二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
- Re: 「決意」 ( No.215 )
- 日時: 2010/11/20 11:55
- 名前: 空梨逢 ◆IiYNVS7nas (ID: hDs6F9Z9)
*~「決意」~*
月が落ちる。夜が終わる。太陽が昇る。朝が来る。……鬼兵隊の元で、何度この光景を見つめたんだろう。
ぼんやりと空を見上げながら、夢幻は思った。
青を段々薄くして、下の方に少しだけ橙を塗った様な綺麗な空。白い雲が少し浮かんでいる。まるで白い絵の具を絵筆に付け、巨人が気まぐれで線を引いた様。
桂とはあれ以来会っていない。当然だ。自分から別れを告げたのだから。
急に懐かしさがこみ上げて来て、其れと同時にこみ上げた涙を夢幻は手でごしごしと拭った。
やる事も無いので、又空を見つめる。飽きもせずじぃっと。
部屋に満ちていた沈黙と言う空気は、急に取り払われた。
———カンカンカン!
「……あ……!」
夢幻は小さく声を上げる。窓際から離れ、扉を開けようとしたが又窓際へ戻った。
窓に手をかけ、力をこめて窓を下ろす。目をこらして侵入者を見ようとする。……そう、先程の鐘は鬼兵隊の侵入者警報だったのだ。
そして、夢幻は有り得ない光景を目にした。
「どくアル!夢幻は何処ネ!」
鞠の様に跳ね回る何か。赤い服をなびかせ、次々と回し蹴りを鬼兵隊員に決め、尚もこちらに進んで来る。軽やかに跳ねて相手をかわし、傘を突き出して弾丸をお見舞いして行く。
———そう、紛れも無く神楽だった。
目で侵入者を追う夢幻の目が、更に数人を捕らえる。
「どいたどいた!邪魔だよっ!」
「夢幻は何処だコノヤロー!」
「ちょちょ銀サン!ちょ、無茶ですよォォォォ!」
長刀を振り回し、的確に相手を倒して行く和月。同じく木刀を振り、天人を次々に倒す銀時。
二人の少しだけ色の違う銀髪が風に舞い、和月の桜色の着物も風に舞う。背中合わせで戦っている二人は、いかに信頼し合っているかが分かる程息ぴったりだった。
その後ろで銀時を必死で抑制しようとしている新八。時々後ろを振り返っては天人を倒す。
「私、の……ため……?」
元々大きな夢幻の瞳が更に見開かれる。思わず窓を開けて叫びたくなった。私は此処に居るよ、と。
(でも……)
そうしたら鬼兵隊はどうなるの?また子は?いつも面倒を見てくれた人を裏切るの?私なんかが?
考え、夢幻は決断した。
(駄目なんだ)
私は、此処に居ちゃ駄目なんだ。確かに皆優しかった。でも、でも……。
昔大好きな人がくれたあの言葉。
『夢幻、夢幻』
『なーに?現世』
『あたしねー、気付いたの』
『えー?何に?』
『自分のいっちばん好きな所に居るのが、いっちばん幸せなんだよ』
にこっ、と笑顔を浮かべて自分の手を握ってくれたあの人の、くれた言葉が嬉しかったから。自分と一緒に居て、幸せだと言ってくれた。
裏切る事になってしまうけれど、でも……。
「……こた、ろ」
ぽつんと呟いた。そうだ、まだ少し仕事が有ったんだ。
鬼兵隊での最後の仕事。
「また子、さん……。銃、ほら……」
自分の前に、かがみ込んでまた子の二丁銃を置く。何度も何度も磨いて、ぴかぴかになった銃。夕暮れの光を反射して、ぴかりと又光った。
最後に銃をそっと撫で、夢幻は立ち上がる。
「行かなきゃ」
口から漏れた、強い決意の声。
(大好きなあの人の、言葉が有ったから)
———「決意」