二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.600 )
日時: 2012/09/05 00:09
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

 ドミールの騎士は、祈っていた。
その墓に眠る者たちに。

 四人。若き男性と女性、その隣に、少し大きめの女性の母の墓。
更に、少し離れた別の場所に——とある少年の、墓が。

                          ・・・
 少し大きな墓に祈るのは、もう日課であった。どうか、あの方をお守りください、と。
ここに眠る修道女が、天寿を全うしてから。毎日。
「ケルシュ」
 騎士は——ケルシュは、自分の名を呼ばれ、その声の主に——現在の里長、ラスタバに頭を下げた。
「・・・もう、この毎日にも、慣れてしまった」
 足の完全に動かなくなったラスタバは、杖を使いゆっくりと墓の前に来る。ケルシュが支えた。
「いや、結構・・・感謝する。・・・早いものだ。あれから、もう三百年か」
「はい」ケルシュは答えた。
ラスタバはもう老人である。ケルシュも、若くはない年ごろだ。
「・・・せめて、あの方だけでも、戻ってこれたら——戻ってきてくださらねば、せがれが浮かばれん」
「えぇ」ケルシュは頷く。
祈って、祈って——祈り続けて。そして、この間に戻ってきてくれればと思って——
そんな都合のいい話があるわけがないと、でもどこかで期待して・・・
いつも、やるせない思いで、ため息を吐いて終わるのだ。
 いつもどおり、いつもの時間だけ。・・・そのはずだった。その声が、飛び込んでくるまでは。







「——すみませんっ!!」
 異なる風が吹いた。
・・・その意味——異国の民が、現れた。

「お客人・・・?」
「何と——実に、珍しいことだ」
 ケルシュは崖の上から、入口を覗き見た。多い。三人——否、四——










「———————————————!!!」










 そして、ケルシュは目を見張った。
「あ・・・・あぁああああっ・・・・・・・!!」
 見開かれた、その眼には。








 ずっと待ち続けていた、ずっと無事を祈り続けていた、ひとりの娘を映していた。














「異なる風の、歓迎を。——ようこそ、外界のお客人。ここはドミール、人間とは異なる
『竜族』住みし小さき里です」
 里長に古めかしい挨拶をされ、三人は返す言葉を咄嗟に思いつけず、頭を下げた。
・・・そして、マルヴィナが、隣に顔を移す。
「・・・あの。どういう、ことですか・・・?」
 彼女の目線の先には、小さく息をつくながらも意識の戻らないシェナ。そして周りには、
心配げに見守る、里の女たち。
だが、里長はそれより先に、マルヴィナたちを見て、問うた。
「あなた方は・・・お見受けしたところ、人間ではありませぬな」
 普通に聞けば、それはとてつもなく失礼な言葉にもなる。だが、彼は確信していた。
それをマルヴィナたちも読み取れた。この人は、知っている。そう思ったからこそ、素直に答えた。
天使です、と。

 天使の存在を、彼らは知っていた。何故なのかまでは分からなかったが、マルヴィナの話を聞き、
里長は納得いったように頷いた。
「・・・シェナさまは」
 里長——ラストゥアーマダと名乗った彼は、ようやく説明を始めた。
「シェラスティーナさまは・・・このドミールの民、いわゆる——竜族です」
 この状況から想像していたこととはいえ、三人は驚きを隠せなかった。


“ —私も、色んなわけがあって天使界にいられなかった——元、天使— ”

“ —・・・私は・・・天使界には、戻れない— ”


 自らを天使と偽り、行動を共にしてきたシェナ。
だが、その正体は。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「恐らく」ラスタバは続ける。「シェナさまは、ご自分の身分を隠すために、天使を名乗られたのでしょう」
 三人は、答えない。
「何ゆえ、そうされたのかは、私めは残念ながら知り得ませぬ。ですが——」
「許せ、っていうなら、断るよ」
 マルヴィナは小さく言った。キルガとセリアスが、驚いて彼女を見る。
「・・・なんで、隠し事なんかしたんだ。シェナが誰であったって・・・どんな出身だったからって、
仲間であることは変わらないのに。なんで、隠し事なんかしたんだっ・・・」
「マルヴィナ」
 マルヴィナは、シェナの嘘を怒っているのではない。・・・シェナに嘘をつきつづけさせてしまった、
自分たちの関係に、怒っているのだ。
・・・彼女は何処までも、仲間思いで、優しかった。
 ラスタバの話は続く。

 シェナは、五百五十年ほど前に生まれた竜族。
そして、古の絶大な魔力と知恵を兼ね備えた『真の賢者』の正統なる後継者である。
その名の通り、彼女はあらゆる魔法を次々とその身に覚え、素晴らしい成長を見せた。

 ・・・だが、三百年前。

 ガナン帝国を名乗る、紅い鎧の兵士たちに、その能力を恐れられてか、強制的に連れ去られてしまった。

 マルヴィナは知っていた、キルガとセリアスは予想していた。それでも——事実をはっきりと知らされ、
言葉を失わずにはいられなかった。
    ・・・・・
「そこで一人の少年の命が失われ、里長はその後、天寿を全うされました」
 少年、の言葉に一つの悲しみを交え、里長、の言葉に言い表せない思いを抱き。
「——シェナさまの安否を、確認されぬまま」
 一筋、涙が流れるのを、隠さずに、言った——・・・。


「お話、ありがとうございました」
 マルヴィナは礼を言い、二人も続いた。布を出し、マルヴィナはラスタバに差し出す。
かたじけない、とラスタバは布を受け取り、まなじりを押さえ、目をしばたたかせた。
「しかし、シェナさまは、あの頃とお変わりにならない。・・・忌まわしき帝国が滅びてから、三百年・・・
一体、何が起きたのでしょう」
「———え?」
 その言葉には、マルヴィナとキルガが反応した。
「・・・滅び、た?」
「・・・帝国が・・・?」
「・・・・・・・・・・・・む?」
 遅れて、セリアスも。
「む・・・何か?」
 ラスタバが怪訝そうな顔をするのを見て、マルヴィナはさらに混乱する。
「じゃあ、今ある帝国は、一体・・・?」
「・・・む?」
「何・・・?」
 マルヴィナの言葉には、ドミールの民たち全員が首を傾げた。
「お話します」
 その空気に、キルガが割って入った。「今存在する帝国と・・・僕らがこの里を訪れた、理由を」