾な質問をつけて返す。

「クフフ、まるで虫扱いのするような言い方ですね。
 はじめまして、僕の名前は六道骸ろくどうむくろです」

真ん中分けの黒い髪に、青と赤のオッドアイをした少年——骸は、口角を上げて笑う。
彼が手にしているのは、先程まで戦っていた眼帯の少女が持っていた三叉の槍だ。
ふと気が付いたが、少女の姿がさっきから見えない気がする。

「六道骸? 本物? それとも、そっくりさん?
 だってその男は牢獄行きになったって聞いてるわ」

エストラーネオファミリー出身とされる六道骸という少年は、北イタリアのマフィアを潰した件などから投獄されていた死刑囚だった。
しかし死刑執行の前日に複数の部下と脱走し日本に渡った彼は、若きボンゴレ10代目(候補)の乗っ取りを企て失敗。
マフィア界の掟の番人といわれる復讐者ヴィンディチェに部下と共に連れていかれた、という話はこちらの社会では有名な話だ。

「じゃあ、リング争奪戦でボンゴレⅩ世の霧の守護者として現れたっていう噂、本当だったのね。
 あーあぁ、ガセネタもしくは幽霊って方に100ユーロ賭けたのに。負けちゃったわ」

落胆したように汐璃が言うと、

「僕の名前を知っているということは君はマフィアですね。
 それに争奪戦のことも知っているあたり、ボンゴレの関係者かなにかですか?」

骸が細めていた目を開いた。
赤い左目に映っている『六』の文字が怪しく光る。

「さぁ、どうかしら?
 ……だとしたらどうするの?」

「そうですね……」

骸が槍で地面を突いた。

「ちょっと手加減できないかもしれませんね」

無数の火柱が上がった。
言うまでもなく、それは汐璃に襲い掛かかる。

「青! 洗い流す、水!」

向かってくる火柱を、防ぐために汐璃は絵筆を振った。

「さっきの子と同じ手ね!
 それじゃあ私は倒せないわよ!」

火柱を次々と消ながら、汐璃は骸との距離をつめる。
火柱が全て消えると一気に間合いをつめて、握り締めた絵筆を骸の脳天目掛けて振り下ろす。

ガッ。

汐璃の絵筆を、涼しい顔で骸は槍で受け止めた。

「どうやらそのようですね、でも……っ」
骸が槍を思い切り振って、絵筆を弾き返した。

「接近戦も、僕は得意です」

にこりと笑いながら、素早く槍を突き出してくる。

「……っく」

唇を噛み締める汐璃は、それを防ぐので精一杯だ。

「白! 吹き飛ばす、風!!」

汐璃と骸の間に風が巻き起こり、二人共飛ばされる。
技を放った自分も少しダメージを受けたが、敵(骸)と距離がとれたことに内心ほっとする。

あのまま戦い続けていたら危なかったわね……。
言うだけのことはあって、接近戦はこちらが不利だわ。
できれば肉弾戦が良かったんだけど、そんなことも言ってられないようね。

「風!」

再び風を起こし、今度は骸を攻撃するために使う。

骸はそれを軽々とかわすと、幻覚の火柱をいくつも作り出した。
数は先程の攻撃の時の比ではない。

「青! 洗い流す、水! 水! 水!」

汐璃も水を生み出し応戦する。
全ての火柱を消し終わり一息ついた時、

「……っ」

視界が揺れてふらついた。

そろそろ限界リミットのようね……。

「どうかしましたか?」

その様子を見ていた骸が尋ねる。

「別になんでもないわ。
 それより、そろそろこの戦いを終わらせてもらうわ!」

言い放った汐璃はひとつ深呼吸して叫んだ。

「青! 黄(Giallo)! 流し突き抜ける、電撃水!!」

青と黄色の二色が混ざった色に変化したインクをつけて、絵筆を空中に動かすと、電流を伴った水が骸目掛けて溢れ出す。
それを骸は幻覚の火柱で、正面から迎え撃つ。

電撃と水と炎がぶつかり合い、激しい爆発が起こった。
爆風が視界を遮りしばしの間、何が起こったか分からなかった。

風が止み、しばらくして目を開けると、その先には骸が無傷で立っていた。
渾身の一撃が効かなかったことに、舌打ちをしたい衝動に駆られながら、汐璃は次の攻撃を繰り出そうとする。

「白! 吹き飛ばす、かっ……あ」

視界が反転した。
それは自分が倒れつつあるからだと気付いたころには誰かに抱き留められていた。

「……へ?」

「大丈夫ですか?」

顔を上げると赤と青の瞳が印象深く、目に焼き付く。
——我に返った。

「……きゃあああああっっ!!!
 放してえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
 セクシャルハラスメントォォォォォォォォォォォォ!!!」

暴れる汐璃を余所に、骸は彼女の前髪をかき上げる。
そして一言、

「君の本当の名は、レティですか?」

「……っ」

汐璃の動きが止まる。
息を呑んだような気さえした。
俯いたまま彼女は口を開き、

「……私の名前は柳澤しお…り、……よ…」

かろうじて言い終わると、汐璃はこてんと頭を傾け意識を失った。

「……肯定もせず否定もせず、ですか」

誰かに言うでもなく独り呟くと、後方で砂利を踏む音がした。
骸が振り向いた先にいたのは、建物の奥から出てきた犬と千種。
双方とも傷が目立つが、命に別状はなさそうだ。
大方気絶でもしていたのだろう。

「骸さん! その女倒したんれすねっ」

「すいません骸様、手こずりました」

嬉しそうな犬と、詫びる千種が口々に言いながら近寄ってくる。

「クフフ、構いませんよ。
 僕も楽しかったですから」

骸は不敵な笑みを返す。

「その女、どーするんれすか? 殺すんれす?」

犬の問いに、

「いえ、しばらくここ(黒曜)に置いてください。
 彼女は大切な僕の客人です」

眠っている汐璃に、笑いかけながら言った。

「へ? まじれすかっ?」

「……骸様?」

困惑する二人の表情を気にすることなく、
「彼女とクロームを頼みましたよ。
 少し力を使いすぎました。僕はしばらく寝ます」

抱えた汐璃を千種に任せると、骸はふと目を閉じた。
突然生じた霧が彼を包み、それが消えたころには規則正しい寝息を立てたクロームが倒れているだけだった。