二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re:「愛しき貴方に(サヨナラ)」 ( No.132 )
日時: 2010/10/30 21:57
名前: 空梨逢 ◆IiYNVS7nas (ID: pkkudMAq)

*~「愛しき貴方に(サヨナラ)」~*


「……夢幻、今の」
「御免……ね、神楽、ちゃん」

 すっかり口調の戻った夢幻は、哀しそうな笑みを崩さずに神楽に謝った。謝る事無いのに、と俯いて神楽が呟く。その横に居た和月が夢幻に近よった。

「夢幻ちゃん、ありがとね。その、……助けてくれて」

 一歩下がり、深々と頭を下げる。顔を上げると、夢幻に向かって少し微笑んだ。夢幻は和月の琥珀の様な瞳を真っすぐ見つめ、こくりと縦に首を動かした。其れを見ていた新八が、夢幻に声をかける。

「あの、夢幻ちゃん。あれは……」


 ——『夢幻』
 ——『夢幻、力を解放しちゃ駄目』
 ——『駄目よ、もし解放したら……』

 ——『去るのが、宿命なの』


 哀しそうな母の顔。
 幼くて、言葉の意味が分からなかった私はあいまいに笑ってこう答えたのを覚えてる。大丈夫、わたし大丈夫だよ!と。大丈夫なはずなんて、そんな保証なんてどこにも無かったと言うのに。

 こちらを黙って見つめている桂に夢幻は気付く。黒い、吸い込まれそうな瞳が寂しそうに見えた。どうしたの、と問いかけている様に見えた。

 ……御免なさい。
 私は貴方の問いかけに答える事は出来ません。私は、力を解放しちゃったから。怒りに身を任せてしまったから。お母さんとの約束を、破る訳にはいかないから。


 だから、サヨナラ。ここでサヨナラなんです。

 心の中で桂に語りかけ、届くかも分からない言葉を更に紡ぐ。いつか言える日が来るのかもしれない、大切な貴方に贈る大切な言葉。貴方の元で過ごした時間は短かったけど、こんなにも伝えたい事が在るんだ。

 まず、私を見つけてくれて「ありがとう」。
 そして、大切な仲間に「ありがとう」。
 話せない私と一生懸命話してくれた貴方達に「ありがとう」。

 貴方の優しそうな瞳と、さらさらの髪と、助け起こしてくれた手と。全部全部、忘れません。皆の事も忘れません。絶対に、ね。



「サヨナラ」

 透き通った声が、街角に響いた。


(サヨナラ、サヨナラ、お元気で)


              ———「愛しき貴方に(サヨナラ)」