二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.580 )
- 日時: 2012/08/30 23:05
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
4.
ルィシアは苛立っていた。
一向に動きがないことをさすがに不審に感じて、今さっきハイリーに命じたのだ。・・・標的を探せ、と。
もたもたして、奴らがドミールに行ってしまっては、後々面倒くさい。
たしかあの地には、ドミールへの架け橋、光の矢が眠っている。それを手に入れようとする動きがあれば、
それを阻止せよと命じてあった——が、村から出てこないのでは意味がない。
まぁ、ドミールへ向かう可能性が今の所ないわけではあるが——それはそれでこちらは動くことができず、
それでも、やはり『後々面倒くさい』ことになる。
やはり小娘だ、部下など持っても、使い道を誤るだけさ! 昇格と欲望だらけの馬鹿な兵士たちにそう言われるのは、
別に気にしてはいないが、面倒くさいのだ。相手にするだけ、馬鹿馬鹿しい。
ともかく、と。ルィシアは嘆息して、艶光りする羽を取り出す。
ちっぽけな、無愛想な村をその頭に思い浮かべながら。
マルヴィナは悩んでいた。
光の矢を入手したことをティルに伝える方法として、いくつか候補を上げたが——全てが全て良い方法ではない。
(てか、全部だめだ)
マルヴィナは胸中で自分自身をぶん殴ってみた。
ティルに伝えるために村に入る。これが一番単純で、考えるまでもないことではある。
が、マルヴィナは自分で言ったのだ。
『ティルを探したら、村を出る』と。
村人に見つかれば、マルヴィナはもちろん、更なる余所者のキルガたち三人や、ティルまでもが白い目で見られるだろう。
ならば夜は? 村人たちは寝ているから、人目に付く恐れはない。が、それはティルもである。
第一、少年だ。大人たちより早く床に就くだろう。起こすのは憚られる。
村の前で「ティルー、手に入れたぞー、」と叫ぶか。
いや、それでは石つぶてが返事だろう。「嘘をつくな馬鹿野郎!!」なんて言われそうだ。・・・なら、逆は?
光の矢を使い、橋を架けた後なら。石つぶては、前者よりも少なくなるのでは。・・・何で石つぶて云々で考えているんだ?
「これでドミールに行けるな! うっしゃ新天地!」
「このあたり地図が読みづらいな・・・近道はあるだろうか。・・・ないか・・・かなり遠そうだ」
はしゃぐセリアスと顔をしかめるキルガを横目に見て笑い、シェナは額に手を当てた。
「さっきまで洞窟にいたせいかしら。・・・暑いわね」
ぱたぱたと、手団扇で顔を仰ぐ。
「そーか? そんなに変わんないと思うぞ」
「セリアスに同感だ。・・・シェナ、熱でもあるんじゃ」
マルヴィナという前例がいるので、キルガはそう問うた。・・・が、シェナは。
「てっ・・・」
シェナの手がひゅっと風を切り、下降。拳を握りしめる。
「天使が病気になるわけないでしょっ!?」
「えっ?」
マルヴィナ含め、皆が固まった。シェナのいきなりの大声、かみ合わない返答。
「い、いや、そうじゃない。・・・ほら、前に言っていただろ、賢——」
言いかけて、止まる。様子がおかしい。
天使じゃない、賢者として、キルガはそう言った。
賢者の熱——それは特別な意味を持つ。そう話したのは、シェナ自身じゃないか。
あの話をした時、セリアスは船の舵をきっていた。だから、彼は何のことかわからない。だが——
「だ・・・大丈夫。・・・大丈夫」
シェナはそっと、まるで自身に聞かせるように、小さく呟いた。
様子がおかしいと思ったのはキルガだけではない。マルヴィナもだった。だが、彼女は、別の意味で。
もしかしたら、本当に体調が悪いのかもしれないと。無理はさせないほうがいいと。そう、思っていた。
——思っていた、のだ。
「っ————!!」
マルヴィナの背筋が凍る。反応、する——来る。否——
[来た]!!!
マルヴィナは叫ぶ、「ガナン帝国!!」他の三人の表情が、いつものように緊迫した。
マルヴィナはあたりを見渡す、どこだ、どこにいる。
遠くを、近くを、上を、前を——見て、はっと気づく。
その先——ナザム村。
ナザムの村周辺から、邪気を感じた。
「——あっちだ」
マルヴィナは鋭く言い放つと、三人を促して走る。
そして、その眼を疑いながらも、眉をひそめた。
ナザムに入ろうとする人間がいる。
ベクセリアで、サンマロウで。そして、ここで。
三回目に出会った、その人は。
「・・・ハイリーさん」
それが、ハイリー・ミンテル、その人だった。