二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: FloWer-凍り付く花たち- テニプリ ( No.20 )
日時: 2010/09/18 16:19
名前: 亮 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)



 002




5月下旬。

6月に始まる都大会を目前にして、何処の学校も皆必死に練習している。
勿論、此の氷帝学園でさえ。
とはいえ、油断や過小評価は以ての外だが、多少の自信はあるらしい。
東京の強豪である正レギュラーは、数名を除いて都大会には出場しない。


「都大会から正レギュラーを使わない理由?? んなの、温存に決まってるだろーが」


理由を聞いた芙美は、跡部に鼻で笑われてしまった。

「でもさ、もしも順レギュラーが倒されちゃったらどーすんの」

その言葉にも、跡部は余裕の表情で答える。

「そんな弱いヤツは、そもそも順レギュラーなのには成り得ない。それに、S1には俺様が入っている」

相変わらず、腹の立つ言い方だが——、勝ち気な跡部が言うのだから、本当のコトなんだろう。
芙美はそれ以上訊くのは止めにした。

——そういえば、お兄ちゃんにも同じこと訊いたコト有ったけ。

テニスをしている姿が懐かしい、兄を思い浮かべる。
思い返せば、同じようなコトを言っていた気がしてきた。


——運動が出来る人の考えは、私には分かんないなぁ


生徒会室から出て、廊下を歩きながら考える。
窓から外を見ると、テニス部の練習が見えた。
羨ましく思える、その勝ち気な発言と裏付けされた実力。
それはあの練習が有るから。

「急いで、コートに行かなきゃ」

小さく呟き、小走りになる。
といっても、誰よりも遅い小走りなのだが。



——————



部活も終わり、夕日が眩しくなる時間。
マネージャーの仕事を終えた芙美は、更衣室で制服に着替え、帰る準備をしていた。

そこに、コンコン、とドアを叩く音。


「はい??」


芙美が答えると、思いがけない声が聞こえてきた。

「芙美、今日はあそこへ寄るのか??」

跡部だ。
芙美は何のことか、とは聞き返さず、

「うん、そうするつもり」

とだけ答えた。

「それなら、早くしろ。レギュラー全員で行く」
「はぁ?!」
「来週から都大会だろ、先代の部長と話をするのも、悪くねぇ」

跡部は機嫌良く言う。
芙美が扉の向こうで、げんなりしているのも知らずに。



「アンタとあの人が会うと、口喧嘩が煩いって、私が怒られるんだよぅ」



「はっ、いいじゃねーの」
「呑気なんだから・・・・・・」

そう言いつつも、芙美は微笑んだ。

——たまには、良いかもね

芙美は自分の荷物を持って、更衣室を出た。



——————



金井総合病院。

跡部家のリムジンは、そう書かれた大きな病院の前で止まった。

「ひっさしぶりだな、俺」
「冬以来か??」
「だとしたら、俺ら薄情な後輩だな」

宍戸と岳人が、フロアでそんな会話をする。
隣では売店で長太郎がお見舞いの品を買っているのを、日吉が眺めていた。

「皆、病室変わってないよ、こっち」

バラバラの行動を取るレギュラーたちを何とかまとめ、芙美は703号室に向かった。
通い慣れた病院。
此処に、芙美が足を運ぶようになってから、もう半年ほど経つ。

——時間って、早いんだな

そんなコトを考えながら、芙美は、



“海神隼人”


と書かれたドアを、ノックした。



「どーぞ」



男にしては、少しだけ高めの声で返事があった。
芙美はドアを開ける。

「久しぶり、」

ベットに座っている少年は、芙美の声を聞いて軽く微笑んだ。





「さっそくだけどさ、あれ買ってきてくれる??レモンのガム」





隼人は笑顔で、開口一番に芙美をパシリに使う。
呆れた顔で芙美は反論した。

「普通さぁ、“此処座れば”っとかなんとか言うもんでしょ。お見舞いに来た人には」

芙美は自分で言って自分で椅子をだし、座った。
そう言われても、隼人は1度じゃ引かない。

「芙美は兄妹だろー、良いじゃん、俺1人じゃろくに動けないし」

そう言って、代金を芙美の手に置く。


「たく、調子良いみたいだね。 皆ー、良いよ、おいで」


芙美のその言葉に、隼人はきょとんとする。
そしてその表情は一気に、嫌悪に変わる。



「お久しぶりです、海神“前”仮部長」



跡部の、嫌みったらしい声が聞こえたからだ。

「跡部・・・・・・、お前、久しぶりに顔見せたかと思えば、んなこと良いに来たんだ??」
「俺はそんなにひまじゃねぇ。ただ、例え“仮部長”でも、都大会が始まる報告くらいしねぇとな」
「それがぜーんぶ、嫌味なんだよ、てめぇの場合」

芙美は、心底思う。


——此処が個室で良かった、と。


「あの、これお見舞いです」

長太郎は、花を机の上に置く。

「おぉ、ありがと。2年は利口じゃんか。跡部と違って」
「あーん??そこらへんは抜かりねぇぜ」
「は??」


「ほらよ」

跡部が指をパチン、とならすと、何処から現れたのか果物の入った大きな籠が机の上に。



「でけぇよ、あほべ」



誰にも聞こえない声で、隼人は呟いた。

「ほら、芙美をパシるだろうと思って、これ」

宍戸はガムを手渡す。

「さすが宍戸・・・・・・!!」
「んなキラキラした目で見られても困るっての」
「感謝してんだよ、感謝」






後輩の誰からも、敬語を使われていない、威厳のない先輩ではあるが———
これが、氷帝学園前仮部長、海神隼人だ。