二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.433 )
日時: 2011/07/01 21:14
名前: Chess ◆1OlDeM14xY (ID: fckezDFm)

 面影はどこにもない。
よくよく見てみれば愛嬌のあった顔は、今や別の物となっていた。
手の甲に乗るほどしかなかった身体は巨きく膨れ上がり、あどけなさのあった眸は生々しく光っていた。
ずらりと鋭い犬歯が並ぶ。かすり傷程度しかつけさせなかった爪は、硬く、大きく、
今では人ひとり切り裂くくらいを簡単にやってのけそうなほどであった。
「ば・・・化け物っ」
 侍女が思わず叫んだ言葉に反応したアノンは、ぎるり、とその侍女に目を向けた。
もう一度盛大な悲鳴を上げた侍女はそのまま失神する。
 部屋を揺らし、水飛沫を上げ、足音を立てて。アノンは——アノンであったものは、沐浴場の井戸へ向かう。
明らかに自分より狭いはずのそこへ——飛び込んでいった。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 皆が皆、あまりの急展開に絶句した。
沈黙が破られたのは、ようやくマルヴィナとシェナが状況を確認できるほど冷静になった時である。
何かが変わっている気がした。何か、何かが、欠けているような——



「—————女王は?」



 シェナの呟いた声は、静かなそこに、大きく響いた。
ユリシスの姿がなかった。マルヴィナが沐浴場の入り口を確認する。しっかりと、鍵がかけられていた。
「まさか」
 全員の目が、今度は井戸に殺到する・・・。




「おっす、久しぶりだなぁ、キルガ!」
 一方、何も知らない締め出された二人。
 キルガの一番の目的であった、“聖騎士団修道院の様子を見に行く”は、今ようやく実現されたのであった。
「お久しぶりです、マリレイさん」
「おうおう。今回の賭けも、俺の勝ちだ」
「は?」
 いやこっちの話、とはぐらかすマリレイの横からすかさず精霊オルンのツッコミが入る。
『おめえがまた戻ってくるかどーか、賭けてやがったのさ。ったくしょー懲りのねえ』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これで僕が賭けの対象にされたの、三回目ですよ」
「いや五回目だ」マリレイ、あっさり打ち砕く。
「まず怪我してたお前が目を覚ますかどーか、立ち上がれるようになるまで何日か、紹介の日に何人
若い女が集まるか、槍術で何人勝ち抜くか、んで、今回の賭けだな。二つ目以外は全部勝ってんだぜ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」自慢げに話されても困る。
「・・・・・・・・・・・あの、賭け、好きなんすか?」
 セリアスが何となく居心地の悪さを感じ嘴を挟む。マリレイは慇懃に笑うと、あったりめえだ、と頷く。
「俺たちゃ中年男の聖騎士は砂漠の民と槍とダンスと賭けをこよなく愛す! これ、基本だぜ」
「いや俺バトルマスターなんで。基本とか言われても」
「む? むむむ? ・・・おお、おめさん、バトマスかよ! あーこりゃ、いい人選じゃねーか!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
 セリアス、フリーズ。
「だからな。聖騎士とバトマスだ。知らねぇのか? この二つは、対にして同じ存在だ。だからさ」
 キルガは、目をしばたたかせる。なんだそれ、と首を傾げた。
が。
「・・・・・・・あぁ! なるほど、すげぇや。そんな考え方もあるんすね!」
 セリアスが難題を解いた時のような、清々しい表情でそう答える。キルガは唖然とした。分かるのかよ、と。
「いやー、何かいいこと聞いた気分だなぁ。ありがとうございますっ」
「はっはっは、褒めても何も出さんぞ」
「セ、セリアス」キルガは満面の笑みのセリアスをつつく。「どういう意味だ? それ」
「え? キルガ、分かんねぇの?」
「全く」
「意外だなー。・・・でも、これは、俺がさらっと言っちまうと意味ないと思うぜ。少しは考えろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だよな」
 キルガは溜め息をつく。そういえば、ハルクさんに言われた“攻撃こそ最大の防御”の意味もまだ分かっていない。
このままでいいのか自分、と自分自身にツッコんでから——キルガは、思い出した。修道院を訪ねた理由を。
「・・・そういえば、ハルクさんは・・・」
 その名を出した時、マリレイは、あー・・・、と歯切れを悪くした。
「・・・まだ、だな。まだ、帰ってきてねぇよ。・・・俺たちも、待ってんだがな。あの人の槍の一喝をさ。
・・・何で首にされちまったんだろな」
 確かにその通りだ。納得いかなかった。・・・だが、それは今更だ。
「そう、ですか」
 キルガはそれだけ答えた。


 そのしばらくの後。

「っキルガさ——ん!! セリアスさ——ん!! お見えでしたら、お返事お願いいたしま————っす!!」

 ・・・そんな声がした。
それは、先ほどのあのジーラであった。