二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.711 )
日時: 2012/12/22 13:59
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

  ザメハ
 覚目呪文というらしい魔法で強制的に起こされたセリアスは(この呪文はセリアス起こしに使えるな、と
さりげなく考え込むキルガであった)、呆れ顔のキルガと共に牢獄内へ走って行ってしまったマイレナを追った。
血と、死の臭い。けれど、今は混乱したように意味のない動きを繰り返す兵士たちと
希望に満ちた表情の薄汚れた服装の人間たち大勢が目に入る。
「これは…どういう状況だ?」セリアスが呟き、キルガが目を細める。
「チェス、一体これどういう状況?」
 そして、久々に実体で再会した二人の伝説は、それに感動——するわけでもなく
現状況についての話し合い。まったくここまでさばさばしていると却って清々しい。
「やースンマセン。最後の最後で予想外が起きやした」
「作戦ミスか…現実ってやっぱ厳しーねぇ。…あ、マルヴィナだ」
 まいっか、と言おうとして、先にマイレナは“子孫”に気付いた。チェルスの向こうを見る。
その名に反応したキルガとセリアスが、ようやく表情を緩めた。走ってきている。無事だ!
それに安堵しかけ——はっと、後ろを追っている兵士の存在に気付く。
「時間かかったなぁ…で、誰あの男? 人質?」
「イヤどう考えてもマルヴィナを狙っているだろっ」チェルスに、セリアスが間髪をいれずツッコんだ。
マルヴィナの様子からして、彼女は後ろに兵士がいることに気付いていない。
マルヴィナ、後ろ——走りながら叫ぼうととびだしたキルガより早く、大きな声が飛んできた。
「マルヴィナっ! 兵士だっ! 危っぶねぇぞぉぉぉぉ!!」
 マルヴィナはきょとんとする。後ろを振り返り——理解。              クレス
兵士、即ちクレスもまた、状況理解のために固まった。あーそれ誤解…と言う前にアギロが兵士に体当たりすべく
身体をひねり突進。が、相手はチェルスの攻撃を二度にわたって躱したうえ、マルヴィナの剣技がなかなか
通用しなかったほど身躱し術に長けた青年、難なく避けた——が、もともといた位置が悪い。
クレスが避けたとなると、アギロの前に立つのはマルヴィナと言うことになる。
互いに慌てたが時すでに遅し、綺麗に吹っ飛ばしてしまったマルヴィナを、


 …がしっ、


 と、走り込んでいたキルガが咄嗟に抱き止めた。

 が、何分突然の話。
状況を再び理解するのに数秒を有し——…。

「ひゃわわぁわっ!!?」クレスが頭を下げ、アギロが手を合わせ、セリアスが石化、
マイレナがくつくつくつくつと笑い始め、チェルスがそんなマイレナに半眼を送っていた頃にマルヴィナは、
ようやくその状況を理解した。
慌ててキルガから離れ、「ごっごごご、ごめふっ!!」と何故そこを噛む、と言われそうな場所を噛み、
マルヴィナは真っ赤な顔で謝った。が、キルガもキルガで、
「あ、いやそうじゃなく! なっ何分急で! えっと、」
 傍から見て若干哀れになるほど慌てていた。
(…あれ? マルヴィナ)
 ようやく石化が溶けたセリアス、そんなマルヴィナの様子を見てにやりと含み笑いをする。
(ほほ〜う。…春)
 若干台詞がオヤジくさかったかもしれない。
「あっ、そ、そうだアギロ、違うんだ。この人、クレスっていうんだけど、味方だから!」
 未だ心臓がすごい速さで動いている。どうしたんだ、自分。
ただ驚いただけじゃない。緊張? 何故? 違う、緊張でもない。じゃあ、今のは——。
「んあ? 敵じゃねぇのか? …一体どーいう?」
「平たく言えば、クレスが結界を解いてくれたんだ! とととにかく、これで準備完了だし、
そろそろ——あれ? シェナは?」
 ようやく周りを見渡せるほど落ち着いたマルヴィナが、はっとして言った。セリアスの表情が曇った。
「…そのことなんだが」
 だが、それだけ言って、マルヴィナに、
シェナを何も知らないまま信じる彼女に言える言葉が見つからなかった。
どういえばいいだろう。彼女が、実は敵の一員になっていたことを。
自分たちはそれの過去を認めた。だが、マルヴィナは、どう反応するだろう——そう思って。
「…来なかったものは仕方ない」だが先に、チェルスがその空気を打ち払った。
「そろそろ奴もこの騒ぎに気付いているだろう。ここに出てくる前に攻めに行く必要がある。話はあとだ」
「……」異議を申し立てることはできなかった。キルガもセリアスも不承不承頷き、黙った。
「…じゃあここからは、三手だ。将軍“強力の覇者”の元へ行く者、奴の周りにいる兵士を一掃する者、
ここで待機、監視する者——悪いが将軍の所にはあんたたち三人に言ってもらいたい。
わたしはここに残る必要がある。だからかわりに回復役として、マイ、あんたが———」







「———私に行かせてください」

















 ——待っていた。
 その声を、その言葉を、
 その眸を。


 解かれた結界の外に立っていたのは、強い決意に瞳を閃かせ、
堂々と、しっかりと唇を引き締めた——シェナだった。