二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ

Re: いろんな愛のカタチ−スキだからだからこそ− ( No.6 )
日時: 2010/10/24 09:35
名前: 扉 ◆A2rpxnFQ.g (ID: TtH9.zpr)
参照: 何時までもキミを離さない。キミという、天使を。






離したら、皆、死んじまうんだな。

別れたばかりのヤツも、隣で笑ってたヤツも、皆。
離せば、もう、逢えない。


だったら、もう。









お前だけは絶対に。










『死亡者の報告だ、青春学園、手塚国光、大石秀一郎。 氷帝学園、跡部景吾——・・・』


すぐには、信じることは愚か、理解すら出来なかった。


「あと、べ?」

さっきまで、隣にいて。
氷帝の奴らを探してくる、そう言って離れた。

「嘘だろ・・・?」

必ず戻る、
いつものあの偉そうな調子で、あの確信させるような眼差しで。
そう、言ったのに。

「何でだよ、跡部・・・ッ!!」

もう、戻ることはないのか?
もう、隣で笑うことは、ないのか?


「クソ、クソッ!」

岳人の頭に、愚問がいくつも浮かび上がる。
でも、誰かに問いかけずにはいられなかった。

———人は、こんなにもカンタンに、いなくなってしまうのか?

あの、跡部ですら。
ただ、離れただけで。

岳人の脳裏に、1人の少女が浮かぶ。
男勝りで、負けず嫌いで、でも優しい。
大切な——



「瑞生——、」



そうだ。
アイツも、瑞生とも。
瑞生とも離れた。

———アイツも死ぬ、のか?

最悪の事態が、頭を駈け巡った。
もう、誰も失いたくない。
離れたこの手を、もう1度繋ごう。
そうしたら、もう。





離さないから。





気がつけば、走っていた。



当たりが薄暗くなり、森は一層気味悪くなる。
この状況だから、警戒心も強くなった。

「何処だよ、此処・・・」

少女は1人、大木にもたれ掛かる。
背中に、寒気が走ったからだ。
瑞生はその場に座り込んだ。

———跡部、死んだんだな・・・。

偉そうでムカツク、あの野郎を思い浮かべる。
なんだか、少しだけ胸に穴が空いているんだ。
次第にキズになり、ジクジクと痛む。

「口を開けば、嫌味しか言わねぇヤツだったのに」

痛みは引かなくて。
それどころか、どんどん増してくる。
無理に塞ごうとすればするほど、膿む。

「何なんだよ、馬鹿野郎」

傷口を塞ぐ薬は無くて。
嗚呼、でも。
1つだけ、痛みを忘れさせてくれる存在。



「岳人、何処・・・?」



アイツがいれば。
側にいてよ、どうして、離れてしまったの?
此処にいてよ、もう1度、手を繋いでよ。







瑞生のこの願いは、思わぬカタチで叶うこととなる。

———誰も、望まなかった、最悪のカタチで。







暗い世界に、黒い影現れた。


「な、に、」

影、ではない。
冷たい、液状のモノが瑞生に掛かる。
刹那。
瑞生に痛みが走った。

「・・・ッ、何だ、コレ、」

血が流れる。
痛みと出血で、世界が歪み出す。

「誰、だ・・・!!」

目の前の人物は問いに答えない。
だが、もう1度、瑞生に向かって日本刀を振りかざした。

「!」

確実に今のままでは負ける。
彼に会うまでは、彼の手をもう1度掴むまでは、死ねないというのに。

———もっかい会えたらさ、また笑ってくれるよな?

逃げて、キミのトコロへたどり着くから。
だから、待っていて。

「ッチ」

ふらつく足取りで、それでも精一杯、走る。
もともと運動神経の良い瑞生は、木と木の間を器用に擦りぬける。
日本刀を持ったまま、奴は追ってくる。
傷が痛む。
心の傷も。
それでも、憩いの彼を求めて。
彼の、手を求めて。



「瑞生!!」



嗚呼、待っててって、言ったのに。

「岳、人、」
「どうした! 何でそんな怪我?!」

岳人は瑞生のもとへ駆けより、身体を支える。
岳人から伝わってくる鼓動は、早かった。

「大丈夫か?!」

———暖かい。

2人は、互いに抱き合う。
そして、互いに誓う。





もう、離さない。





「待てよ」
「なん、だよ?」

誰だ?

抱きしめている瑞生が、急に震えだした。

「逃げ、て、」
「は?」

「逃げろッ!!!」

懇親の力で、叫ぶ。
その一声で、岳人には全てが理解できた。

「逃げるぞ!」

黒い奴は、何処までも追ってきた。
何処へ逃げようと、どう攻撃しようと、何処までも何処までも。
追ってきた。

「クソッ・・・」

後ろは、崖。

「行き止まりだ、観念しろ」

瑞生の体力を考えても、もう無理だ。
戦う、しかないのか?

「・・・」

嗚呼、何やってんだよ。
馬鹿だな、何で好きな奴の足引っ張りまくってんだよ。
離したくない、離れたくない。
それは俺の我が儘だ。
俺の勝手な願いだ。
だけど。

この人の命を捨ててまで、通すような我が儘ではない。
この人を道連れにしてまで、叶えるような願いじゃない。

振り返ると、そこは崖。
ここから落ちれば、死ねる?

「クソ、何だよ、こっち来んな!」

相手に向かって叫ぶ岳人の腕を擦りぬける。
当然、岳人は瑞生の行動に気がついた。

「瑞生?!」
「逃げろ、な?」
「待て!」


大好き、だから。



「俺は、此処で。 サヨナラ、岳人」



暗い闇で顔の見えない敵だったが、瑞生には一瞬だけ、不気味に微笑んだように見えた。

刹那。

瑞生の身体が、崖の向こうに消える。







「瑞生——————」







一歩、一歩でも遅ければ。

「が、くと、」

涙と血でぬれた顔を、瑞生は見せた。
悲しそうに、切なそうに、自分自身を責めるような表情をしていた。
でも、少しだけ、嬉しそうだった。

「——、馬鹿野郎、」

そう呟き、「離せよ、」と一言言った。
力強く、岳人は首を振る。










「もうお前を、離さないって決めたんだよ!!!」











———離さない、お前だけは絶対に。

身体は宙を舞う。
世界は反転する。
風が身体を裂くように刺さる。

気がつけば、地面に叩き付けられる。

「い、た」

生きているのは、奇跡だろうか。

「岳、人、」

瑞生をしっかり抱きしめたまま。
下敷きになった、彼。

「馬鹿、や、ろ———————・・・」


















2人の天使は、離れることなく。
何時までも、何時までも—————————