二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 木と蝶と小夜曲*REBORN/第19話更新 ( No.87 )
日時: 2011/03/09 12:23
名前: 涙水 (ID: PGG0kMGj)

 【第20話*始まりの序曲オーバーチュア②】


「うーむ、早まったかなぁ」

日向は道端で立ち尽くしていた。
譲葉が並盛中に留学生として登校しているかもしれないと知り、下校時刻だったのでどこかを歩いている可能性にかけて学校から飛び出して来たが、現在地が分からなくなっていた。

「ここどこだろー?」

つまりは迷子である。

「恭弥に一緒に来てもらえば良かったかも。
 そうすれば少なくとも道に迷うことはなかったなあ、うん」

一人で問題を提示して、一人で解答を出す。

「とりあえず適当に歩いてれば、分かる道に出るかもー。
 頑張れわたしーっ、おー!」

握り拳を空に突き出し、雄叫びを上げた時、

「!」

背後から不自然な風の音が聞こえた。
勢いよく振り向き目をこらすと、遠方に風に舞ったらしい落ち葉が、切り刻まれて霧散するのが見えた。
明らかに普通の風ではない。

その不自然な風に心当たりがあるのを思いだし、日向はその方向に向かって走り出した。





「……変な風だわ」

不意に立ち止まった汐璃の視線の先には、落ち葉が舞ったような景色が見えていた。
しかしここからその場所は結構な距離があり、詳しいことは分かりそうにない。

「ちょっと見てくるわね。
 案内はここまでで良いわ。
 付き添ってくれてありがとう、クローム」

そう言うと、助走なしで汐璃は道の脇にある塀に飛び乗った。
慌ててクロームが手を伸ばす。

「えっ?
 まっ、待って……私も行く…っ」

「ごめんなさい、連れていけないわ。
 危険かもしれないの。
 あなたをこれ以上巻き込みたくないのよ」

うろたえるクロームに背を向け、汐璃は塀の上を軽やかに駆けていく。
思わず伸ばした手は、何も掴むことなく宙をさ迷った。

「……どうしよう」

手持ち無沙汰な手を戻し、両手でバッグを抱きしめる。
汐璃の姿はすでに視界から消えてしまい、追いかけるのは無理だと思われた。
というかそれ以前に、塀伝いに移動する彼女についていくのは不可能に近い。
ただでさえここが、塀が多い入り組んだ住宅街なのだから尚更だった。

当てもなくとりあえず、とクロームが一歩踏み出した刹那、

「……きゃっ」

「わっ!」

曲がり角から出て来た誰かと鉢合わせ、ぶつかった。
反動でクロームは尻餅をつく。

「あっ、すみません! 大丈夫ですかっ?」

慌てて手を差し伸べてくれたのは、華奢な少女……?
長めの紺碧の髪をリボンでゆるく結い、不安げな色を滲ませる瞳は黒い。
整った顔立ちに白い肌をしていて、女である自分も見とれる程の美少女のようだけれど、何かひっかかる。
それは髪と瞳の色が、先程行ってしまった彼女と同じだったからだけではないようだった。

「怪我とかしてないですか?」

そう言いながら自分の手を引っ張り軽々と立たせてくれた力は、やはり少女のものとは言い難い。
それに身長も相手の方が少し高いくらいで、年齢もそう変わらないはずだ。

「……あ、ありがと」

「いえ、こちらこそすみませんでした」

礼を言うと少女(?)はにっこりと微笑み返した。
そしてきょろきょろと辺りを見渡す。

「?」

「あの、あなた以外にここを誰か通りませんでしたか?」

この道を歩いていたのは、自分と汐璃だけで誰ともすれ違わなかった。
とするとこの少女(?)が言っているのは汐璃のことなのだろうか。
クロームが今はいない彼女のことを言うべきか言わないべきか迷っていると、

「あのっ、すみません!
 突然尋ねたら不審に思いますよね!
 べ、別に怪しい者じゃないのでっ」

クロームが黙っていたので、彼女(?)は不審がられたと思い込んだようだった。
わたわたと慌てて手を振る少女(?)の姿に一瞬もやがかかったような気がした。

「……?」

弁解する少女(?)を余所に、クロームは彼女(?)に手を伸ばした。
服に触れたとたん、

「あっ!」

ぶわっと、少女(?)が短い叫び声と共に霧を纏った。
それはほんの少しの間で、すぐに霧は晴れる。

「ちょっと気を逸らしただけでばれてしまうなんて……。
 また姉さんに何か言われそう……」

発せられた声は先程のものより気持ち低くなった気がした。
しかし紺碧の髪も長いままリボンで結われていて、瞳も黒く肌も白いままで、容姿はあまり変わっていないように見える。
ただ面影が自分の知る少女とひどく被った。
それは髪と瞳の色が同じだからだけではなくて。

それでもはっきりしたことがひとつ。
〝彼女〟ではなく〝彼〟だ。

「あなたは、男の人……なの?」

「はい、僕は男です。
 女性の方が行動しやすいのと顔をあまり知られたくないので、幻術で女性に変装していたんですけど。
 あまり驚かれていないあたり、あなたも術者かなにかでしょうか?
 失礼でなければあなたの名前を……あ、こういう時は名乗るのが先にですよね!
 申し遅れてすみません。
 僕の名前は瑠架るか。柳澤瑠架といいます」

瑠架はにこやかに笑った。

彼と汐璃の面影が被った理由が分かった。