二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 木と蝶と小夜曲*REBORN/第16話更新 ( No.72 )
日時: 2011/02/02 22:02
名前: 涙水 (ID: V6OlUTBm)

 【第17話*開幕への足音ステップ


「……」

汐璃が目を覚ますと、ぼろい天井を背景にしてこちらを心配そうに見つめる少女と目が合った。

「えーと……クローム……ちゃん?」

記憶にある名前で呼び掛ける。
違ったかしら、と思っていると、

「……そう。
 後、あっちが犬と千種……」

頷いて部屋の入口付近に視線を投げかけて言った。
そこにはゲーム機を握る犬と腕組みをして壁に寄り掛かる千種がいる。
思わず警戒した汐璃が、寝かされていたらしいソファから身体を起こすと、

「殺さねーから心配すんなびょん。
 骸さんに言われてなきゃ、とっくにってたかもしんねーけどな」

「……行こう、犬」

そっけない態度で二人は部屋から出ていった。

「……? 六道骸が何か言ったの?」

汐璃がクロームに尋ねると、

「私は直接聞いてないけど……骸様が大切な客人だから、あなたをしばらくここに置くようにって。


どうやら彼は自分のことを〝客人〟だと言ったらしい。
しかも大切な。

「あの六道骸がねぇ……」

何やら怪しい感じがしたが、クロームはただその言葉に忠実に従っているだけのようで、彼女に何を聞いても分からないことは一目瞭然だった。

「まぁ、いいわ。助けてくれたのは事実だし、彼に礼を言っておいて。
 それとあなたも、介抱してくれてありがとね」

そう言って汐璃はソファから身を起こそうとした。
すると、

「まだだめ……っ。
 ……寝てた方がいいと思う」

慌ててクロームがソファに身体を押し戻して言う。

「別に大丈夫よ。
 倒れたのはちょっと寝不足で力を使ったからなの。
 睡眠も十分とれたからもう動けるわ」

汐璃は弁解するが、クロームは頑として首を縦に振らなかった。

「……また倒れるといけないから」

そう言われてじっと見つめられると、なんだか自分が間違っているような気さえしてくる。

その様子が自分の大切な人間(身内)とよく似ていて思わず汐璃は吹き出した。

「……ぷ…ふふっ」

「……?」

怪訝な表情を見せるクロームに、

「ごめんなさい、別に悪い意味で笑った訳じゃないのよ。
 ただ、私の弟にすごく似ててね。
 そういう控えめなのに自分が思ったことは譲らないところ、そっくりだわ。
 まぁ、他にも似ているところはあるんだけれど……ふふふっ」

「……弟、そんなに似てるの?」

「ええ、本当に。
 瑠架るかっていうのだけど、きっとあなたと気が合うんでしょうね」

クスクスと笑う汐璃につられて、クロームの頬も緩む。

「それじゃあお言葉に甘えて、もう少し休ませてもらうわね。
 ……今更言うのもあれだけど、私の名前は柳澤汐璃よ。汐璃でいいわ」

再びソファに横になった汐璃は、そのまま片手を差し出した。

「……私はクローム髑髏。クロームでいい」

差し出された手に、クロームは躊躇いがちに触れる。

「よろしく!」

「……う、うん」

ぎゅっと、握られた汐璃の手にクロームは戸惑った。
それでもその手は不思議と心地好いものだった。















——ロンドン郊外にある大きく古びた屋敷。


「失礼します、帽子屋ぼうしやです」

ドアを二、三度叩く音がして部屋に入って来たのはをトップハット被った青年。

「どうかしたの?」

帽子屋と名乗る彼に返事をしたのは、短い赤髪をした少女。

「報告に来ました。
 数日前に貴女が割った鏡(姿見)の残骸と貴女の髪は、私と三月さんがつウサギで処分しました。
 鳥籠の姫の容態も異常ありません。
 ——それと、白ウサギとチェシャ猫が合図を待っています」

「……そう、あいつ等を見つけたのね。
 じゃあ伝えて、殺さぬように招待状を渡すようにって。
 半殺しでも生きているならそれでもいいわ」

赤髪の少女は開け放たれた窓辺に腰掛け、空を見ながら言った。
ロンドンの空にしては良く晴れている。

「はい、分かりました」

青年が二つ返事で了承した。
そしてふと彼は、少女の赤い髪を見た。
混じり気のない純粋な深紅。
ほんの数日前までは長かった彼女の髪は、今や短くなってしまい寂しげに風に揺られている。

「何?
 なんか頭に付いてる?」

視線に気付いた少女が問う。

「いえ、何も。
 ただ勿体ないと思いまして。
 貴女の赤い髪はとても綺麗でしたから。 きっと白ウサギが知ったら泣くでしょうね」

青年が苦笑する。
そして同意を求めるように、

「ねぇ? アリス」