二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: イナズマイレブン 黒田エリの好きな人 ( No.62 )
日時: 2010/09/17 22:04
名前: 紅花 ◆iX9wdiXS9k (ID: C9Wlw5Q9)


 第三十一話 マキちゃん

 *
 私の部屋で泣いている人がいる。
 *

「マキちゃん……?」

 蒼い髪の毛を垂らして、顔を見せないようにしながら、膝を抱えていた。
 聞いていると胸が締め付けられるみたいに辛いすすりなきが聞こえる。
 マキちゃんはそっと顔をあげた。
 青い髪の毛に涙が連なって、髪の毛の隙間から緋色の瞳が輝いて、まるで幽霊だった。
 顔がいつもより白くなっているのに、目元は赤く腫れ上がっている。
 
「どうしたの……?」

 マキちゃんの隣に腰を下ろす。
 ビクッとして顔を埋めるマキちゃん。
 それから、また背中を震わせて泣き出した。
 私は慰めの言葉も、なんにもかけなかった。
 泣いているときに誰かに話しかけるのって恥かしくって辛いって、よくわかるから。
 だから、ただ黙っている。
 部屋の壁を見つめて、なにもしない。
 マキちゃんの泣き声が、微かに空気を震わせる。

「ごめんなさい。ごめんなさい」
「なんでマキちゃんが謝るの? おかしいよ」
「だって、みっともないところみせちゃって、」

 マキちゃんは服がびしょぬれになるまで泣いた。
 今、来ているのは私の服。
 ぎゅうっと唇を噛み締めるマキちゃんは、未だに涙の連なる髪を顔の前に垂らしている。
 私が手を伸ばし、その髪をかきあげようとすると、マキちゃんがさっと避けた。
 髪の毛をぎゅっと掴む。——顔を隠したいんだ、と理解する。
 
「ねぇ、どうしたの? 私、詮索するのは嫌い。だから、正直に話して」

 マキちゃんは私をちらりと見て、口を開きかけたが、すぐ閉じた。
 マキちゃんは横を向いた。髪の毛がさぁあっと一瞬宙に浮く。
 その一瞬、私はマキちゃんの口の周りが真っ赤になっていることに気付いた。
 真っ赤になっている——腫れているらしい。
 私が思い出したのは、クラスメートの市野佳奈だ。 

「アレルギー? だったかしら?」

 マキちゃんが驚いてこっちを見た。
 市野佳奈、私の大親友。
 佳奈は、すっぱいものを食べると、口周りが赤くはれ上がるのだ。

「パイナップルとか。すっぱいもの食べた?」

 こくっと頷くマキちゃん。
 驚きに目を見開いている。
 
「はい……。カゲトびっくりしてたから、マキ、嫌われちゃったんじゃないかって……」

 はぁ〜、と溜息をついた。

「そんなマキちゃん、似合わないよ!」

 私の中のマキちゃんは、悪戯っぽく笑って、笑いながら半端じゃない威力のシュートを打って、カゲトにべったりくっついてる、そんな感じだ。
 泣いているマキちゃんなんて似合わない。
 口元が腫れている? 数時間すれば元に戻る、心配ない。
 それにカゲトがこれだけでマキちゃんに対しての熱が冷めるわけない。
 ぎゅうっと髪の毛を引っ張った。
 痛い、と悲鳴をあげるマキちゃんの方へ、ヘアゴムを投げる。

「早く髪の毛結んじゃいなよ。センプウキみたいなおだんごに!」

 髪の毛を押えながら、はい! と返事をするマキちゃん。
 それでこそ、マキちゃんだ。
 
「私さ、貴女の姑になってもいいと思う」

 ポソリと呟いた。
 こう言ったらマキちゃんの機嫌はよくなるに違いない。
 そう思って言ったら、本当に喜んでもらえた。

「えぇえええ!? ほんとうですかぁっ!?」

 ハートマークが出そうな勢いだ。

「やったぁ! マキもエリお義姉さんみたいな姑ならほしいです!」

 ぴょんぴょん跳ねるマキちゃん。

「カゲト心配してたよ」
「かっげとぉ〜! 大好き〜!」

 きゃー、と歓声をあげてカゲトに抱きつくマキちゃん。
 うん、これでよし。
 ってあ、他人のこと心配してる場合じゃなかった。
 あのあと一郎太とリュウジくん、どうなったんだろ……?
 あと、私も、どうなるんだろ……?

 *
 波乱に満ちた恋する乙女の毎日
 *