二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.689 )
- 日時: 2012/11/28 23:00
- 名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)
「——おい、マルヴィナ!?」
—— 一瞬意識を失っていたかもしれない。
アギロの声が耳元で聞こえたとき、マルヴィナは薄く眼を開け、歯を食いしばっていた。
「おいって!? 何だよその傷は! 出血が半端じゃねえぞ!」
焦点が合わない。声が聞こえづらい。頭が痛い——
「何だ、何があったんだ? ——兵士か、って、ちょ、おい、な」
アギロの言葉の語尾に妙なものが混ざった。状況を訝しむ前に、別の——
「——ベホイム」
今最も頼りになる、その声がした。
傷の塞がったマルヴィナは意識を瞬間的にひき戻し、がばりと身を起こした。声の主を見る、それは。
「——チェぶほっ」
「ど阿呆」
その名を完全に呼ぶ前に凄い勢いで口を塞がれ——というか、口にツッパリを決め込まれた。
何とも乙女らしからぬ声だったが気にせず、声の主は——
「アホかお前は。今叫んだら注目浴びるだろうが」
チェルスは、変わらぬ様子と、変わらぬ不敵な表情をしていた。
それを見た瞬間、マルヴィナの中に、何にも代えられない安心感が生じた。恥ずかしくて言わなかったが。
「・・・で。なんでこんなことになってんだ?」改めて、アギロが問う。マルヴィナはようやく事を思い出し、
慌てて周りを見渡して——あの神官がもう、そこにいないことにようやく気付いた。
「・・・あれ」
「何だ?」アギロ。
「・・・血の跡があるな。——真新しい」気付いたのはチェルスだ。
「誰かが兵士に斬られたんだな? で、そのとばっちりを受けた——ってところか」
マルヴィナは首を振った。そして、起こったことを説明する——アギロが顔をしかめた。
「そうか。あの人が——」呟いて、アギロは目を閉じ黙祷した。
それが終わったところで、マルヴィナはチェルスに尋ねる。
「・・・新しい囚人て、チェルスのことだったのか」
「あぁ。・・・何だ、わたしが捕まっちゃあ悪いか?」
「イヤそうじゃない」即答。「ただ、チェルスなら、捕まらずに逃げられたんじゃないかって思ったから」
「・・・・・・・・・」チェルスが微妙な表情で黙る。「・・・とりあえず、夜、起きていな。話がある」
「・・・え?」
訳が分からず問い返したマルヴィナの前で、チェルスはアギロににやりと笑い、アギロも頷き返した。
——夜が来る。
疲れすぎて眠くなってはいたが、マルヴィナは何とか起きていた。
しかし、マルヴィナとチェルスの牢はかなり離れている。話があるとは言っていたが、どうやって話すと——
「やっほー」
なんか来たー!!
——とはさすがに言えずマルヴィナは、びくりとしてその場でドン引きした。
「なっ、ななな、何で出ているの!?」
「何でって・・・だから、話があるから」
あわてすぎて二文字間違えた。
「違、な、何で出られるの!?」
「ん? ——あぁ、鍵外した」
恐ろしくあっさりと答えられ、マルヴィナは更にドン引いた。
「ちょっと待って、この鍵凄い複雑っぽいのに、な、ど、えぇ!?」
「ちょっと落ち着け。看守どもに見つかる」チェルスは制してから、少しだけ自慢げな表情になった。
「わたしは当初『職』は盗賊だったのさ。つまりこのくらい、お茶の子さいさい、ゴキブリホイホイだ」
ゴキブリホイホイってなんだよ、とかなんとかそちら方面にツッコみそうになって、
完全に関係ない話をしていることに気付く。マルヴィナはようやく鉄格子に近付き、座り込んだ。
「——まぁとにかくだ」どっかり腰を下ろし、チェルスは本題に入る。
「わたしがここに入ったことで間違いなく帝国も動く。隙を見てこっから出てやりたいんだが、生憎わたしじゃ
例の結界は通れない。——でな、・・・アギロ、起きているだろ。話してやってくれ」
「おぅよ。漫才は終わったんだな」
隣から聞き慣れた声がする。あぁそう言えば、アギロって隣だったっけとマルヴィナは思った。
「いいか、声を落とすからよーく聞け。実はオレたち囚人の中ではな、前々から脱獄の計画が練られてんだ。
計画っつっても、奴らの武器を奪って反乱を起こすってぇ雑なもんだがな、
もともと頭数はこっちの方が上なんだ、成功の余地はあると思っている」
「うん」マルヴィナは頷いた。確かにかなり雑だ。だが、言われた通りできなくはないだろう。
「だが問題は例の結界だ。あれがある限りオレたちはこっから出られねぇ。——そこでお前さんだ。
実は今日お前さんが通った結界、あの先にゃあ結界を解く装置があるんだ」
「つまり、その間に、わたしが結界を解けば、脱獄成功——というわけか」
「そういう事だ」
マルヴィナは納得した。「了解した。任せられた」
「つっても、別に今日明日決行しようってわけじゃねぇが——」
「いや、近いうちに行動する」チェルスが割り込んだ。アギロが問い返す。
「明日、アンタの仲間三人がここに来る」その言葉にマルヴィナが、ぱっと表情を明るくした。
「で——これは願望でしかないが——うまくいけばマイが復活するかもしれない」
マルヴィナとアギロ、壁越しに同時に目をぱちくりとさせた。叫びそうになって慌てて口を塞ぐ。
「ちょ、ま、なん、何でそ、えぇ?」
「落ち着け」チェルスが手をひらひらと振る。
「あくまで願望さ。だが、間違いなく近いうちにあいつは復活する。——させる。
わたしがここに入ったのも、そのための計画に過ぎない」
何を言っているのかわからなくて首を傾げるマルヴィナに、また説明してやるからとカラカラ笑い、
チェルスは以上だと言ってさっさと立ち去ってしまった。
——マイレナが、復活する。
今、わたしたちにとっても帝国にとっても、そこまでとんでもない状況になっているのか——
今更ながらに、重大な状態であることを自覚し、マルヴィナは胸に疼く闘志を、そっと抑え込んだ。