二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: [色々]貴方に幸せを願おう[短編] ( No.22 )
日時: 2010/09/04 22:20
名前: ささめ ◆rOs2KSq2QU (ID: 5yzH1Xyu)
参照: ぱやっぱー! ……って大きく叫びたい年頃である

(イナズマイレブンより円秋)
[シリアス/円堂病み/捏造有]



【こんな僕でも愛して欲しいと】





 …………少女は無意識の内に、少年へと駆け出していた。はっきりと少年の姿が見えていたから、とか。どこかおかしい雰囲気だったとか、そういう理屈じゃなく。少女は少年の異変に直感のみで、いち早く気付き、少年の元へと急いだ。


 「円堂くん…………円堂くん!」
 「————あ——————ぐっ————あ、き…………?」


 闇夜の中での円堂の行為は、神聖な儀式のようにも見えた。光を失った夜の中で、廊下に面した洗面台————静かさが保たれていたはずの場所は、今は水が流れることにより、びちゃびちゃと音をたてていた。
 そこで、円堂はめいっぱいに張った水面に、顔をつけていた。それは、顔を洗うため、水の出し過ぎ————どんな言い訳も意味を無くすような行動で。秋はそんな円堂を、半ば押し倒すようにして流水から引き離したのだった。



 「大丈夫!? 水結構飲んでるみたいだけど、息吸ったり吐いたりできる? 気持ち悪くない?」
 「………………あき……」


 焦りと心配が半々の声色で、秋は円堂を冷たい床へと横たえる。円堂はごほごほと咳き込みながらも、意識はあるようで、秋の名をか細く呼んだ。
 秋は、円堂が自分の名前を呼んできたからか、ほっとしたように強張った肩の力を抜く。しかし、秋の安堵した様子に対し円堂は依然、どこか虚ろな表情をしていた。


 「良かった……円堂くん、何してるの! こんなに水いっぱい溜めて、顔つけて………………下手したら、死んじゃうかもしれないんだよ!?」
 「…………う——————して?」
 「え?」


 どうして?
 円堂はその4文字を言おうと、憔悴しきっているのか、唇を微震させた。秋の表情が、また強張っていく。だが、愛すべき少女のことさえ今の円堂には気にかける暇さえ無いようだ。虚空を見つめたまま、円堂はぼそぼそと言葉を紡ぎ始める。


 「どうして、俺なんかを助けるんだよ、秋」
 「え…………円堂くん?」
 「何でだ、俺はこんなにも足りないのに、助ける意味なんてまるで無いのに、秋、何で、どうして」
 「っ、円堂……くん」
 「俺は駄目な奴なのに、みんながいなきゃ、だめなのに、なのに、…………なぁ、何で、あき?」
 「円堂くん! 私の話を聞いて……!」


 円堂が自身を卑下する言葉を発するのが耐えられないかのように、秋はついつい声を荒げてしまう。それでも、やはり円堂は秋に沈黙を返した。普段の円堂からは考えられないその態度に、秋は悲愴感を押し殺すように、語りかける。


 「お願いだから、円堂くん……二度とこんなことしないで……! だって、誰も貴方を駄目だと思ってない……足りないなんて考えてないから……っ……円堂くん、お願い……」
 「なぁ、——————あき」


 必死に感情を押しとどめようとしているのに、秋の声と表情は悲しみへと変わっていく。最後にお願いと呟いた時には、すでに双方の瞳から透明の液体を滴らせていた。
 ひっくひっくと涙を堪える音と洗面台の水が零れる音が重なり、真っ暗な中で二重奏を奏でる。やがて円堂は、切なさと冷たさで彩られる響きを聞き、濁った瞳に秋を映し名を告げる。


 「おれは、どうしようもない奴だけどさ。誰かの力を借りなきゃ、まともにたってられない人間だけど、」
 「…………うん」
 「だけどな、俺、秋には嫌われたくないんだよ、愛して欲しいんだ、ずっとずっと、これからも……秋、それは矛盾してんのかな……」
 「違う、よ」


 泣かまいと、秋はじわりと滲む涙を袖で拭う。そして無理矢理、元気そうな笑顔を作った。その微笑を見て、円堂は視線を秋へと移す。瞳にはいつも通りの、希望に満ちた光が射していた。


 「円堂くんはきっとその想いを、間違ってるって言うけど。それで良いんだよ。…………円堂くんは、間違ってないよ。安心して良いからね」
 「秋…………あ、き————!」



 


 朝日が灯り始めた学校の廊下で、少年はやがて少女に弱さを露見した。少年の目から濁流のようにあふれ出すそれを見ても、少女は何も咎めない。
 少女はただ、今までの少年が履き違えていた強さに、慰みを与えるだけだった。
 …………ただ、それだけ。






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意味なんて無くて良いじゃない、病むのが好きだって良いじゃない。だって人間だもの。
お前人間じゃねぇだろなんて言葉はキコエナイ!