二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.554 )
日時: 2012/08/23 11:46
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

 そしてその後、マルヴィナは目をしばたたかせることになる。
驚いたことに、店員たちは、マルヴィナに意外と親切だったのである。
いやだって、久々のお客じゃないですか! せっかくカウンターに立ってても、誰も来ないんだもんね。
若い店員たちは、そう言って笑った。そっか、とマルヴィナは思った。
村人に武具を売りつけたって、何にもならない。使われないのだから。
余所者には何も売りつけるなと村長は言っていたけれど、それじゃあ経営は成り立たない。
それに、スガーさんが言うように、ただの旅人じゃないみたいだ! 彼らはそう言って、自慢の品ぞろえを見せてくれた。

「実は私たち、村長様のお考えに納得がいかないんです。だって、来る人皆が、不幸を呼ぶわけ、ないじゃあないですか」
「まぁ・・・不幸?」
 あ、そっか、と、店員は問い返された理由を悟る。村人でない人と話したことなど滅多にないので、
つい知り合いと話しているような言葉運びになってしまうのだ。
「古い話さ」
 スガーはマルヴィナの剣を研いで打ち直してやりながら答えた。
「昔、そうさな、三百年くらい前か——村の娘が助けた男が原因で、この村が一回滅びかけたんだとよ。
で、そっからもう余所モンを寄せ付けないようにしたんだとさ。・・・村長は、代々続けてやってっから、
特に耳ダコになるほど聞かされてきてるらしいしな」
「・・・そう、だったのか」
 マルヴィナは頷きながら、そっと眉根を寄せた。また、三百年前だ。
最近聞く言葉は妙に、この単語が多いような気がする。
「でも、僕にすれば、いつまで昔のこと引きずってんですか! なんですよね。怯えすぎなんですよ、村長様も。
ティルも、可哀想に」
「三百年前のその娘だって、良心で助けたのに! それが原因なんて、可哀想すぎるわ」
 そろって頷く店員二人。もしかして兄妹か? と思ったが、そこはあえて詮索しない。
「まぁ、その男ってのが、噂によりゃ人間じゃなかったんじゃねぇかって話もあるがな・・・むぅ、こりゃ無理だな」
 スガーはその手を止め、剣を持ち上げ、首をふった。刃こぼれがもう目立たないほど、綺麗に研ぎなおしてある。
素晴らしい腕だったのだが——状況を見て、マルヴィナも納得した。
「これじゃあもう研ぎ過ぎだ。細すぎる。折れるのは時間の問題だろう。
・・・よう、言った通り、俺の創った武器を見て来いよ」
 ありがとう、と、マルヴィナは男性店員のほうに案内されて、武器を眺めた。

 一つだけしかない、見たことのない剣を手に取る。
細身の、レイピアである。やけに軽い。あまりにも軽すぎて、重くは振れそうにない。
だが、刃はしっかりしているし、加えてその軽さを逆手に、瞬時に二回の攻撃を繰り出せそうである。
ひゅ、ひゅん、と空所に向かって鮮やかに剣を振り手懐けるマルヴィナに、
店員二人と、スガーまでもがしばらく唖然と見守った。軽さゆえに、空回りさせるものもいる。
そんな剣を、マルヴィナはいきなりその手に馴染ませてしまったのだ・・・マルヴィナや、仲間たちには
見慣れた光景でも、やはり赤の他人には目を見張るものがあるらしい。
「・・・大したもんだな。そいつぁ、たまたま出来た、魔物専用の武器だ。・・・よし、それ、アンタにやろう」
「・・・・・・・・・・・・・え? ・・・無料!?」
 マルヴィナは動きを止め、レイピアを見、そしてスガーを見るという若干忙しい動きをした。
スガーはマルヴィナの驚愕をさりげなく無視して続ける。
「見込んだ通りだ、アンタは熟練の旅人だ。・・・そいつだって、そういうやつに使われたほうが喜ぶってもんよ」
 マルヴィナは金額について何も触れず、ただ武器の使い道に真剣な武器職人に、苦笑しながらも大きな感謝をした。
「カッコつけちゃってぇ」
 女性店員がはやし、スガーがうるせぃ、と反応しながらもまんざらでないような顔をし・・・
そして、マルヴィナの腰の、もう一本の剣——ぼろぼろで、朽ち果てかけているのに
なぜか無事だった妙な剣に、目を止めた。
「そういや・・・それ、その剣。そいつぁ魔剣か何かか? あんたが落ちてきたとき、すげぇ光ってたんだが」
「え」
 マルヴィナは言われてから気づく。・・・そうう言えば、妙に前より小綺麗になっているような気がする。
「・・・さぁ、わたしにもわからない。大切なものであることには、変わりないんだが」
 この剣に守られてきたことが、どれだけあっただろう。リッカに、大切な親友にもらった、お守り。
でも、この剣の正体を、彼女は知らない。
「む・・・ちょいとそれ、俺に見せてくれねぇか?」
 マルヴィナは、驚いて相手を見たふりをして、目の色と方向、そして相手の呼吸を窺った。
そして、ただ単純に観察したいだけだということを判断し、鞘ごと差し出した。
スガーは、壊れないように—まぁ、実際マルヴィナが大怪我を負い使っていた剣もひどいことになっていた状況で
明らかに一番被害を受けそうなところを受けていなかったのだから、壊れないだろうが—、ゆっくりと剣を受け取った。
そして、観察。うーむと唸り、ぶつぶつと何かを呟き。あまりにも空気が静かになったものだから、
店員たちもマルヴィナも気を使って、何? さぁ・・・などとかなり短い会話を小さな声で交わしていると。




「————————あぁぁああああッ!!!」




 いきなり、建物ひとつひっくり返すのではないかというほど大きな声を上げて、スガーが叫ぶ。
驚いてスガー以外三人、そろって飛び上がって二歩下がる。
 が、お構いなしのスガーは、その筋肉をぶるぶる震わせ、あわわと口をパクつかせる。
「お、おおおいアンタ、これ、ああアレじゃねえかその、ぎ、ぎぎ、ぎ」
「お、落ち着いてくださいスガーさん。なんでいきなり機械みたいな声出してんですか」
「ぎ・・・ぎっ、・・・おい待て誰が機械だ」
「いやぎーぎー言うもんですから」
「で、どーしたのよ?」いさめたのは女性店員。なんだか板についたようなその光景にマルヴィナは今度は笑った。
 ともあれスガーが落ち着き、話は元に戻る。
「・・・これ、なんか凄い剣だったりするのか?」
 マルヴィナは尋ね、スガーは頷く。
「凄いってもんじゃねぇぜ。そりゃ最早伝説だ」
「伝・・・」
 マルヴィナは言いかけて、止めた。スガーが、もう一言——

















「そりゃ、銀河の剣だ。この世界において、最も優れた——いわば、最強の剣さ」