二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 黒田エリの好きな人 ( No.29 )
日時: 2010/09/04 23:35
名前: 紅花 ◆iX9wdiXS9k (ID: W3jWtiQq)

 第十四話 幸せな時間

 *
 突然やってくることなら、いくらでもある。その一秒前までは、すっごく幸せだったのに。
 *

「買い物連れてって!」

 いいって言うしかねえだろ。
 私って、子どもと人懐っこい笑みに弱いんだ。

 ごめんね一郎太。デートじゃないけどさ、一応、一緒にでかけるんだよ。
 いや、そりゃもう弟と姉的な関係で。
 リュウジくんのほうが、カゲトより数百倍可愛いけどね。
 一応報告しておこうかな?
 メールしようとした手がとまる。
 夕日に照らし出された、ドラマのワンシーンみたいな二見さんと一郎太が思い出される。
 考えるだけで胸がナイフに引き裂かれるみたいに、痛い。目頭が熱くなる。
 私はケータイをマナーモードに設定し、「風丸一郎太」と「二見百」をケータイから削除した。
 幸せになってね。二見さんなら、一郎太のこと、きっと幸せにできる。
 私は、ただのクラスメートでいいから。
 
「エリちゃん……?」

 はっとした。
 偶に、リュウジくんは、「男の子」から「少年」になることがある。
 サッカーをやっているとき。
 負の感情に支配されているとき。
 誰かを心配しているとき。
 明るくて軽めなリュウジくんも、少年。
 だけど、私が見ているのは、あまえんぼうな、「男の子」。
 これが彼の素顔なのだろう。
 そうだよ、人生、前向きに生きなきゃ。
 一郎太は二見さんに譲った。
 そろそろ、新しい恋を展開してもいいんじゃない?
 一郎太のこと、諦めきれないのに。
 わたし、そんなことを思ってた。


「アイスおごれ——ッ!」

 響く怒鳴り声に、びくっとするリュウジくんと私。
 みると、白くてふさふさした髪の毛の男の子が、赤いチューリップみたいな髪型の男の子に向かって怒鳴ってる。
 リュウジくんが笑い出した。

「晴矢!風介!またアイスのことでもめてるの?」

 え? ってことはこの二人も、
 
「エイリア————!?」

 うそ! ありえない!!!
 たしかあの風介ってやつはマスターランク、ダイアモンドダストのキャプテンガゼル!
 それがなんでこんなにマヌケな感じにアイスおごれって怒鳴ってるの!?
 すっごいマヌケに見えるんですけど——!

「うん、そう、星の使徒」
「ありえない。星の使徒なら星の使徒らしく星の絵がかかれたローブまとってりゃいいのに」
「豚に歌を教えないほうがいいよ?」

 リュウジくんがにやっと笑う。明るく軽めな、「少年」になる。
 豚に歌を教えるな。それは知っている。台湾の言葉だ。
 『豚に歌を教えるな。教えた人が悲しいだけでなく、豚だってかなしいのだから』
 無茶をするなって意味よね。ってかこれ諺じゃないわよ。リュウジくんは諺専門かと思ってた。

「おっ! レー、じゃなくてリュウジか。そいつは彼女か?」
「ううん。知り合いの子」
「ほぉ。可愛いな。なんて名前だ?」
「おい、晴矢! 話題ずらすな!アーイース——!」
「うるせえな! アフロディが買いにいってるだろうが!」
「アフロディだけじゃなくて、晴矢、お前も奢れ!」
「あの、私、黒田エリ……」
「おごれったらおごれ! 抹茶がいい! レーゼの髪みたいな!!」

 ガゼルってなんかスゴイ冷静そうな感じの男の子に見えたんだけど……勘違いなのかな?
 リュウジくんが教えてくれた。風介はアイスのことになるとこうなるらしい。
 
「アフロディって、亜風炉照美?」
「ああ。あの女顔の」

 アフロディかぁ。
 彼なら知っている。世宇子のアイドルだ。
 一度、台湾に遊びにきたことがあって、その時に仲良くなったんだけど、すっごい面白い子だった。
 私のクラスメートが私にアフロディを紹介しろと押しかけてたなぁ。
 最初で最後だったよね。私があんな有名人になったのは。
 その時、私はもう、一郎太のことが……
 ずき、と心が痛んだ。そうだよ。私、もう諦めたんだよ。
 もう、考えないようにしよう。

「あっ、りえり」

 あっ、アフロディ。
 いつの間にきたんだろう。
 気付いたら風介はもう一心不乱にアイスをなめているところだった。
 りえり、それは、若田がアフロディに教えたニックネームだ。
 で、二人が五人に増えて、私達は買い物を続けた。
 フリフリのワンピースをとって、アフロディ、買う? とからかったり。
 アイス屋さんの前を通りかかったとき、風介におごってあげたり。
 ヘアサロンの前を通ったとき、髪、どうにかしたら? とリュウジくんに聞かれて怒ったわたし、風介、晴矢。
 ヘアゴム買って、リュウジくんの髪を遊んだり。
 楽しい時間が過ぎてゆく。
 突然やってくることなら、いくらでもある。
 その一秒前までは、すっごく幸せだったのに。
 
 向こう側を、二見さんと一郎太が歩いていった。
 驚愕に目が開く。
 一郎太が私に気付いた。リュウジくんに気付いた。アフロディに気付いた。風介に気付いた。晴矢に気付いた。
 一郎太の目が見開かれる。
 まだ、アフロディや風介は気付いていない。

「ねえ、早くいこうよ」

 私は皆を急かしてその場を去ろうとした。
 焦ってたの。
 だから知らなかった。

 ——リュウジくんが、一郎太に気付いてたなんて。

 *
 幸せな時間はたった一言で、小さな行動で——壊れてしまう。
 *