二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: ぬらりひょんの孫-永遠ノ唄- ( No.2 )
日時: 2010/09/30 23:37
名前: 向日葵 ◆5tAuYEuj7w (ID: 5bBsNqZt)

序幕.・*

突然、だった。
遥か後方で風を切る様な音がした。
そこは家が軒並みに連なる道だった。

「かか様、今日は風が——」

私がかか様に言おうと思って振り向いたら目の前に、かか様の背中が見えた。
癖っ毛で、特徴のあるミルクティー色の長髪が私の視界を覆う。

グサッ——
と何かが刺さる音がして、恐る恐るかか様を見ると、かか様の背中からは鉄で出来た槍が貫通していて、かか様の朱色の上等な着物に〝アカ〟がじわじわと広がっていく。
私は何が起こったのかわからず、

「かか様…?」

と呟くことしか出来ない。
するとかか様は私の方を向き、苦しそうにしながらも微笑んだ。

「逃げなさい、コウ。」

かか様は言うと、私の頭をいつもの様にくしゃくしゃと荒っぽく、しかし優しく撫でた。

「コウは——、コウは、かか様を置いてはゆけません」

私はきっと、生まれてこの方一番の間抜け面をしていただろう。声は、震えに震えていたに違いない。

「——コウ、妾からの最初で最後の願いじゃ——」

かか様は言うと、その細い身体を貫通している槍を乱暴に、顔を歪めながらも抜くと、私を抱きしめて言った。


    「コウ——、逃げるのじゃ」


生温い血が私の服にべっとりと付いた。
私は怖くなって、滲む視界でかか様の顔をじっと見つめた。
かか様の小さな口からは赤い血が滴り、脂汗は流れ、折角の綺麗な髪が顔にはりついてはいたが、かか様は心からの優しい微笑みを私に向けた。


 「また、次の世で会おうぞ、我が娘よ。

   妾は、コウの晴れ姿を楽しみにしておくでな?」


かか様は名残惜しそうに私にまた笑いかけて、私の背を優しく押した。

——そこで目が覚めた


.・*

「………ヤな夢見た。」

少女は呟くと、ベッドから身体を起こし、布団を畳んで窓を開け放つ。
そこは二階建ての一軒家で、両隣に同じような家がある、普通の住宅街の一角だ。
そんな少女の部屋は、必要最低限のものしか置かれていない。女の子らしさがカケラもない部屋だった。
少女はそんな殺風景の部屋を突っ切り、階段を寝ぼけ眼で落ちそうになりながらも降り、リビングのテレビでニュースを付けて、朝食のトーストをもふもふと食べ始める。
片手には、グラスになみなみと入った牛乳。

『今日未明、浮世絵町、1番街で火事がありました——』

アナウンサーは手元にある原稿を見ながら真剣そうに語りかけてくる。
まあ、こんな記事を愉快そうに笑いながら言う奇天烈な者はいないだろう。

そんなごく普通の彼女の日常はこの日を境に脆く崩れ去ることとなるのだが、この時の彼女は知る由もなく。

えらく幸せそうに焼きたてトーストを、小動物のようにかじかじと齧っていたのだった。