二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.604 )
日時: 2012/09/09 01:10
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)

 暖かい日差しが辺りを照らすその部屋で——
 シェナは、目を覚ました。
                          ・・・
 いつの間に寝ていたんだっけ。・・・あれ、でも私、今あの里に向かっているはず。
この部屋——あぁ、懐かしい。ここは、私の———・・・




「———————————————————————っ!!!!」




 瞬時に、複数の箇所のスイッチが入った。
がばっ、と身を起こし、立ちくらみ—いや、起きくらみ—をおこして倒れこむ。頭をぐらぐらさせながら、
けれどシェナはかつてないほどに焦っていた。故郷を懐かしむ余裕など、なかった。

(ど)
 どくどくどく。心臓が大砲のように大音を奏でる。
(どうしよう——どうしようどうしよう!!)
 頬を緊張させて、シェナは思った。
(ドミールだ、ここは、ドミールだ・・・・・・・・っ!!)
 知られてしまっただろう。仲間たちに、自分は、天使ではないと。
天使と同等の力を持つだけの、地上の民に過ぎないと。
(ね、熱っ・・・!)
 そう、熱。熱で、倒れたのだ。
馬鹿、自分を罵った。
ドミール出身だと、知られないために——どうにかして、里の民にばれないようにするか。口止めするか。
今更考えると、どう考えても不可能なことをやって見せようとしていたのだ。
その時からすでに熱はあったのかもしれない。
・・・焦って落ち込んで、そして——冷静になって、思った。
・・・おばあさまは? ケルシュは? そして——

 嫌いだった、あの少年は?

 命を懸けて自分を救おうとし、返り討ちにあい、それなのに私は何もできなかった、しなかったあの少年は、
今一体、どうしているの——?




「っ!」

 音がして、シェナはそちらを見た。そして——止まった。
そこにいたのは。


「シェナ、さま・・・」
「ケルシュ・・・・・・・・?」

 祖母意外に頼りにし、好きだった、騎士の姿だった。



              ・・
 ケルシュは無事を祈り続けた少女を目の前に、思わず涙を流しそうになる。  ・・
だが、騎士の務めは。先にすべきことがある。なにより、騎士ではなく、ひとりの家族として、
言うべきことがある。
 互いに静かになってしまったそこで——ケルシュは、シェナの前に立ち、膝を折り腕を水平に掲げ、
頭を垂れて敬礼をした。騎士のすべき、行動。
 困惑するシェナの前で、ケルシュは言う——ずっと言いたかった、言葉を。






      ・・・
「お帰り——シェナ」







「!!」
 いつしか、そう呼んでくれなくなった名。  ・・
従者としてではない、ひとりの、もうひとりの、家族として、呼んでくれたその名。
 シェナは、思わず拳を握りしめた。
ゆっくりと立ち上がり、ケルシュの前にしゃがむと、その首に腕を回した。

「ただいま・・・ケルシュ・・・!」

 彼女の眼に浮かんでいたのは、一粒の涙。











 グレイナルだと、竜は名乗った。
その大きさ、存在感。圧倒される。だが——不思議と、猛々しさは、闇竜よりもかけているように見えた。
・・・それは、その歳のせいか。
「・・・わたしは、マルヴィナという。こちらは——」
「貴様ら」
 マルヴィナが仲間を紹介するより早く、グレイナルは言った。
「・・・そのにおい、忌まわしきガナン帝国! 性懲りもなくまた儂を狙ってきおったか!?」
「え?」「は?」「ちょ」
 マルヴィナ、キルガ、セリアスと、三テンポ綺麗に問い返す。
「はぐらかしおっても無駄じゃ、忘れるはずもない。・・・ならば儂とて容赦はせん、
年老いたとて舐めるでない。古の竜族の力、見せてやろうぞ」
「待った! ちょっと、待った!」マルヴィナが慌ててそれを止めた。「それは違う!」
「違うとな」グレイナルは嗤った。「この期に及んで弁解か。いつからそれほど見苦しくなった、帝国の犬よ」
「だから、違うって言ってるだろー!?」セリアスだ。「俺らは、あんたの力を借りに来たんだ!」
「僕らは、シェナの・・・この里の民シェラスティーナの、仲間です」キルガも言った。
「復活したガナン帝国に相対できる力を持つあなたに、協力を頼みたいのです」
「シェラスティーナ? ・・・あぁ、『真の賢者』か」
 グレイナルはその爪で首筋(?)をかく。「・・・そうか、あの娘が帰ってきたのか」
「信じていただけますか」キルガは静かに、祈るように言った。だが、相手は相変わらずだった。
「帝国に捕まったというのならあの娘も、帝国の者となったという事か。
ならばこのにおいは、あの娘によるものということだな」
「おい」
 セリアスが、抗議と、非難の声を上げたが、思ったよりその声は小さくなってしまい、相手には聞こえない。
「同じことだ、とにかく帝国のにおいを纏ったものに協力など」
「願い下げなのは、こっちも同じだ」
 先に鋭く言ったのは、マルヴィナだ。キルガが、セリアスが、驚く。
彼女はその眸を、怒りに燃え上がらせていた。
「仲間を・・・わたしらの大事な仲間を侮辱する者に、もう用はない。ましてやあなたは
シェナをよく知るものだろう。ならば分かるはずだ、彼女が帝国なんかに手を貸すはずがないと!」
 グレイナルはその大きな眼で、ぎっ、とマルヴィナを睨みつけた。マルヴィナは怯むことなく、睨み返す。
「・・・ほう、このグレイナルに、意見するか。それは無知ゆえか、若さゆえか」
「どうだっていい、とにかく仲間を侮辱する者に、手など借りない!」
 キルガとセリアスは黙ったままだったが、マルヴィナの言うことを否定はしなかった。
どこかで、彼女と同じことを思っていたから。少し、彼女より勇気が足りなかっただけで。
この勇敢さを、キルガは好きになったのかもしれない。セリアスはこんな時にも拘らず、そう思った。
 黙ったグレイナルに、踵を返しマルヴィナは仲間を促した。
「・・・帰ろう」
 二人は、頷いた。その場から、足音が消えてゆく。
グレイナルは、その場で、少しだけ笑っていた。

あの向こう見ずな眸を、思い出しながら。