二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: 「狂気の満月は紅く染まる、」 ( No.208 )
日時: 2010/11/20 11:54
名前: 空梨逢 ◆IiYNVS7nas (ID: hDs6F9Z9)

*~「狂気の満月は紅く染まる、」~*


 べんべんべん、と三味線の音が鳴り響く。何時もは二重奏を奏でる万斎は今居ない。一曲弾き終わったのか、三味線の音が止んだ。
 ふぅ……っと紫煙が部屋に吐き出される。開かれた窓の外にはやけに大きな満月が映っていた。

「晋助、入るよ」

 少女の声が響いた。高杉の了承の声を待たず、障子を開けて部屋に入って来る。高杉はうっすらと笑い、少女———遊乃に顔を向ける。

「何かあんのか?珍しい」
「うーん、新入の子が気になってね。あの子……」

 遊乃は、唇を吊り上げて笑う。しかし、目はちっとも笑っていない。
 冷酷な夜叉の目———其れは、昔の盟友を思わせた。鋭い朱色の光。遊乃の薄く紅が引かれた唇が開き、言葉が流れる。

「前見た事あんだよね。その時、『こたろ』って」
「へェ……」

 高杉は又紫煙を吐き出し、くくっと喉の奥で笑った。窓の外に目をやり、遊乃に問う。

「んで、おめーはアイツがヅラの仲間だと?」
「そゆこと」

 通じて良かった、とばかりに遊乃は頷く。薄いクリーム色の髪をさらりと揺らし、正座が嫌になったのか足を崩した。
 高杉は尚も窓の外を見ている。


「……いつお姫様を助けに来るかな」

 すっと音も無く立ち上がり、遊乃も満月を眺める。二人の顔は月光に照らされ、白く染まって行く。
 遊乃は高杉の横顔を眺め、ふぅ……と溜め息を付いた。その顔が少しだけ寂しげになり、直ぐに元に戻る。
 高杉が静寂を破った。


「今夜はまた、随分と月がデケーなァ」
「そうだね」

 ジジジ……、と音を立てて行灯の火が燃え尽きた。
 月は尚、静かに光っている。



(何時まで光り続けるのでしょう?)



             ———「狂気の満月は紅く染まる、」