二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 木と蝶と小夜曲*REBORN/第21話更新 ( No.96 )
日時: 2011/04/07 09:03
名前: 涙水 (ID: PGG0kMGj)

 【第22話*始まりの序曲オーバーチュア④】前編


「ちょーっと待ったぁぁぁぁぁっ!」

「下がって、譲葉!」

何かがぶつかる音と風が吹き荒れる音と、二人の少女の声が突然響いた。
閉じていた目を見開いてツナが辺りを見回すと、一方では獄寺と山本の前で茶髪の少女がチェシャ猫の爪をのこぎりで受け止めていて、もう一方では紺碧の髪の少女が譲葉と白ウサギの間に立ち塞がっている。

「日向ちゃん! 汐璃ちゃん!」

譲葉が叫んだ。

「やほーっ、譲葉! って、汐璃も?
 隣町行ってたんじゃなかったの?
 まぁでも、何とか間に合ったみたいで、良かったー、っと!」

譲葉が日向と呼んだ方の少女は、緊張感のない口調で、勢いをつけると、のこぎりでチェシャ猫の爪を弾き返す。

「譲葉も日向も無事で良かったわ!
 ちょっといろいろあって、戻ってきたのよ」

普通のものより長く一回り太い絵筆を構えながらそう言ったのは、譲葉が汐璃と呼んだ少女だ。
汐璃は譲葉に向き直ると、眉間にしわを寄せる。

「あなたのボロボロの携帯を見付けた時は、本当に心配したのよ?
 とりあえずその腕の止血をしなさい!
 楽器も水もなしで戦うなんて、無茶もいいとこなんだから!!」

「ごっ、ごめんなさい!」

汐璃に気圧された譲葉が、慌ててハンカチを取り出し腕に器用に巻く。
黄色のハンカチに痛々しく、赤い血が滲んだ。

「あーあー、何だか増えちゃった」

突然、気怠そうな声を上げたのは、白ウサギだ。
対の旗をくるくると回しながら、不気味な程の笑みを浮かべる。

「面倒だからさ、一気に片付けることにするよ。
 ————チェシャ猫、ちょっと気をつけててね?」

白ウサギは回す手を止めて、旗を胸の前で交差させる。
そして眠るように目を閉じ、

「Tornado(竜巻)」

呟いたとたん、白ウサギを核として風が吹き始める。

「本当は僕だって、一般人を巻き込むことは嫌だよ? アリスが怒るからね」

びゅうびゅうと音を立て出した風は、枯れ葉を巻き上げ近くの木々をもしならせる。
しかしそれほどの強風が吹いているにも関わらず、不自然に白ウサギの髪はなびいていない。

「ちょっとまずいわ。
 あんな風を町中で出されるなんて……私の起こす風じゃあ防ぎきれない」

汐璃が苦しい顔つきで言うと、

「およよー?
 つまりそれは、逃げた方が良いってことかなー?」

口調は変わらず軽いながらも、日向の表情も硬くなる。

「ええ、でも……」

「普通に考えて、俺達が逃がす訳ねーよな」

汐璃の言葉を繋いだのはチェシャ猫で、

「それにあんた等が逃げれば、そこの一般人等に被害が及ぶぜ?
 偽善者面してるアールベロは、弱いもの虐めを見逃しておけねーだろ?」

そう言いながら彼は鋭い爪でツナと獄寺、山本を指す。

「んだと、テメェ!
 俺達が弱いだと!?」

「ご、獄寺君! 落ち着いて!」

「ツナの言う通りだぜ、落ち着けって獄寺!」

チェシャ猫の〝弱い〟という言葉に反応して、今にも飛び掛かりそうな獄寺を、ツナと山本で慌てて止める。
それに臆することのないチェシャ猫は、苦笑しながら頭をカリカリと掻く。

「ああ。わりぃ、わりぃ。
 でもよ、俺とあんた等は初対面なんだから、強いのか弱っちいのか知る訳ねーだろー?
 ……っとまあ、これくらいでいいか、時間稼ぎは」

「!」

その言葉に思い当たり振り向くと、白ウサギの起こした風は竜巻のように、大きくなっていた。

「チェシャ猫ありがとー、もう十分だよ。
 さて、金のカナリア。一体どうするのかな?
 己を守るのか、他者を守るのか」

「もちろん決まっているわ。
 汐璃ちゃん、日向ちゃん、綱吉君達を守って」

真っ直ぐ白ウサギを見据えて、譲葉が言った。
それを聞いた汐璃と日向が驚きの声を上げる。

「へっ?」

「ちょっと、譲葉!
 あなたはどうするの!?」

「私は自分の身は自分で守る。
 これはボスとしての命令、彼らを絶対に守りなさい!」

汐璃と日向に向き直り、譲葉が叫ぶが、

「自分の主を見捨てて、他人を守れっていうの?
 いくらなんでも、その命令はきけないわ!」

「わたしも汐璃と同意見。
 譲葉より一般人を優先するなんて、できないよ」

二人は頑として揺るがない。
そして二人は同時に口を開き、

「「だから————」」