二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.169 )
日時: 2012/10/30 23:44
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

 こうして——
 マルヴィナたち四人の活躍は、歴史書に綴られるほどの大事となった。内容は、黒騎士退治ではない。
 何を、どのように書かれるのかは、分からない。そもそも、四人にとってそれは興味のあることではなかった。
 城中の歴史書を引っ張り出し、学者たちはセントシュタインの国と
ルディアノの国についてを調べ上げようと意気込んでいた。
王は黒騎士を誤解し、悪く言ったことを反省し、またマルヴィナたちの栄光を賞賛し、祝った。
セントシュタインの国では、数日に渡る宴が開かれ、城下町の人間や旅人までもが浮かれ、楽しんだ。
だが、その宴の主人公たるマルヴィナ、キルガ、セリアス、シェナの四人は、
何故か割と浮いているという結果であった。

 ・・・特に、マルヴィナは。


「マルヴィナ?」
 夜の事。
 キルガは、何となく冷たい風に当たりたくなって、城のバルコニーへ足を運んだ。
だが、既にそこに誰かがいる。それが、マルヴィナだった。
「・・・あぁ、キルガ」
「どうしたんだ? ボーっとして」
 セリアスは町の大男と先を競うように料理を食い尽くしていた。
サンディも似たようなもので、人の目を盗んでつまみ食いをしていた。
シェナはというと優雅な淡い色の(貸してもらった)ドレスを身にまとい、
悠然と女性たちとおしゃべりをしていた。
ちなみに、宴の中に咲くシェナの姿に一目惚れした男共の熱烈な告白の言葉を
即答で拒否することでことごとく返り討ちにしていた・・・というのは余談で。
 そこそこに浮き具合から立ち直った二人(とサンディ?)に比べ、
マルヴィナとキルガはまだこんな調子である。
 マルヴィナはそれを知っていながら、それでも一人になることを望んだ。
むしろ、宴に対し、苦々しい思いを抱いていた。
「・・・うん。・・・ちょっと、ね」
「——殺したことか?」
 遠慮もなく言ったキルガの言葉に、マルヴィナは小さく反応する。
マルヴィナが悩む時は、その原因を単刀直入に言って認めさせないと、
後からずっと引きずることになるというのは長い付き合いから理解していた。
だから、辛いことだと分かりながら、言う。
「・・・分かってる、か」
「・・・」
 キルガは黙って、マルヴィナが何かを言うのを待つ。
 マルヴィナは振り返った。暗闇に包まれた哀しい表情が見える。
「・・・正解。・・・何も知らないのは当たり前だし、責めてもしょうがないんだけどね
・・・どうしても、思うんだ。
こっちは、生と死の狭間を潜り抜けて、何かを殺すことまでしてしまったのに・・・
何故、こんなに、華やかな場が作られるんだろうって」
 やはり気にしていたのか、とキルガは思った。戦場での震え、躊躇いの色・・・それが、見て取れたから。
「・・・どうして、こんなに距離を感じるんだろうね。・・・うなされるんだ。
目を閉じると・・・ 魔物_あいつ_ が、何度でも蘇ってきて、わたしは逃げることが出来なくて・・・」
 自嘲気味に笑うマルヴィナに、なんと言えばいいのか。キルガはそれが分からない。
これ以上何かを言うと、かえって彼女を傷つける事になるような気もした。
だが、そんなキルガの頬が、いきなり横に伸びる。マルヴィナが軽く握って、引っ張っていた。
「ひ——ひたいいたい。ハル——ヴィナ、・・・いきなり何?」
 解放してもらい、キルガは頬を押さえる。マルヴィナが今度は、二カッと笑った。
「・・・変な顔」
「いやそりゃ引っ張られれば誰だって」
「違うよ。珍しいなキルガが同情するなんてさ。・・・でも、いいんだ。
わたしは、わたしなりに立ち直るからさ。・・・ありがとね」
 まさかマルヴィナからお礼を言われるとは思わず、キルガは 曖昧 _あいまい_ に返事した。
だが再び、その頬が横に伸びる。
「やっぱ面白いなこの顔。もうちょっと伸びるかな」
「ひ、ひはいって、ちょ、——遊ぶのは止めてくれ」
「だって面白いし。意外と伸びるんだね」
「・・・僕はどう反応すればいいんだ?」
 最初とは違う、笑い声。
 彼女もまた、フィオーネと同じ強さ、立ち直るというそれを持っていた。

 それがある限り、彼女は決して絶望をしないと思う。
レオコーンがなるかもしれなかった、あの姿には。




             【 Ⅲ 】 ——終結。