二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 「鬼さん鬼さん、」 ( No.158 )
- 日時: 2010/10/30 21:58
- 名前: 空梨逢 ◆IiYNVS7nas (ID: pkkudMAq)
*~「鬼さん鬼さん、」~*
見上げる空。瞳に写るのは澄み切った青ではなく、威圧するようにそそり立つ漆黒の戦艦。
前教えられた時、「決して近づくな」と言われた其処に一歩、また一歩と少女が近づいて行く。漆黒に染め上げられた瞳は不思議な光を放ち、唇をぎゅっと引き結んで。
戦艦の前に辿り着くと、強風で乱れた髪を手で押さえる。つっと手を伸ばし、軽く戦艦内に続くと思われる扉を叩いた。
「……あ、の」
「なんスか!今いそがしいっス!!」
イライラした声が響き、ひょこっと不機嫌そうな顔がのぞく。——瞬間、灰色の瞳が大きく見開かれた。チャッと何かが鳴り、細い少女の喉に銃が突きつけられる。
「其れ以上動くなっス!動いたら撃つっスよ!!」
いえ、と少女は声を絞る。銃口を手でずらし、しっかりと女——また子の瞳を見つめて言葉を紡ぐ。
「わ、たしを……鬼兵隊に、入れて……くだ、さい」
+
「どうするんスか」
「どうもこうも無いでしょう。女子供を見捨てたとあってはフェミニストの名が廃ります」
「ロリコンは黙って下さいっス」
ごちゃごちゃと言い争う変平太とまた子をよそに、高杉と万斎は話し合う。見た所、夢幻は普通の少女にしか見えない。何れくらいの実力があるのか、見極める必要があるのだ。
「入隊条件は……そうだな」
何が可笑しいのかくっくっと笑い声を漏らし、高杉は条件を告げた。ぴっ、と夢幻を指差してゆっくりと言葉を紡ぐ。
「また子の獲物、封じろ」
獲物———つまり、また子の武器である銃を封じる。常人が当たればただではすまない。そんな無謀なこと、と声を発する万斎を尻目に高杉は早くやれとつまらなそうに言った。
すう、と息を吸い込み夢幻は構える。また子も腰を落とし、銃をいつでも撃てるように前に突き出す。
「——はッ!」
「はぁっ!」
夢幻の小さな唇から、顔に似合わぬ裂帛の気合いが放たれた。其れと同時にまた子の口からも気合いの声が放たれる。
バァン、と銃声が響き、鉄の弾丸が夢幻の腕にめり込んだ。真っ赤な血が半月状に飛び散り、また子は地面を蹴って間を詰める。
「もらったぁっ!!」
銃口を突き出して撃とうとする……が。
刹那、夢幻の目が紅色の輝きを放つ。長い間戦場で戦って来た戦士の本能の様なものがまた子を戦慄させた。
(コイツ、まだ腕を使えている!?)
回避行動を取った時には遅すぎた。白銀の一条が走り、今度はまた子の腕から血が飛び散った。
静かに腕を止めた夢幻の横に、切断された銃口がぽとりと落ちる。
「……ククッ」
信じられない様な顔で落ちた銃口を眺めるまた子。驚愕で静まり返った船内に高杉の笑い声が響いた。
「面白れーじゃねェか。てめェ、名前は?」
「……夢幻、です」
答えた夢幻の瞳には、静かな決意が光っていた。
(血がお好き?)
———「鬼さん鬼さん、」