二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 「華が咲いたら散らねばならぬ」 ( No.173 )
日時: 2010/10/30 22:00
名前: 空梨逢 ◆IiYNVS7nas (ID: pkkudMAq)

*~「華が咲いたら散らねばならぬ」~*


 ザッザッ、と箒の音が戦艦内に木霊する。鬼兵隊は週代わりで掃除当番を決めており、今日の当番は夢幻だった。
元から凝り性の夢幻は、一つ一つ部屋をゆっくり掃除して行く。効率が悪い作業だが、綺麗好きな夢幻にとって苦では無かった。

「ふぅ……」

 溜め息を一つ付き、次の部屋に向かう。事前に作った表を確認し、少しだけ顔を綻ばせた。表のチェックが付いていない欄の最前列に「また子さん」と言う文字が見える。
 夢幻はまた子の事が結構好きだった。変平太と言い争っている時とかは面白い人だと思うし、さばさばとしていて馴染みやすい。
 また子は自分を倒した夢幻の事をいの一番に仲間として認め、可愛がってくれていた。

 しかし、自分が実は彼女等と敵対している組織に入っていると言う事を思うと夢幻の顔はたちまち暗くなる。
桂や万事屋の皆も大好きだが、情が移りやすい夢幻は鬼兵隊の事も結構好きになっていた。

 (でも、今は気にしてられない)

 首をふるふると振って考えを打ち払うと、夢幻はまた子の部屋に向かった。


「……入り、ます」

 一応声をかけ、障子を開ける。「大丈夫っスよ」と声が響き、また子がにかっと笑った。

「夢幻も真面目っスね。これが終わったらちゃんと休むっス」
「ありがと、ございます……」
「んーな堅苦しくなくて良いっスよ」

 そう言ってまた子はわしゃわしゃと夢幻の頭を撫でた。
 また子の手は、銃を握り続けたせいか固いタコが出来ている。女とは思えない様な固い手には、不思議な暖かみがあった。

 誰かに似てるな、と思い……夢幻は少し笑った。

 (そうだ……こたろに似てるんだ)

 桂も、女みたいに綺麗な手に沢山剣ダコを作っていた。その手で、いつも「良い子だ」と夢幻を撫でてくれた。

 (ああ、こんなにも私は愛されていたんだね)

 ぽろり、と久しぶりの涙が流れる。
 その瞬間、窓を開け放っていた部屋に風が吹き込んだ。飾ってあった花を揺らす。

 花びらが一枚、風に流されて散った。


(恨むまいぞえ、小夜嵐)


            ———「華が咲いたら散らねばならぬ」