二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ 星空の守り人 ( No.607 )
- 日時: 2012/09/15 08:40
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: bkovp2sD)
「伝言・・・」
シェナは起きていた。
「・・・ディアのこと、訊いたんだ」
「あぁ」セリアスはベッドの横の椅子の上で胡坐をかきながら、頷いた。
「・・・ごめんね。私も、実は・・・ちょっとだけ、重ねたこともあるんだ。セリアスと、ディアのこと」
シェナは顔を伏せた。
「凄く、凄く嫌いだった。私の悩んでること、何でもお見通しでさ。凄い不器用だから、それを指摘して、
でもそれ以上のことはできなくて・・・結局、私、怒ってばっかだった」
「うん」セリアスは相槌をうった。
「・・・ディアはさ、私を助けようとしてくれた。なのに、私は、何もできなかった。
叫べなかった。ディアを助けてって、叫べなかった。ディアは私のこと想ってくれたのに、
私は、自分可愛さに、何も言えなかった」
シェナは拳を握りしめる。セリアスは、今度は答えなかった。答えられなかった。
・・・何だろう、この思いは。
表現できるものではない。けれど——分かることは、決して喜ばしい思いではないということ。
「・・・怖い。・・・ディアの伝言・・・知りたいけど、でも、見に行く勇気がない」
「・・・・・・・・・・・・・」セリアスは黙った。考えた——そして結局、言った。
「・・・俺も行こうか」
駄目だ。どこかで、彼自身が言っていた。ついていくな。駄目だ。
けれど、一度言った言葉を撤回する自分は、いなかった。
「・・・え」
「ほら。勇気がないときは、誰かが近くにいると、安心するだろ」
「・・・・・・・・・・・・・・」シェナは黙った。セリアスの眼を見る。無邪気な、純粋な、
ばかがつくほど正直な眼。——そんなところまで、そっくりだ。
「・・・うん」
シェナは頷いた。
「うん。・・・お願い」
・・・ トンネル
あの日に丁度出来上がったという、隧道。
自分も携わった、開通作業——けれど、こうして通るのは初めてだ。
足音が響く。大体の中間地点には、酒蔵があった。『竜の火酒』——この里の名産で、毎年の祭りで
解禁される非常に濃い酒だ。
そっか、ここに移されたんだ。・・・確かに、ここなら日が当たらなくて、良い酒が作れそうだ。
「え・・・と。ここじゃないか?」
セリアスが指したのは、少々荒い壁のくぼみの一つ。なるほどそこだけ、何かが隠されているように、
盛り上がり、微妙に色の異なった部分があった。
「・・・うん。多分・・・」シェナは近づき、それに触れかけて——躊躇う。
セリアスが、大丈夫、というように、後ろから頷いた。
シェナは、決意し、壁に触れる——
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!」
・・・知っていた。
彼は、ディアは、少女が好きだった。
好きだからこそ、彼女の悩みに気付き、励まそうとして、不器用ゆえに失敗して、怒らせていた。
けれど——好きだからこそ、あの日、危険を顧みず、少女を助けようとした。
だから、だからこそ、彼は。
それなのに、私は。
——好きだったからこそ。
ア イ シ テ ル 、 シ ェ ナ
『 無上の恵愛を、貴女に—— 優美なる人へ』
だから、彼は——
そっと、この挨拶を、ここに書いたのだ。
「・・・う」
シェナはもう、我慢しなかった。
「う、うぅ」
汚れるのもいとわず、膝をつき、その壁に額をこすり付けて。
「う・・・うぅ、うぁ・・・」
その双眸から、涙を流して。
「あ、あぁぁぁぁぁぁああっ・・・・・・・・・・・・!!」
絞り出すように、小さく、小さく、呟く——・・・。
「ごめ、ん・・・・・・・っ・・・・・・・・・ごめん、・・・・ディア・・・・・・・・っ!!」
あの日言えなかった、その言葉を。