二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 黒田エリの好きな人 ( No.3 )
日時: 2010/08/29 14:25
名前: 紅花 ◆iX9wdiXS9k (ID: JXt4HhjK)


 第三話 拒絶

 *
 彼女は暖かかった。
 *

 一週間して、俺の脚と顎は治っていた。
 今日の掃除当番は俺。教室を綺麗にし、帰ろうとした矢先にドアが開いた。
 少し伸びてきた髪を一つ結びにし、唇をぎゅっと一文字に結んだ少女。
 ——黒田さん。
 
「どうしたの?」

 俺は彼女の耳くらいの高さしかない。だからいつも、少し見上げるようにして彼女と話している。
 ただ、俺が彼女を見上げるたびに、彼女は嬉しそうな、悲しそうな、複雑な顔をして笑う。
 
「ワスレモノ」

 機械みたいな、抑揚のなく、静かな、彼女らしからぬ声で答える。
 そして機械みたいに自分の、一番後ろの席へ言って、筆箱を取り出しバッグへ入れる。
 俺は彼女に背を向け、バッグを背負った。もう帰ろう。

「……な」

 見ると彼女の両腕が俺をがっちりガードしていた。
 ぎゅうっと、彼女の両腕に力が篭る。俺は半分爪先立ちになる。
 

「好きです」


 蚊の鳴くような声がして、彼女の両腕のが緩む。
 俺は慌てて振り返った。じっと自分の上履きだけを見ている黒田さんが目に入った。
 俺は思わずあとずさって、脳裏を整理した。
 黒田さんは今、俺に抱きついた。うん、それは事実だ。
 で、好きです、と言った。うん、これも事実だ。
 脳裏で点滅する四つのカタカナ。
 コクハク。
 なんて答えればいいのだろう。
 俺は彼女のことが好きなのか?
 でも、つい一週間前までは、彼女のことなんてただのクラスメートとしか思っていなかった。
 俺の口が、言葉を紡ぎだす。

「その気持ち、嬉しいよ。けど……」

 今度は黒田さんがあとじさる番だった。
 
「俺、好きな人がいる」

 黒田さんはふーっと溜息をつくと、顔をあげた。
 とても人間とは思えない、蒼白な顔。
 黒い目は虚ろで、なにも見ていないように見えたのに、中には恐ろしい程鮮明に、俺が映っていた。
 ゆっくりと、彼女はひきつった笑みを浮かべた。

「ごめんね」

 彼女はそう言って、ゆっくりと教室を去っていった。
 ただ、ドアがしまると直ぐに、走っていく音がした。
 教室に残されたのは、沈黙と俺。
 俺は窓の外を眺めた。走っていく黒田さんが見えた。
 
 ごめんねは、俺が言うべきじゃなかったんだろうか?
 そもそも、彼女はなんであの坂道を通ったんだろう?
 
 俺はバッグを担ぎ、走り出した。
 そうしたら、気分がよくなるだろうから。

 *
 最初からわかってたんだ。勝ち目なんかないって。
 *