二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:   ドラゴンクエストⅨ __永遠の記憶を、空に捧ぐ。 ( No.728 )
日時: 2012/12/29 20:18
名前: 漆千音 ◆1OlDeM14xY (ID: 7K.EniuH)

    【 ⅩⅤ 】   真実



     1.





 天の箱舟—— 一両目。
「んーなんで、ウチまで乗ってるわけ? いや乗れるわけ?」
 唯一の人間であるマイレナが首を傾げた。マルヴィナからくっついて離れないサンディに代わって
久々の運転を務めるアギロが、振り返らずに答える。
「もともと天の箱舟ってぇのは、全ての種族に平等に見えるし、乗れる物だったんだ。
神が創り給うたものだからな、贔屓などなさらない。——だが、人間進化すれば、退化もする。
お前さんの時代にゃ既に、神のもとにいる聖職者を除いては、この姿は見えなくなっちまった。
乗れるってところは、今もまだ変わってはねぇんだがな」
「今はもう聖職者ですら見えないがな」チェルスも補足した。
「てか、マイがこれ見えるのは、どっちかっつーと“霊”の影響だと思う」
「あ、そなの?」マイレナ。「ってことはウチ、今から天使界れっつらごんなんだー」
 今更かよ、と皆がずっこけかけた中で一人サンディは、マルヴィナから離れてマイレナの元へ急行。
「やっぱ『れっつらごん』って言うっスよね!?」なんて全く関係ない話を持ち出す。
「え、何キミもなの妖精ちゃん!」       ギャル
「妖精じゃないしっ! アタシはサンディ! “謎の乙女”サンディよッ」
「おー、キタねがっつり。ウチ“賢人猊下”マイレナ。よろ」
「あーやっぱ『よろ』もつかうっスよね!! テンチョーとかいっつもはー何コイツ的な顔してくるんスよー!」
「えーそりゃおかしいよアギロ。オッサンだからって言葉くらいベンキョーしなきゃ」
「ほらやっぱオッサンじゃないっスかテンチョー」
「オレは、オッサンでも、テンチョーでもねぇっ!!」
「いや前者は合ってるって」
「合ってるっスね」
「い…意気投合している…」
 マルヴィナが最後に呟いた。
「…ねぇマルヴィナ」シェナが、小さな声でマルヴィナを呼ぶ。
「…もしかしてあなたは知っていたの? 私が…帝国に手を貸していたってこと」
「——え? …ううん」
 じゃあ、あの言葉の意味は。
あの反応の意味は。一体、何だったのか。
気になって、どうしても聞かずにはいられなかった。マルヴィナは視線を落とし、考え込んだ。
「んー…わたし自身、何でそんなこと言ったのかは覚えていないんだよね。
ただ…なんか、ずっと…ずっと、会えなかったような…ずっと、別れていたような、そんな気がして…
あの反応も、よく覚えていない。…緊張していたんじゃないかな、わたし」
 あはは、と肩をすくめて笑う。シェナは笑わなかった。緊張? そんなはずがない。
 …けれど、きっともうこれ以上マルヴィナは何を聞いても答えられないだろう。シェナは黙った。
彼女らの後ろ、即ち運転席付近にいたチェルスが、黙って二人を見ていたことには、気付かなかった。




 ——天使界。
ようやく戻ってこれた——暗い雲に覆われた故郷だとしても、弾む思いだった。マルヴィナと、セリアスは。
「……………」キルガは顔を上げなかった。理由は言うまでもない。
「キルガ…」マルヴィナは控えめに、声をかけた。
キルガが顔を上げる。少しだけ、微笑った。悲しい顔だった。
「…その…ゆっくりでいいから、気持ちを落ち着かせてほしい。…ごめん。こんなことしか、言えなくて」
「いや…すまない」
 顔をそらす。マルヴィナは完全に、かける言葉を失った。
「天使界…」シェナが呟く。「…立派な世界樹ね」
 あたりを見渡して、シェナは心の底に感じた思いに首を傾げた。
(…懐かしい…?)
「はー。ここが天使界かぁ」マイレナ。「まさかマーティルの仮想が現実になっている世界に来るとはねー」
「なんすかそれ?」セリアス。
「ま、あとで。…あれ、サンちゃんどこ行った?」
「はいはーい。ちゃんといるよー」サンディがマイレナの頭に乗る。
「おいチェス、お前は行くのかい?」
 チェルスは頷いた。無造作に束ねた髪が風になびく。
「…どうせ数千年前の話さ。もう、わたしを知る者はいないだろう。
…それに、天使界自体を嫌になったわけじゃない」
「…そうか。いや、んなら止めやしないさ。オレはただまたお前が死にたがりになんなきゃいいだけだからよ」
「……………………言うな」フイと横を向くチェルスに視線を転じたマルヴィナが、声をかける。
「チェルス? どうかした?」
「…いや、大したことじゃない。——…あれは?」
 チェルスがあたりを見渡した——と言うより、吸い込まれたように一点に注目した。
頂上を囲う柵の一か所。天使界にのみ咲く、光の反射によって透き通った蒼に見える花が置いてあった、
否——添えられていた。
「…あれ? ——うぅん、知らない。…こんなところにあるなんて珍しい」
「どういう事だ?」
「あれは、天使を弔う花なんだ——って、チェルスは知らないのか?」
 チェルスの顔がさっと険しくなった。同時に、あの日——はじめてチェルスに会ったとき、
天使界の名を出したときと同じ、憎悪の入り混じった眼をした。
「………っ」マルヴィナはぞっとして、思わず一歩、後ずさった。
が、制御するように、チェルスは目を閉じた。「…いつからあったか——分かるわけないか」
申し訳なさそうに、頷いた。自分がここを見るのは五回目。知るはずがなかった。
マルヴィナは恐る恐る、発言をする。
「…キルガなら、何か知っていると思うんだけど——今、あんな感じだから」
「…いや」チェルスは答えた。「…もう十分だ」
「………?」マルヴィナは訳が分からなくて、訝しげに首を傾げたのみだった。